1枚 部員は2人だけ
〈登場人物〉
朝倉 悠斗 高2
石田 玲汰 高3
シオリ 高1
俺は、武壮野高校に通う高校2年生の朝倉悠斗。
俺の高校は基本運動部に力を入れており、特に野球部なんかは、去年3回目の甲子園優勝を果たしている。
そして、俺も運動は大の得意……なんだが、俺の入っている部活は
「失礼しまーす。石田センパイ」
「はい。どーぞ」
俺が入った部活。それは、運動部ではなく、文化部の写真部だ。
写真部。
この高校では一昨年できたばかりの新しい部活だが、部員は俺と石田センパイ合わせて2人。
なんでこんなに人数が少ないのか、俺も理由を詳しくは知らないが、センパイに聞いたら。
〈退部していった〉
それだけしか教えてくれない。
俺は正直、センパイと2人でも全然いいし、逆に俺もセンパイもその方がやりやすい。
だが、人数が少ないゆえの弱点もある。
「センパイ。今日はどうします?」
「どうしようかね~」
やることが少ない。というか、やれることが少ない。
だけど、俺たち写真部は最近新しい事をためそうとしている。
今日はその広告のポスターを張る予定だったが、その事を、今さっき思い出したので、
今から行動に移すところだ。
「センパイ。ポスター貼りに行きません?あれで完成でいいと思うんですよねー俺は」
「確かにね。じゃあ1階から貼りに行ってこようか」
そういって、画鋲が入った缶とポスター、8枚を持って部室を出た。
部室はコピー室をよく利用するため、1階に作られている。
校舎の階層は学年ごとになっており
『1階職員室。2階1年生。3階2年生。4階3年生』となっている。
手始めに1階の職員室前に貼ろうとした。
俺がポスターを壁に押し付け、センパイが画鋲をさしてくれる。
「センパイ、画鋲頼みます」
「――」
「センパイ?」
センパイはボーっと画鋲入れの中を見つめている。
俺は少し大きい声を出して、センパイの名前を呼ぶ。
「石田 玲汰セ・ン・パ・イ!」
すると、センパイはハッとして俺の方を見てきた。俺が画鋲!と視線で教えると、
「あぁゴメン」
そう言って、4つ角に画鋲をさした。
「視力また下がったんですか?」
「そうみたいだ。眼科でも言われたし」
センパイは、昔の事故により左目を負傷してしまった。
そのため、今ではほとんど見えておらず、失明に近い状態だそうだ。
「眼鏡の度数ヤバいですよね。見えにくいだろうし、気を付けてくださいね」
そうこう話していると、4階までやってきた。
「最後の1枚っと」
「これで全部かな?」
「そうっすね」
最後、4階のトイレの前に設置した。
放課後の時間はどの教室も人っ子一人おらず、とても静かだった。
石田センパイが教室を眺めていると、あ、と声を出して俺の方を向いた。
「俺教室に荷物忘れてた。取ってくる」
「はーい」
そうしてセンパイは3-1と書かれた教室に入っていった。
俺が1人廊下で待っていると、黄色いリボンを制服に身に着けた女子が俺に話しかけてきた。
「あ、あの……写真部の方ですか?」
「あ、うん。――もしかして、依頼?」
女子はこくりと頷く。
センパイが丁度教室からカバンを持って出てきたので、俺がセンパイを呼ぶとすぐにこちらへ来た。
「この1年生が写真の依頼してくれるらしいですよ」
「そうか。じゃあまず名前を聞いてもいいか?」
「はい。シオリです」
女子は小声で自分の事をシオリと名乗った。
「シオリさんですね。じゃあ明日の放課後コピー室の隣の写真部の部室に来てください」
「はい。ありがとうございます」
そう言ってシオリさんは下の階へと降りて行った。
「まさか、こんなに早く依頼が来るとはって感じですね」
今回俺たちがポスターで宣伝したのは依頼人が撮って欲しい写真を撮り、
俺たち部員はカメラの使い方を学べ、依頼人はその写真をもらえるという、新しい試みだった。
「そうだな。まぁ今日は明日からの準備をするために早く帰ろう」
そういって、センパイは画鋲の箱をしっかりと持って階段へと向かった。
俺もその後ろについて行った。
「はぁ~最近。高1の復習問題が授業中出てて、俺死にそうなんだけど」
――あ!ヤベ。敬語忘れてた!
俺は慌てて付け加える。
「死にそう、です!」
「それだけを言うなよ。別の意味になりそうだ」
そう言ってセンパイは笑った。
そして、笑いながらセンパイは〈念のため〉と言いながら話し始めた。
「一応俺。学校では悠斗のセンパイだからな。
2人だけだったらいいけど、他の奴らがいたら気を付けておけよ」
そう言われ、俺も思わずクスっと笑い、左手をぴんと伸ばしながら頭にあてて、敬礼のポーズをとる。
「了解です。センパイ」
そして、俺は3階へとセンパイと降りた。
俺の教室は2-2。階段から3組を横目に見ながら、俺は自分の教室に入った。
センパイは階段で待っててもらっている。
夕日に照らされた教室。
俺の机は廊下側で後ろから2番目。
左側にかけておいたリュックを肩にかけて俺は教室を出た。
「センパイ~お待たせしました~」
「おう。じゃあ帰るか」
そうして、階段を俺は2段飛ばしで降りていき、センパイは普通に降りてきた。
昇降口で靴を履き替え、センパイと一緒に帰る。
センパイの家と俺の家は隣同士で、毎日一緒に帰っている。
「センパイ。俺明日の朝走るんすけど、センパイはどうする?」
「あぁ~久しぶりに走ろうかな」
「了解!じゃあ、5時50分にインターフォン押しに行くね」
俺は大体。
学校の外ではセンパイにはため口でいる。
これは、俺の自己判断ではなくセンパイが
〈ため口でいいよ。たった1個の差で敬語はきついし〉
と俺が小学校5年生。センパイが6年生の時に言ってきたからだ。
思い出に浸っているといつの間にか家の前まで来ていた。
「じゃあ、また明日な」
センパイは、玄関のドアに手を掛けて俺に挨拶をした。
「おう!また明日!」
そう言って、それぞれの家に帰った。
これが俺の日常だ。
あまり慣れていない一人称小説でおかしな点もあると思いますが楽しんで頂ければ嬉しいです。
よろしくお願いします(*- -)(*_ _)ペコリ