転生街道まっしぐら?
目が覚めると真っ白な空間にいた。
・・・・・・病室?
にしては天井がない、壁がない。ただ白いだけの空間が広がっていた。そして床が硬いことに気づいた。ゆっくりと上半身を起こすが不気味な程、体に痛みはない。
・・・・・・天国?
面接官を殴って向こうが死ぬならまだしも、なぜ私が死ぬのかは意味がわからない。この意味不明な状況に呆然としていると、突然目の前に黒い枠が現れ、そして引き戸のように空間が開いた。その非物理的な状況に体が強張る。すると中から人影が現れた。
「どうも初めまして。こちらは多世界総合案内所です。森宮柚葉さんですね、お待ちしておりました。女神のコリーヌと申します。」
そこにはアイドルなんて足元にも及ばない、物凄い美女がそこに立っていた。真っ白な空間の中でそこだけ色がついているような荘厳なオーラに気圧され、この体は全く動かない。そして女神さまは片手に持っていた紙を広げて読み上げる。
「森宮さん。あなたの反骨心とあまりに不幸な死に大きく心を揺さぶられたため、今回は特別転生処置を...」
聞き捨てならない情報を淡々と話していく女神さまに慌てて話しかける。
「すみませんっ、質問させていただいてもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
「あの、まず私ってもう死んでいるんですか?」
女神さまはキョトンとした顔で首をかしげる。荘厳なのにかわいい。勉強の虫と言われた柚葉にようやくドルオタ女子の気持ちがわかった。これは崇拝の対象だ。
「ああ、すみません。亡くなった時の感触も分からなかったんですね。えー、森宮さん。あなたは面接官の『体を売れますか』発言に激昂し、そしてその勢いで面接官を殴ってしまった。間違いありませんか?」
「間違いありません」
「その時、あなたは興奮のあまり脳血管が切れ、救急搬送されたにも関わらず死亡されました。」
「嘘やん!」
驚きのあまり、東京で封印したはずの方言が出てしまった。想像していたより呆気ない死因だったからだ。両親や叔父、そして友人たちの顔が浮かんできた。犯罪者になった挙句、死亡だ。あまりに悲しい思いをさせてしまったに違いない。だめだ、悲しみに浸っている場合じゃない。あの衝撃的なワードについて説明してもらわなければ。
「いかなる場合も暴力はいけませんが、今回はあまりに不条理だということで特別転生処置の対象になりました。」
「あのーすみません。その、『特別転生処置』って『異世界転生』ってやつですか?」
自然と声が震えている。若干興奮しているのかもしれない。大学時代の暇つぶしに見ていたアニメに異世界転生ものがあった。あの世界に行けるのならば死に甲斐があるというものだ。
「そうですねぇ。私はこの世界の担当じゃないんで、よく分からないんですよ。ちょっと待ってくださいね。」
そういうと女神さまはおもむろにパソコンのようなものをどこからか取り出し、カタカタとキーボードを叩き始めた。女神もパソコンを使うんだ。知らなかったな。そりゃ知らなくて当たり前か。
しばらくして女神さまは顔を上げて、私の方を見た。
「特別転生処置があなたがいう『異世界転生』であるかどうかという話でしたよね。基本的には森宮さんが希望する世界に行けるので、森宮さんが想像する世界がリストにあれば、所謂『異世界転生』になると考えられます」
「ちなみになんですけど、剣と魔法の世界って存在しますか?」
「それはもちろん、存在しますよ」
よっしゃぁぁ!心の中で盛大に歓喜のガッツポーズをする。大学生の時に妄想したことが現実に!そんなことある?これからは貴族の娘に生まれ変わって、魔力の多さで天下を取って、美男子な王子とイチャイチャして...もう妄想が止まらない!
ニヤニヤしている私を見て、女神さまは微笑む。
「今から転生先での能力などを決定していきます。特別転生処置の場合、この能力を全て森宮さんの意向で決めることが出来るのですが、分からないことも多いと思うので私が専門家としてアドバイスさせていただきますね。」
「よろしくお願いします!」
「まず最初に森宮さんのことをよく知るために、自己紹介をお願いします。」
あれ?これ面接ぽくない?若干トラウマが引き出されそうになるものの、なんとかそれを押し込む。
「帝都大学・生命科学部の森宮柚葉と申します。24歳です。研究室では主に葉緑体についての研究を行って参りました。学業以外では災害ボランティアとしてフィリピンにいくなど、道徳意識を持ち、徹底的に奉仕活動を行っていました。また、企業の活動をより深く知るために専門外ではあるものの、簿記検定2級を取得しました。昨今の世界状況を鑑みて...」
「ちょっと待ってください!」
びっくりするほどの大声が私の耳をつんざく。穏やかな印象の女神さまがものすごい形相になっている。大声と女神様の人相が変わった恐怖に心臓がヒュンとなる。気づいたら目に涙が溜まっている感触がした。指先が凍えるほど冷たくなり、頭はぐらんぐらんと痛む。
「あなた今、簿記検定2級を取得したと言いました?」
「ひゃっ、はひゃい」
女神様の眉がクッと釣り上がる。
「ということはB/SとP/Lも読めるのよね」
「た、貸借対照表と損益計算書ですよね。まあそ、それほど難しい勘定科目が出てこない限りは大丈夫だと思いますが」
「そして生化学を専攻していたと...ふむ」
女神さまの口角が上がる。財務諸表が読めるからと言って異世界での能力と何の関係があるのか。もしかすると女神さまの地雷を踏んでしまったのだろうか。
「決めました!森宮さん。あなたを株式会社・女神sにスカウトします!」
さあ本編が始まりました。
財務諸表など、ちょっと専門用語が難しいと感じる方はスルーしてください。
スルーしていただいても、本編の理解には全く影響はありませんのでご安心ください。
次回はスカウトです。