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第40話 未来をひらく者たち

「私の意見を言ってもいいかね」


張り詰めた会議室に響いたのは、カレイ博士の声だった。


「カレイ博士?」


ここでカレイ博士が発言するのが意外だったらしく、リョウガさんは少し戸惑いを見せながらも続きを促した。


「私は政治的な戦略については口を出せる立場ではない。でも気象の学者として、伝えておかねばならないことがあってね」


前回とは違うやや落ち着いた口調でそう言いながら、手持ちの鞄から何枚かの資料を取り出し私たちの真ん中に置いた。


「私がこの間、ベルデン湖で調査を行っていたのはご存じでしょう?」


「はい。結構時間をかけておられましたね」


「そこで興味深いことが分かりましてね」


言いながら資料の一部を指す。


専門的な用語や数値が並んでいてよく分からなかったので、カレイ博士の説明を待った。


「実は私はベルデン湖の湖底の地層の調査を行っていてね。通常は年に数ミリしか堆積しない湖底の泥が、ある年代の層だけ数十センチの厚さで発見されている。それが2000年前あたりです」


2000年前?


その言葉に、いつも会議中はうつむいてるセイランさんが顔を上げた。


「この地域で大規模な土砂流出があった痕跡です。通常の降雨ではあり得ない厚さでした」


みんなの注目を浴びながらも、カレイ博士はマイペースに話し続ける。


徐々に以前にように、少し口調が早口になっていった。


「私は他国で懇意にしてる、いくつかの研究施設にも調査を依頼していてね、その答えがちょうど出揃ったんですよ。

面白いことに、約2000年前にシオガ周辺では異常な長雨の痕跡が見つかった一方で、同時期には遠く離れたクリムナ地方では、記録的な高温と干ばつが発生していた形跡がありました。当時の湖底からは急激な水位低下を示す層、干上がった湖の底で生き延びた耐乾性植物の花粉、そして大規模な森林火災による炭化物質が検出されたんです。そのような結果が、世界各地で見つかっている」


そこまで早口で一気に喋って一息ついた後、カレイ博士は周りを見渡して、少し話すペースを落とした。


「要は何が言いたいかと言うと、約2000年前に世界的に異常気象が起きていたことが、科学的に証明されたわけです」


セイランさんは目を見開いて、カレイ博士を見つめている。


そんなセイランさんの視線を受け止めながら、カレイ博士はニコッと微笑んだ。


「そちらの青年が、2000年前の異常気象について指摘されていたのでね。気象学者としては、どうしても解明したくなってしまったんですよ」


言葉を失っているリョウガさん、そしてウラジオ国王にカレイ博士は語りかけた。


「先ほども言いましたが、政治的戦略については私は口は出せません。ただこういう結果を得た科学者としてはっきり申し上げますが、ーー祷雨とううは行うべきではありません」




─────────────────────



カレイ博士の言葉を受けて、黙り込むリョウガさん。


その場にいる誰も言葉を発しなかった。


祷雨の巫女の拒否、そして気象学者からの科学的見地、今回推し進めようとしていた二回目の祷雨が否定されることを、シオガは考えていなかったのかもしれない。




「…ウラジオ様、リョウガさん、私は前から思っとったんだが」


再びセイランさんに目をやりながら、カレイ博士はおもむろに続ける。




「彼のように優秀で見込みのある若者を身分で切り捨てる、……そんな国に、未来はあるのかね?」





長い沈黙の後、ずっと黙っていたウラジオ国王が口を開いた。


「……分かりました。二回目の祷雨は中止します」


「ウラジオ様、ですが…」


「リョウガ、おまえの言い分も分かる。でもアユミさんの意見、そしてカレイ博士の知見を私は無視できない。オルク国への対応は、また別の方法を考えよう。ーーそして」


ウラジオ国王は初めて、セイランさんに目をやった。



「他のことも、検討しないといけないかもしれませんな」




─────────────────────




そうして会議が終わり、ウラジオ国王の退室を見送った後、カレイ博士がセイランさんに話しかけていた。


「セイランさんと言ったかね?よかったら今度、私の勉強会に参加しないか?」


「え?」


突然の提案にセイランさんは、キョトンとしていた。


「私の勉強会は気象にとどまらず、いろんなことを学びたいと思ってる人たちが年齢、身分、性別関係なく集まっているんだよ。いろんな立場の人たちと意見を交わすのは、本当に楽しいぞ。君にとっても、いい刺激になると思うんだが」


「…いいんですか?私が参加しても」


「もちろん。是非参加してほしい。私は君のような食えない若者が大好きなんだよ」


「カレイ博士は私が古文書のことを言い出してから、ずっと研究してらしたんですか」


「そうなるね。調査途中の曖昧なことは言えないから、この私が黙ってるのは大変だったよ」


しばらく考えてから、セイランさんは今まで見たこともないような笑顔でフッと笑った。


「カレイ博士って、ーー相当タヌキですね」


それを聞いて、カレイ博士はニッコリと笑った。


「最高の褒め言葉だね」




火曜金曜19時更新予定


早口オタクにしか見えなかったカレイ博士ですが、最後に締めてくれました

セイランとも相性良さそうですね


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