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第34話 幸せのかたち

祷雨とううを成功させなければいけない理由があった…


それを聞いてセイランさんの言葉を思い出す。


やっぱりシオガ国としての大きな思惑があったのかもしれない。


思わず考え込む私に、ユイさんはふふっと笑って話を続けた。


「と言っても、この話は受け売りですけど。掃除担当の女性のリノさんっているでしょう?あの人は歴史を調べたり文献を読むのが好きで、図書館に行ったり本を買い集めたりしてたんだそうです。

でも女性がそういうことに関して発言すると、煙たがられたり、はしたないって言われるので、ずっと言えなかったって。でもこの機会にってしゃべってくれました」


そうなんだ…


リノさんは、ちょっとふっくらしててきびきび働いてる可愛らしい感じの人だ。


リノさんのお陰でこの宿泊舎はいつもごみ一つないし、窓ガラスもピカピカに磨き上げられている。


「やっぱり、シオガってその…女性には生きづらい国なんですか?」


こういうことを聞いていいのか、分からないながらも、おずおずと聞いてみるとユイさんは


「人によると思います」


とあっさりと答えた。


「え?」


想定外の答えに思わず聞き返すと、ユイさんはちょっと考えを巡らすように目線を上に向けながら答えた。


「特にうちの第一夫人はそうなんですけど、女性の幸せは家庭を守り夫に尽くすことだと信じて疑わない人です。

だから私が王宮で働くと言ったときは驚いてたんですよ。夫が守って養ってくれるのに、なぜわざわざ働くのかって」


…なるほど。


日本でも働きたい女性もいれば、家庭に入りたい女性もいる。


女性の幸せって、一つに決められないものなのかもしれない。


「私自身はそんなに身分の高い家の出身ではないんですけど、それでも政府関係者である夫と結婚して生活は安定しました。

なので女性は結婚さえすれば生活の保証はされますけど、逆に男性も大変だと思います。結婚しないと半人前と思われるし、そして妻を持てば養う義務が生じますし。

そもそも身分が低ければ、もうそこから抜け出すことはほぼ出来ないですから」


最後のその言葉は、まさにセイランさんのことだ。


セイランさんのように差別され、仕事も結婚も制限を受けている男性は少なくないのかもしれない。


自分の意見は言えないけど、夫に守られ安定した生活を送る権利が平等にある女性。


女性より権威や有利さはあってもそれなりの義務を持たされ、生まれた身分で人生が固定されてしまう男性。


どっちが幸せかなんて、分からない。


本当にシオガに来てから、価値観が揺さぶられることばっかりだ。


そう思ってたら、ユイさんが慌てたように立ち上がった。


「やだ、もうこんな時間。今日は私が夕飯係なのでもう帰らないと。子供たちがお腹を空かせてしまうので」


「ごめんなさい。また長く引き留めてしまって」


仕事時間を越えて相手をさせてしまったことを謝ると、ユイさんは「いえ」と首を振った



「また夫に喋りすぎだって怒られますね。でも」



少し間を空けて、ユイさんはにっこり笑った。



「もう怖くないですけど」




─────────────────────



ユイさんが部屋を出ていったあと、しばらく呆然としていた。


昨日まで部屋に閉じ籠ってたのに、今日はいろいろあった気がする。


いろんな情報が入ってきてパンクしそうだけど、あのハウエンの祷雨がいろんな人に大きな影響を与えたのは分かった。


祷雨はハウエンを救いたい思いだけで行ったけど、本当にやって良かったのかな。


ユイさんたちは良いきっかけになったと言ってくれたのが救いだけど、別の側面では利用されたのかもしれないと思うと気が重くなる。


何のためにメイリンの命を犠牲にしたのかと考えるととてもつらくて、胸が痛い。


本当に正解が分からない。


夕飯までしばらく時間があるから、しばらく思考停止して仮眠を取ることにした。




コンコンとドアがノックされる。


目が覚めると20時を過ぎていた。


体が重い。

頭がまだ眠気に引きずられていて、現実感が薄い。

ドアのノックが遠くの世界から響いてきたように感じた。



もう一度ノックの音がして、ドアの外で斎藤さんの声がした。


「早川さん、大丈夫ですか?夕食時に食堂に来られなかったので…」



次は斎藤さんか…


でも確かに、昨日斎藤さんから龍合地へ行くように提案されたのに、その翌日からまた部屋に閉じ籠ったように見えてるだろうから、心配をかけてしまってるかもしれない。


ノロノロと体を起こしドアを開けると、斎藤さんが心配そうな顔をして立っていた。


斎藤さんは何を考えてるのか分からないことが多いし、何らかの秘密がありそうだけど、でもこうやって気遣ってくれるところは優しいと思う。


「すみません、ちょっと疲れがたまってたみたいで、仮眠を取ってました」


すると斎藤さんは、少しホッとしたみたいだった。


「そうでしたか。龍たちは元気そうでしたか?」


「はい、メイリンは…もういないですけど、ライタンやサンライたちはいつも通りで安心しました」


「それなら良かったです。また龍合地へ積極的に通われると良いと思いますよ」


それだけ話して、斎藤さんは「お休みなさい」と言って、隣の斎藤さんの部屋の中に消えていった。


龍と積極的に会うことは、私の気分転換になるから勧めてくると考えられなくもないけど、もしかしたらまた何らかの思惑があるんじゃないか?と疑う気持ちも消えなかった。


二回目の祷雨がもしかして控えてるのなら…と考えると、胸がつまる思いがする。



でも今日は疲れ果ててしまった。


もう何も考えたくない。



けれど、ずっと心の奥でうずく問いが消えない。


斎藤さんは、なぜ祷雨を復活させたのか。


あの笑顔の裏に、何が隠されているのか。



今回のプロジェクトで斎藤さん、そして日本政府の思惑は何なんだろうか?


火曜金曜19時更新


祷雨は制裁の道具にもなりうるし、女性たちの目覚めのきっかけにもなる。

物事のいろんな側面を表現してみました。

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