日が落ちてきました
せり上った土を踏む。足に伝わる土の感触に顔が勝手にニヤついてしまう。本当に土を魔法で持ち上げたんだな、と。ニヤニヤしてしまうが誰もいないし良いだろう。
大人になってから久しく感じていなかったワクワクを感じる。えいっやっ。
心の中で唱えながら4属性いろいろ使ってみる。これが童心に帰るってことか?
火魔法考えながら、指先1センチ離れた所に小さな炎をイメージする。どうやら魔力量が多く無詠唱ができたが、セリフ付きってかっこいいよね。ってことで、
「ライト」
ポワッ
可愛らしい音と共に、左手の人差し指の先に炎が灯る。想像通りの火だ。灯りの役割を果たしてくれているのかまわりをぼんやりと照らす。
……照らす?
「……!」
ハッ!と気が付いて空を見ると日が傾き始めている。年甲斐もなく魔法でワクワクしてしまい、時間を忘れてしまったようだ。
「夜はまずいよな……」
向こうの世界にいる時も真夜中の森は怖い。熊に遭遇するかもしれないし、こちらでも何が起こるか分からない。魔物が出るかもしれないし、動物や野盗が出るかもしれない。
本来なら早めに野宿の準備をした方が身のためだったが、思ったより新しい世界に興奮してしまっていたのだ。
「と り あ え ず〜っ長い枝っ!」
こんな時に自分の雑学に感謝する日が来ようとは。コンビニ仕事の休憩中や、農業をやりながら画面を見ずに聞ける動画が雑学には多い。HeyTubeにはお世話になっていた。
帰り道にボーッと片耳イヤホンでも聞ける。病みそうになった時は何か雑学を聞いていると気が紛れたのだ。
記憶を掘り起こし、地球で見ていたサバイバル系の動画を思い出す。
「確かシェルターの作り方は……っと。枝と葉っぱ付きの枝と……」
急いで周囲を照らしながら、元々居た割と平面な地面に素材を集めていく。
集め終わった頃には完全に日が落ちていた。幸いそこまで寒くないのでこちらは冬とかでは無いのかもしれない。季節があるのかは知らんが。
「とりあえず先に焚き火しよう。」
熊は火を恐れないが、動物は基本的に寄ってこないと聞いとことがある……くらいの知識で丸く石を地面に並べ1番下に枯葉、その上に松ぼっくりに似ているよく分からない木の実を敷いて1番上に枝を置く。ライトで付けた左指先の火を近づけて松ぼっくりに似ている木の実に付けると面白いように付いてくれて成功した。
明かりに安心してしばし、ぼーっと火を見つめていたら「そういえば鑑定スキルついてたなー」と、思い出した。鑑定と心の中でつぶやく。
使い方は適当だったが、どうやら上手く機能してくれたらしい。松ぼっくりに似ている木の実に"鑑定"を使うと詳細が出てきた。
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【マツーカサ】
樹脂を含む。どこにでもあるマツーの木の実。
樹脂を含むため燃えやすい。
接着剤の原料になる。
➡︎食用不可
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「……(ほぼ松ぼっくりじゃねぇか。)」
名前こそ違うが似ているし、そうかと思って使ってみたがほぼ同じ用途のようだ。焚き火のおかげで少し明るくなったのでシェルターを仕上げることにした。