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第27話 黒龍祷雨 後編

苦しみもがくメイリンに言葉が続けられず、崩折れそうになった私を支えてくれたのはユイさんだった。


「ユイさん…?」


ユイさんはいつもの穏やかながらも、何か覚悟を決めたような、強い意思の光を秘めた目でこちらを見つめた。


「アユミさん、ごめんなさい。こんな辛い役目を1人で背負わせてしまって。私たちも一緒に叫びます。一緒に祷雨とううを成功させましょう」


「私たち…?」


ユイさんに促されて後ろを見ると、そこにはシオガから一緒に来た女性たちがずらっと並んでいた。


そしてその後ろには、ハウエン国の女性たちも集まっていた。


その中には赤ちゃんを抱っこした女性、杖をついたお年寄り、まだ7~8歳くらいに見える子供もいた。


みんな何かを決意したような、力強い瞳でこちらを見ている。


そのうちの女性が叫んだ。


「サライ・ミナ・トゥエナ ハシリ・ノア・イリヤ!」


するとそれに呼応するように、次々と女性たちが声を上げた。


「サライ・ミナ・トゥエナ ハシリ・ノア・イリヤ!」


その声は徐々に高まり、大きなうねりとなり、空気がわんわんと共鳴し始めた。


黒雲が空に広がり、ビカビカと稲光が走り出す。


ピリピリと電気が走るように鳥肌が立ち、空気の振動は地面に伝わり、微かな地震のように地面がガクガク震えだす。


「な、何だこれ…?」


男性たちは呆気にとられ、ある人はオロオロと動揺し、またある人は腰を抜かしてへたり込んでいた。


それでも女性たちは怯まず、声を上げ続ける。



「サライ・ミナ・トゥエナ ハシリ・ノア・イリヤ!!」


叫びが、ひとつの大きな塊となった。



そして私はついに最後の言葉を告げた。



「かむながら たまちはえませ 天つ水、今ここに!!」



その瞬間、黒雲から発生した一筋の稲妻が、メイリンの体に落ちた。



聞いたこともないような、メイリンの激しい慟哭のような悲鳴が響き渡り、そしてーーー



メイリンの姿は消えた。




目の前の突然のことが受け入れられず固まっていると、ポツっと雫が落ちてきた。


その雫はポツポツ増えてきて徐々に強まり、一気に豪雨となった。


「雨だ…雨だ!!」


一気に歓喜の声を上げる人々。


服を脱いで全身で雨を浴びる人、口を明けて雨粒を口で受ける人、子供たちも歓声を上げながらはしゃいでいる。



そんな人たちに囲まれながら、私は1人立ち尽くしていた。




─────────────────────



待望の雨が降り、大喜びの人たち。


みんなはしゃいだり叫んだり、泣き出したり様々だ。


でもその中にはちらほらと、跪き頭を深く下げて祈ってるような人もいた。


高齢の人に多いようだったけど、その人たちは


「龍神様…、ありがとうございます、ありがとうございます」


と繰り返していた。


そんな人たちを、私はすごく冷静に見つめていた。


私が行った祷雨のお陰で、この人たちは喜んでいる。


それは良かったのかもしれないけど、私の心は沈んだままだった。


儀式の間ずっと握りしめていた、メイリンの鱗を見つめる。


メイリンは消えてしまった。


メイリンが死ぬとは分かっていたけど、まさか消えてしまうとは思わなかった。


この鱗はメイリンがこの世にいた最後の証、唯一の形見。


それを再び握り締めて、私は膝から崩れ落ちた。


メイリン、ごめんなさい。ごめんなさい。


ただ泣くしかない私を、ユイさんは優しく抱き締めてくれた。


「アユミさん、お疲れさまです。お辛かったですね。でもアユミさんは、ハウエンの人たちを確実に助けました。本当にアユミさんは、…私たちの誇りです」


ユイさん、ユイさんがいてくれて良かった。


「アユミさん、アユミさんの言葉が響き渡ったとき、私たちの心に大きく何かが響いたんです。私たちもこのままじゃいけない、私たちにも何かできることがあるんじゃないかって。そのお陰で全ての女性たちが一つになれたんですよ」


私の背中を、肩を、腕をたくさんの手が優しく撫でてくれる。


それはシオガから来てくれた女性たちの手だった。


その暖かさに助けられながらも、私は涙が止まらなかった。



火曜金曜19時更新


祷雨は無事成功しましたが、メイリンは消えてしまいました。

歓喜と喪失、唯一残ったメイリンの鱗。


でも話はまだ終わりません。

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