第46話 皮肉な導き
高坂さんが日本の龍神信仰の総本山、神羅儀神社の宮司の息子?
思ってもみなかった事実の発覚に言葉を失う。
動物大好きお菓子大好き、陽キャでたまに抜けてるけど、大事な時は支えてくれて一緒に悩んでくれた人。
シオガ滞在中ではなくてはならない人だったけど、まさかそんな事情を背負っていたなんて。
「…最初から、知ってたんですか?」
小声で絞り出すように高坂さんが口を開くと、斎藤さんは軽く頷いた。
「もちろんです。シオガの派遣前にお二人の身辺調査を行ったと言ったでしょう?その時にあの神羅儀神社の直系が来たと課内で話題になりましてね」
その後を、堀江課長が淡々と続ける。
「かつてない龍声紋を持つ巫女と日本の龍神信仰の系譜を受け継ぐいわばサラブレッド、この二人が揃うなんて奇跡だと思いましたよ。龍神様のお導きでしょうかね。まあ、私は無宗教ですが」
「…」
言葉がでない。
「早川さん、これが高坂さんが初対面から龍に好かれてた理由ですよ。古くから受け継がれた龍神神社の血統に、龍は引き寄せられたんでしょうね。
……ご本人は言いたくなかったみたいですけど」
高坂さんは、相変わらず厳しい顔をして黙っている。
私は必死で最初の会議の時のやり取りを思い出した。
「確かあのとき高坂さんは、近所に龍を祀ってる神社があって雨乞いをするって言ってたよね。龍はいないから形だけになってるけどって…あれは高坂さんのご実家の話?」
高坂さんはこちらを見ずに、ゆっくりと頷く。
「実際、高坂さんにシオガに行っていただいたのは龍への影響力を測るためです。まさか初対面から龍が心を開くとは想定外でしたが、これが血統の力かと納得しました」
斎藤さんは満足そうに話を続ける。
「シオガ側には高坂さん派遣の真の意図は伝えてなかったんですよ。あちらには関係ないですしね。だから最初リョウガさんは高坂さんに冷たかったんでしょう」
……もう、全てが繋がっていく。
最初から全部仕組まれていたんだ。
長い沈黙の後、高坂さんが口を開いた。
「俺に何をさせたいんですか?」
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高坂さんは硬い表情を崩さない。
いつになくこわばった表情に、私はなにも言えなかった。
この人は何を抱えてるんだろう。
「高坂さんはご実家とは縁を切られてるようですね。何があったかは分かりませんが、今回の祷雨計画を行うには、神羅儀神社の協力は必須です。
今の宮司、高坂さんのお父様はもちろんですが、実際にシオガで龍にふれあい、祷雨を目の当たりにした高坂さんなくしては今回の計画は動きません」
「ですから、俺に何を?」
斎藤さんの口調は、相変わらず淡々としている。
「シオガから神羅儀神社の龍穴を通じて、龍が日本に来たのは400年前です。それだけ龍穴が閉じられていれば、再び龍が呼べるのか、実際に祷雨を行うかの以前にそれを確かめる必要があります。今の宮司様はどちらかと言うとそれには消極的、はっきり言うと龍穴開放に反対ですよね」
「……」
「そのあたりが、お父様との確執に関係してるのかは分かりませんけど」
「父は…」
高坂さんは、苦しそうに小さい声で語りだした。
「確かに神社の宮司としては、すごい人だと思います。父が宮司になってから縁結び成就のご利益を打ち出して、正直参拝者が減っていた神羅儀神社をあっという間に観光スポットにしてしまった。
いまや神羅儀神社が龍神信仰の総本宮だと言う認識は薄れ、本来の高羅儀神をお参りする参拝客はわずかです。俺は…龍神信仰の総本宮としてそのあり方はいいのか、ずっと疑問でした」
高坂さんの告白は続く。
「だから、父から今の形で神社を継ぐように言われたのがどうしても受け入れられなくて、家を飛び出したんです。龍神は言い伝えかもしれないけど、龍は本当にどこかにいるかもしれない。それを調べるために、動物関連の仕事に就きました。今回のシオガ派遣の求人は、まさに俺が求めていたものだった。動物飼育の経験がやっと実を結んだと思って嬉しかったんです」
そこで高坂さんはフッと自嘲的に笑った。
そんな笑い方を高坂さんがするなんて、思ってもみなかった。
「でも結局俺が採用されたのは、その神社の血筋だったからなんですね。とんでもない皮肉だなと感じました」
火曜金曜19時更新予定
高坂さんと実家の神社との確執。
信仰かビジネスか、神社も色々あるのではと想像して書きました。




