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塔に監禁され、婚約破棄された『呪われ令嬢』ですが、 最強の将軍に過保護すぎるほど激甘に溺愛されて毎日が大変です  作者: 風間 華


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第14話「罠の夜」

 結婚式まで、あと三日となった夜。

 私は、ワクワクが止まらなくて、

 自分の部屋で白いバラのカタログを見ていた。

 

 どれも綺麗。

 カインさん、喜んでくれるかな…。

 でも、契約結婚だから…。

 喜ぶとかないのかな…。

 胸が、ちくんと痛んだ。

 

 こんこん。

 ノックの音がした。


「どうぞ」

 がちゃ。

 ミラちゃんが入ってきた。


「エリシア様、もう遅いですから、お休みになってください」


「うん、ありがとう、ミラちゃん」

 私は、カタログを閉じた。

「あの…リリアーナちゃんは…?」


「リリアーナ様は、お部屋にいらっしゃるようです」

 ミラちゃんが、ちょっと困った顔をした。

「エリシア様、やっぱりあの方、何か変です」


「変…?」


「はい。何というか…目が怖いんです」

 目が怖い…。


 私も、ちょっと感じてた。

 リリアーナちゃんの目。

 時々、すごく冷たい。


「気をつけてくださいね」


「うん…」

 こくんと頷いた。


ーー

 その頃。

 リリアーナのために用意された、

 豪華な客室の中で、リリアーナが鏡を見ていた。


 鏡に映る自分は、

 今日も完璧だ。


「今夜よ」

 リリアーナが、冷たく笑った。

「全て奪ってやる」


 侍女が、にやりと笑った。

「お嬢様は、本当に悪い方ですね」


 それは、褒め言葉。

「ふふ」

 リリアーナが、鏡から目を離した。


「呪われた姉なんて、不幸になればいいのよ」

 その目が、冷たく光る。

「カインも、お姉様の力も、全部私のもの」


 リリアーナが、小さな睡眠薬入りの瓶を取り出した。

「準備はいい?」


「はい、お嬢様」

 侍女が、恭しく頭を下げた。


「では、始めましょう」


ーー

 夜遅くまで、

 カインは、執務室で書類を片付けていた。


 結婚式の準備。

 リュミエールへの警戒。

 やることが、山積みだ。


 でも——。

 エリシアの笑顔を思い出すと、疲れが消える。

 あと三日で、エリシアが俺の妻になる。

 

 契約とは言え。

 嬉しい。

 早く自分のものにしたい。

 


 こんこん。

 ノックの音がした。


「入れ」

 がちゃ。

 扉が開き、

 リリアーナの侍女が入ってきた。


「将軍様、失礼いたします」


「何だ」

 カインは、冷たく言った。

 この侍女、何か気に入らない。

 目つきが悪い。


「リリアーナ様が、体調を崩されまして…」


 は?


「将軍様に、お会いしたいと…」


「…………」

 

 カインは、顔をしかめた。

 行きたくない。

 だが、客人が体調を崩している。

 放っておくわけにはいかない。

 リリアーナは公爵令嬢。

 邪険に扱うことはできない。


「分かった」

 カインは、立ち上がった。



 リリアーナの部屋を、

 カインが扉を開けると——。

 リリアーナが、ベッドで横になっていた。


 顔が、少し赤く見える。

 苦しそうに、息をしている。


「将軍様…」

 リリアーナが、弱々しく言った。

「来てくださって…ありがとうございます…」


「体調が悪いそうだな」

 カインが、冷たく言った。


 近づくことはしない。

 この娘を警戒しているから。


「はい…急に…頭が…」

 リリアーナが、額に手を当てた。


「医者を呼ぼう」

 カインが、そう言った時だった。


「その前に…少し…お話を…」

 リリアーナが、ベッドから起き上がった。


「お座りになってください」

 リリアーナが、椅子を指し、

 カインは、仕方なく椅子に座った。


 侍女が、お茶を持ってくる。

「どうぞ」


「…………」

 カインは、お茶をチラッと見た。

 飲みたくない。

 でも、断るのも失礼だろう。


「いただく」

 カインは、お茶を一口飲んだ。

 普通のお茶の味。

 特に変わったところはない。


「将軍様」

 リリアーナが、じっとカインを見た。

「お姉様のこと…本当に大切にしてくださいね?」


「ああ」

 カインが、即答した。

「エリシアのことは、大切にする」


「でも…契約結婚なんですよね?」

 リリアーナの目が、鋭くなった。


「どうしてそれを——」

 カインが言いかけた時だった。


 ぐらっ。

 視界が、揺れた。

 うっ、しまった。


「将軍様?」

 リリアーナの声が、遠くなる。

 体が、重い。

 力が、入らない。

 何だ…これは…。


「ふふ」

 リリアーナの笑い声が聞こえた。

 さっきまでの弱々しい声じゃない。

 冷たい。

 恐ろしいほど、冷たい声。


「これで私の勝ちよ」

 リリアーナが、立ち上がった。

 もう、苦しそうな様子はない。

 冷たくて、美しい笑み。


「薬か…」

 カインが、絞り出すように言った。


「そうよ。睡眠薬」

 リリアーナが、にやりと笑った。


「あなたは、私のもの」

 リリアーナが、カインに近づいてくる。

 

 ゆっくりと。

 優雅に。


「お姉様なんかに、渡さない」

 リリアーナの手が、カインの頬に触れた。

 冷たい手。


「やめろ…」

 カインが、必死に抵抗しようとする。

 でも、体が動かない。

 薬が、体中に回っている。


「無駄よ」

 リリアーナが、ふっと笑った。

 そして——。

 カインの体を、ベッドに倒した。

 ずしん。

 カインの体が、ベッドに沈む。


「ふふ、完璧」

 リリアーナが、満足そうに笑った。


 そして——。

 自分のドレスの肩紐を、ずらした。

 胸元が、大きく露わになる。

 豊かな胸。

 白い肌。


 カインは、不覚にも一瞬、顔が赤くなった。

 くそ…。

 意識が、遠のいていく。

 エリシア…。

 俺は…。


「さあ、将軍様」

 リリアーナが、カインの隣に横になった。

 ぴったりと、体を寄せる。

 カインの腕に、自分の体を絡ませる。


「楽しい夜を過ごしましょう」

 リリアーナが、邪悪な笑みを浮かべた。


ーー

 私はベッドに横になって、うとうとしていた。

 夢を見始めていた、その時。


 こんこん。

 ノックの音がした。


 こんな遅くに…?

「どうぞ」


 がちゃ。

 ミラちゃんが、慌てた様子で入ってきた。

「エリシア様!」


「ミラちゃん?どうしたの?」


「将軍様が…」

 ミラちゃんの顔が、青ざめていた。

「将軍様が、リリアーナ様の部屋に入って…まだ出てこないんです」


 え?

 カインさんが…リリアーナちゃんの部屋に…?

 心臓が、ぎゅっと締め付けられた。

「ど、どうして…?」


「リリアーナ様が体調を崩されて…将軍様を呼んだそうです」

 体調を崩した…。

 だから、カインさんが看病に…?

 でも、もう一時間以上経ってるとのこと。

 胸が、もやもやする。


 嫌だ。

 カインさんが、リリアーナちゃんと二人きりで…。


「エリシア様、大丈夫ですか?」

 ミラちゃんが、心配そうに私を見た。


「う、うん…」

 でも、全然大丈夫じゃない。

 胸が、すごく苦しい。


 カインさん…。

 リリアーナちゃんと、何してるの…?

 もしかして…嫌…いやだ…


ーー

 私は、あまり眠れないまま翌朝を迎えた。


 カインさんのことが、ずっと気になって。

 結局、朝方まで起きてた。


 がちゃ。

 扉が開いて、ミラちゃんが入ってきた。


「エリシア様、朝食の準備が…」

 ミラちゃんの顔が、青ざめていた。


「ミラちゃん?」

「………」

 ミラちゃんが、震えている。


その時、


「きゃああああああっ!」

 廊下から、大きな声が聞こえた。

 リリアーナちゃんの侍女の声。


「大変です!大変です!」

 侍女の叫び声が、要塞中に響いた。

「将軍様とリリアーナ様が!」

 

 ああ、やっぱり、こうなってしまったのね。

 カインさんと…リリアーナちゃんが…


 私の心臓が、ばくばく鳴った。

 嫌な予感しかしない。

 

 私は、ベッドから飛び起きた。


「エリシア様!」

 ミラちゃんが、私を止めようとする。

 でも、私は走った。

 廊下を。

 リリアーナちゃんの部屋に向かって。


 カインさん…。

 カインさん…!


 リリアーナの部屋の前。

 たくさんの人が集まっていた。

 兵士たち。

 レオンさんも。

 みんな、騒然としている。


「エリシア様!」

 レオンさんが、私に気づいた。

「来てはいけません!」


「どうしたんですか!?」

 私は、必死に聞いた。


「それは…」

 レオンさんが、言葉に詰まった。

 

 その時——。

 部屋の扉が開いた。

 リリアーナちゃんの侍女が出てきた。


 そして、にやりと笑って

 私を見た。

 邪悪な笑みだった。


「エリシア様」

 侍女が、わざとらしく驚いた顔をした。

「大変なことになりました」


「どうしたの…?」


「将軍様が…リリアーナ様を…」

 侍女が、大きな声で言った。


「無理やり…」

 その言葉に、周りがざわついた。

 

 え?

 無理やり…?

 カインさんが…?

 まさか…。


「そんな…」

 私の声が、震えた。


 その時だった。

 部屋の中から、カインさんが出てきた。

 髪が乱れている。

 服も、少し乱れている。


 そして——。

 その後ろから、リリアーナちゃんが出てきた。

 ドレスの肩紐が、ずれている。

 髪も、乱れている。


 そして、涙を流している。

 完璧な、可哀想な被害者の顔をしている。


「お姉様…」

 リリアーナちゃんが、私を見た。


 涙で濡れた顔。

「ごめんなさい…」


 その瞬間。

 私の信じていた世界が、ぐらっと揺れた。



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