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第32話 祷雨の裏側

どんなに優秀でも努力をしても、身分の低さのせいで理不尽な思いをして来たセイランさん。


現代日本では考えられない状況に、私も高坂さんも言葉が出なかった。


「すみません。話がそれました。お伝えしたいことはこれではないです」


セイランさんはすぐに落ち着きを取り戻し、いつもの冷静な口調で話し始めた。


「ハウエン国の雨が、まだ止んでないですよね」


その言葉に、はっとした。


そうだ、私は130年前の祷雨とううの実態と、ハウエンの雨がこれからどうなりそうなのか、それを聞きに来たんだった。


セイランさんは淡々と続ける。


「130年前の祷雨では、雨は1ヶ月以上続いたそうです。さすがにそれだけ降ると、どんなに乾燥していても洪水が起こります。

木が枯れていたら特に山は保水ができないから、その時は大規模な土砂災害が起きて、多くの土地が流されたそうです。

いつ止むか分からない雨になす術がなくて、それで祷雨は危険だと判断されたんです」


「それは記録に残ってるんですか?」


「はい。ただ130年もたつと人の記憶と興味が薄れて、ただ祷雨が危険だという意識だけが残ってたんです。でも今回祷雨計画が復活して、都合の悪い書類が書庫に移されたんです」


そこまで聞いて、あれ?と少し気になったことがあった。


「でもリョウガさんが『権威ある気象学者によると、今の治水技術では洪水の問題はない』って言ってましたよね?」


セイランさんは、苦々しい表情をして頷いた。


「はい。気象学者のカレイ博士の見解では、130年前の降水量から判断すると、現在の技術ではハウエンの洪水は対応可能だと判断したみたいです。…あくまで理論上の話ですが」


ちょっと不安だけど、専門家が言ってるのなら大丈夫なのかな。


少しほっとしたが、セイランさんは厳しい表情を崩さなかった。


「でもそれは、”ほぼ”問題ないと言う話です。あのときも実は、リョウガさんは断定は避けてたんですよ」


頭をガンっと殴られた気がした。


そうだ。確かに、あの時リョウガさんは「ほぼ問題ない」と言っていた。


…祷雨が絶対安全だとは、最初から言ってなかった…



セイランさんは続けて私たちに問いかける。


「最初の会議の時、リョウガさんがシオガが安定してる理由として、龍の飼育場があるからと言っていたでしょう。意味が分かりますか?」


「いや…」


高坂さんも首をかしげた。


「祷雨はシオガにしか起こせない。それは他国を助ける"慈善"にもなるし、他国を脅かす"武器"にもなる。今回、祷雨を全世界に配信したのは、その両面を見せつけるためです。

…シオガの考えひとつで、いつでも“雨を降らせる”ことができる。あの祷雨でそれを暗に世界に示したんです」



しばらくの間のあと、高坂さんがぽつりと呟いた。


「…それ、つまり、脅しにも使えるってことですか」


セイランさんは黙って頷いた。


背筋が冷たくなった。


ハウエンの祷雨って、ただハウエンを助けたいという思惑だけじゃなかったのか。



セイランさんは、私の目を見てはっきりといった。


「多分、また祷雨を行うように指示されると思います。それが本番かもしれない。

ハウエンは言葉を選ばずに言うと、祷雨の威力を試す実験であり、シオガの存在を誇示する道具でもあったんです」




─────────────────────



ハウエンは実験であり、シオガの存在誇示の道具だった…。


あまりのことに言葉がでない。


で、でもと思い、必死で頭を動かした。


「でも実際にサーカップ国王が、わざわざ祷雨を依頼しにシオガまで来てたんですよ?あんなに必死に頭を下げてたし…」


「それもシオガの戦略ですよ」


セイランさんはバッサリと言う。


「実際、祷雨の話を持ちかけたのがシオガからなのか、ハウエンからの依頼なのか分かりません。

でも長年封じてきた祷雨を再開するということは、シオガから伝えてたはず。そこにすがってきたハウエンは、シオガにとっては好都合だったんでしょう。

実際世界的には、干ばつで困窮してるハウエンを慈善で助けたシオガ、という印象を植えつけている。ウラジオ様も言っていたでしょう。全力でハウエンを助けると。あれも全部計画通りです」



「……」


想像を超えるセイランさんの話に、高坂さんも私も言葉を失った。


「そんな…サーカップ国王はあんなに…必死に…」


国民のために、ただの民間人の私に土下座までしたサーカップ国王。


祷雨をすると言った時には、涙を浮かべて喜んでいた。


そんな人を利用していたなんて信じられない。



でも、心のどこかで、セイランさんの言っていることが間違っていない気もした。


カーランティの世界地図の中でも大国に囲まれた、小国シオガ。


私たちには想像できないけれど、政治的戦略を張り巡らさないと平和が保てないのかもしれない。



「…では祷雨を復活させたのは、何か外交的にシオガにとって、必要な状況が起きてるってことですか?…確か、斎藤さんが祷雨復活を持ちかけたんですよね?」


高坂さんが、考えをまとめながらゆっくりと話した。


高坂さんがいてくれて良かった。


私1人だったら、この話の理解に時間がかかっていたと思うから。


「いくつか可能性は思い付きます。ただそれが当てはまるのか、ただの他国への威圧だけで終わるのかは分かりません。最悪のことは考えたくないですが…」


最悪のことって…


「…まさか祷雨って、戦争のカードになるってことですか?」


セイランさんは一瞬目を伏せたけど、改めてこっちを見てはっきり言った。




「はい。祷雨を他国への制裁として、使うかもしれません」


火曜金曜19時更新


助けるためのはずだった祷雨には、まさかの真意がありました。

まだアユミたちのシオガ滞在時間は残ってます。

このままでは終わらない予感…

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