【3】神託と使命のはざま…聖域で下されるズッ友香水粉砕の決意。
天上界。
輝ける玉座の前にて――
私、大天使ガブリエルは、ひざまずき、神の御言葉を待ち受けていた。
静寂を切り裂くように、神は低く告げられる。
「ガブリエルよ……。そなたに伝えねばならぬことがある」
「はい。この身を賭してでもお聞きいたします」
「……ルシアンは、悪しき行いをしておらぬ。だが……その……」
神は一瞬、言葉を選ばれるように沈黙した。
私の恩寵が図らずしも、揺れる。
神が躊躇なさっている、とは!?
そして、重々しく告げられた。
「……ガブリエルよ。そなたに――
一瞬の“臭気”を与えよう」
私は大天使らしからぬ、喜びの声を上げてしまっていた。
「な、何と恐れ多い御恩寵!!
私は今、喜びに打ち震えております!!」
次の瞬間、神は御手を振り下ろされた。
私の目に映ったのは…毒々しい香水の瓶。
そして
――プシュー。
噴霧に包まれる。
「ぐっ……!こ、これは……!?おお神よ……!!」
私は崇高なる使命を果たす喜びに酔いしれ……その場で、バタンと倒れた。
私の前に静かに佇む、ルシアン。
私は大天使ガブリエルとして――
部下の大天使の報告書は隅から隅まで読んでいるし、何なら全てを暗記している、が。
今なら、分かる。
神のいと高き"躊躇"の意味を。
――なんて切り出そう…?
ルシアンは悪いことをしていない!
分かる!
地獄の王、ルチアーノも礼節をわきまえている!
分かる!
しかし…あの臭い…
臭いなんて数千年ぶりに嗅いだか…あれは…聖なる祈りを捧げる無垢なる魂を持つ人間に、供物として渡してはならない!絶対に!!
「……ルシアンよ」
「はい。ガブリエル様」
「その…地獄の王ルチアーノの供物だが…」
「はい。ガブリエル様」
―――そんな清らかな目で私を見るなっ!
「臭いから人間には迷惑なんだ!」……違うな…
「聖なる供物として人間に与えるな」……これも、論破されちゃうよな〜…
「地獄の王と親しくするのは…」……おっ!いけそう!!
「ルシアンよ。
最近、やたらと地獄の王、ルチアーノとの接触があるな?」
「はい。報告書の通りに」
……ぐぐぐ。それを言われると…その時指摘しなかった理由を聞くまで諦めないからなー大天使は…!!
……ハッ!これなら!
「……そなた、なぜルチアーノの感情を受け入れた?」
「…感情で、ございますか?
ルチアーノの気持ちについては、『分からない』と報告いたしました。
それ以上でもそれ以下でもございません。
天使は供物を受け取れないことを、どうやら地獄の王でも分かっておらぬ様子…。
ですから私は―――」
―――長い!!長いわ!ルシアン!
人間の時間で40 分も地獄の王の行動をそんなに細かく説明せんで良い!!
あー……ルシアンにも臭気があればなあ…
だが、あの神のご判断は、このガブリエルだからこそ受けられた試練と御恩寵の証…
神はルシアンには臭気は与えまい…
って…まだ喋ってるのか…ルシアンよ…
……ん!?
そうだ!!
「ルシアン、細部に渡った説明を私がありがたがるととでも?
私は大天使ガブリエル…。
そなたの報告書は網羅しておる」
厳かに響くガブリエルの声音に、ルシアンがひれ伏す。
「……これは!
ガブリエル様の御心を顧みず、出過ぎた真似を…!
では私の懺悔の祈りをお聞き下さい…!」
「……いや。良い」
懺悔、だとう!?
それこそ何時間もかかるではないか!!
……お前の話は、もう聞きたくないんだよ!!
「ガブリエル様!?」
「ルシアンよ。そなたの大天使としての苦悩、聖なる供物への正義、私は理解しておる。
だが、地獄の王の理解しがたい気持ちをこの私が直に感じたとりたいと思うのだ。
……天界のためにも」
ルシアンの瞳から歓喜の涙が零れる。
「おお!大天使ガブリエル様が自ら出向かれるとは…!
では、あの地獄の王が現れた瞬間にお出まし下さい!」
「勿論だ。下がれ」
「はい」
一礼して飛んでゆく、ルシアンの神々しい翼を見ながら……
「ルチアーノ…この私がお前の香水を止めてみせる!」
そう固く決意し、天上の光を背に舞い上がる私、大天使ガブリエル。
だが――その頃、人間界の片隅。
原宿のカフェには、ギラギラしたイタリアン顔の男と、ソーダフロートを飲みながら退屈そうにスマホをいじるギャルの姿があった。
まさかこの出会いが、さらなる「悪臭騒動」の幕開けとなるとは――
まだ誰も知る由もなかったのである。
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