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第43話 変わったもの、変わらないもの

初めて斎藤さんと会った時から、祷雨とううは日本の国益になると言われていた。


その具体的な話はいつもはぐらかされてきたけど、ついにそれが明かされるのか…


「その話は、今するんですか?」


「いえ、今日はもうお疲れだと思うので、日を改めて説明の場を設けたいと思います。そのときは私の上司も同席しますので」


「上司…?」


「はい、私の肩書きは国際安全保障政策課、課長補佐ですから。これからの計画の責任者は私の上司、課長の堀江ほりえになります」


…なんだか、どんどん話が大きくなってる気がする。


斎藤さんはあくまでこの話を受けるかどうかは私次第のように言っているけど、断らせないような圧を感じた。


この人は日本のことに関しては、とんでもなく冷徹になれる人だったことを思い出す。


「…分かりました。お話をお聞きします。高坂さんはどうする?」


隣に座ってる高坂さんに声をかけると、高坂さんも複雑そうな顔をしながらも頷いた。


「…俺も行きます。いつ集まればいいですか?」


しばらくの間、斎藤さんは手元のタブレットを操作しながら何かを確認していたけど、ふと顔を上げてこちらを見た。


「来週水曜日、朝10時はいかがですか?この時間なら堀江も私も時間が取れます。場所はいつもの五菱の会議室で」


その言葉に、私も高坂さんも頷いた。


「分かりました」



─────────────────────




私たちを乗せた車は出発した時と同じ、あの五菱本社に戻ってきた。


車から降りるときに、高坂さんが大量の荷物を下げているのが気になって「それ何?」と聞くと、高坂さんはいつもの人懐っこい笑顔を浮かべた。


「お土産!シオガの食べ物美味いからさ。日持ちするお菓子を友達や後輩に配ろうと思って」


「シオガのものを他人に配るのは厳禁ですよ」


斎藤さんに釘を刺され、高坂さんは「え?」と一瞬固まった。


「当たり前でしょう。シオガ、およびカーランティ関連のことは口外禁止の機密なんですよ。基本、あちらのものは持ち込むなと契約書に書いてあったはずですが。全部没収です」


斎藤さんに注意されて、高坂さんはみるみる落ち込んだ。


「そんなあ…こんなに買ったのに」


そんな高坂さんをよそに、斎藤さんは私にも確認してきた。


「早川さんは?何も持ち込んでませんよね?」


「私は、…これだけです」


私はいつも肌身離さず持ち歩いている、小さな袋を取り出した。


「それは?」


中に入れているものを出して見せる。


それは4~5センチほどの薄い青色をした透明のもの。


メイリンの鱗だ。


ハウエンの祷雨からずっと持ち歩いているけど、まさかこれも没収されるのかな?


ドキドキしながら斎藤さんの反応を待つ。


斎藤さんは表情を動かさなかったけど、しばらくして一つ小さなため息をついた。


「…さすがにそれは取り上げられませんね。誰にも見せないとお約束できるなら、お持ちいただいて構いませんよ」


よかった…!


「ありがとうございます…!」


私は、袋ごとメイリンの鱗をぎゅっと握りしめた。



────────────────────



シオガへ旅立った時と同じキャリーケースを抱え、約半年振りに自宅へ帰ってきた。


大家さんにはあらかじめ半年ほど海外へ行くと伝え家賃を前払いしておき、たまに部屋の様子を見てほしいとお願いしていたので、久しぶりに部屋へ入っても空気がこもってる感じはなかった。


多分大家さんが、たまに換気をしてくれてたんだと思う。


テーブルの上に置いておいたスマホを充電し、久しぶりに電源をいれる。


するとおびただしい量のLINEとメールが来ていた。


妹のヒロミや両親、何人かの友達にはあらかじめ連絡が取れなくなることは伝えていたけど、それでもこんなに連絡って溜まるんだなと思った。


ほとんどがお店の営業メールやメールマガジンだったけど、早めに連絡を返した方がいい人には返事が遅れたことを謝罪して、返信していった。


そしてヒロミと両親にも帰ってきたことを連絡すると即ヒロミから返信が来て、次の日会うことになった。



久しぶりに会うヒロミはほとんど変わりはなく、その笑顔を見てようやく帰ってきたことを実感した。


来年の結婚式の会場はもう押さえたとのことで、今はドレスの試着巡りに忙しいらしく、いくつかの候補の写真を見せてくれた。


前だったら「結婚か…」と胸がざわついていたはずなのに、今は心の底から「綺麗だな」と思えた。


私が参加できなかった親族の食事会も滞りなく終わり、お互いの両親もうまく打ち解けていい雰囲気だったらしい。


姉は海外で仕事をしているから今回は欠席ですと伝えると、相手方は特に不信感も持たなかったようで、そこも安心した。



海外の仕事の話は機密で話せないんだと伝えるとヒロミはあっさりと納得したけれど、ふと黙ってじっと私の顔を見てきた。


「何?何かついてる?」


「お姉ちゃんさあ、なんか感じ変わったよね」


「そ、そう?」


自分ではよく分からないけど、何か変わったのかな?


「うん…、何て言うか、かっこよくなったよ」


予想外の言葉に苦笑する。


「そう?」


「うん、なんか余裕を感じるし、落ち着きも出てるよね。海外でいろいろあったんだろうなって分かるよ」



「…まあ、そうだね…」



ヒロミの言葉に、思わずスカートのポケットに入れているメイリンの鱗をぎゅっと握った。



火曜金曜19時更新予定


ジワジワと逃げられないアユミ。

そして戻ってきた現実、変わらない妹、変わった自分。

次は新たな展開の始まりです。

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