第45話 隠された繋がり
「龍はいますよ。正確には呼ぶんですけどね。シオガから」
一切笑顔を崩さないまま、淡々と話す堀江課長。
シオガから龍を呼ぶ?
そんなことできるの?
「実は、昔は日本でも何回か祷雨は行われてるんですよ」
斎藤さんの言葉に驚く。
「そうなんですか?」
「文献には、いくつも龍が雨を呼ぶ儀式の記述があるんですよ。現代の落としどころは、竜巻を龍に見立てたんだろうと言う説が有力ですけど、実際の龍を描いた絵も残ってます。ただ最後に行われたのは、400年以上も前のことらしいですけど」
「……」
「日本にも昔から龍神信仰がありますよね。龍は水の神を司り、雨を降らせると言い伝えられています。……前にそう仰ってましたよね?高坂さん」
突然話を振られ高坂さんは、ビクッと体を震わす。
らしくない高坂さんの反応に驚いた。
どうしたんだろう。
「ずっと黙っておられますけど、仰りたいことがあるんじゃないですか?」
「……」
高坂さんは答えない。
何なんだろう。
高坂さんが何も言わないので、仕方なさそうに斎藤さんは続ける。
「日本とシオガは、祷雨を通じて昔から交流があったんですよ。そもそも祷雨の巫女は、日本人女性にしか務まらない。龍声紋は日本人女性特有の波長ですし。
日本はシオガに巫女を派遣し、技術発展をサポートする。シオガからは龍とシオガの女性を数人派遣する。そうやってお互いに協力しあい、祷雨は行われてきたのです」
…そう言えば、最初の会議でリョウガさんが、昔から日本とシオガでは交流があったと言っていたことを思い出した。
それがここで繋がるなんて。
「シオガが130年前に祷雨を禁じると判断してからは、協力関係も変化してきてましたけどね」
ここまで言って、斎藤さんは少し笑った。
「なので私が『祷雨をシオガで復活させ、他国への威圧の実績として残せたら、日本の防衛に使えるのでは』と堀江課長に進言したんです。堀江課長は、真っ先に背中を押してくださいました」
斎藤さんの言葉に、堀江課長は相変わらずの笑顔のまま深く頷いた。
「歴史にほぼ埋もれていた祷雨を、そのように使えると提案した斎藤さんには脱帽しましたね。その手があったかと」
笑顔だけど、口調は笑ってない。
そのギャップがひどく不気味で、思わず背筋が寒くなる。
「シオガでは祷雨を制裁として行おうとしたようですけど、私たちは兵器として使うつもりはありません。あくまで干ばつに苦しむ国に、雨を降らせることが第一の目的です。
ハウエンでも祷雨で国民が喜んでたんでしょう?日本もそれと同じことが行えるんですよ。
誰かを救うために行う、それが日本の祷雨計画です」
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誰かを救うために行う祷雨…
でもその真意は、他国へ威圧し防衛力を高めること。
言っていることは間違ってはないと思う。
日本のためという理屈においては私は反論できない。
でも、でも…なんか納得できない。
セイランさんがあんなに反対していた祷雨、それを現代世界で行っても大丈夫なんだろうか?
「…日本に龍を呼ぶって、本当に可能なんですか?」
考えをリセットするため話題を変えて、私は疑問に思っていることを尋ねた。
本当にそんなことができるんだろうか。
「理論上は可能です。早川さんは神羅儀神社はご存じですか?」
その言葉に、隣の高坂さんが息を飲む音が聞こえた。
さっきから、高坂さんの様子がおかしいのは何なんだろう。
そして、神羅儀神社…
カムラギという音にも聞き覚えがある気がする。
「…確か関西の方にある古い神社ですよね。願い事が叶うと有名だとかで、友達が参拝に行ったと言ってましたが…」
「そうですね。今は縁結びや願望成就のご利益があると有名ですが、実は日本最古の水の神様である高羅儀神を祀っていて、日本の龍神信仰と最も深い関わりがあります。そしてそこには龍穴と呼ばれる、龍の通り道があります。そこと繋がっているのが、シオガのカムラギ山地」
「…!」
カムラギ山地と言われて思い出した。
カーランティで唯一龍が繁殖し、龍合地がある場所だ。
「高坂さん、まだ何も仰いませんか?」
隣で黙りこくっている高坂さんに斎藤さんは声をかけたけど、相変わらず高坂さんは微動だにしない。
「私から言ってもいいですか?」
しばらくの間を置いて、高坂さんはゆっくりと頷いた。
「…分かりました。早川さん、高坂さんは、…神羅儀神社の宮司の息子さんなんですよ」
火曜金曜19時更新予定
ここで高坂さんの身元が明らかになりました。
龍に好かれてた理由がここに繋がります。




