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それぞれの決意

そんなある日いつものように花畑に行って日課になった「王家を呪う祈り」を城に捧げていると人の気配がした。


 振り返ると白い柔らかそうなラフなシャツを着て簡単なコートを羽織り髪もざっくりとオールバックにし不思議そうな顔でアイリスを見ているローランドだった。うわ、カッコ良すぎる。。アイリスは普段と違うローランドに焦ってしまった。


 慌てて「お邪魔しました」と花畑を出ていこうとするアイリスにローランドは「アイリス待て」と言ってアイリスの右手を掴んだ。アイリスは振り返ると丁度太陽を背にしたローランドが眩しくて左手を自分の目の前に掲げて影を作ってローランドを見た。


ローランドはその左手を見て「怪我は良くなったのか?」と聞いてきた。ローランドが少し首を傾けてアイリスの顔を覗くように見た視線がローランドのかっこよさを加速させアイリスは返事が出来なかった。


「アイリス?」ローランドはアイリスが何も言わなくなった事が心配になってそっと怪我をした左手を握りもう一度「アイリス?」と呼んだ。アイリスは真っ赤になって、「はい……大丈夫です」と答え、「その節は助けて頂いて、、改めてお礼を申し上げます」と言いながら恥ずかしくて下を向いた。


 その時少し強い風が吹き花畑の花がいっせいにゆれ、花びらが舞い散りその光景がまるで映画のワンシーンのように美しく、そんな光景を偶然に見れたことが嬉しくなり笑顔でローランドの顔を見た。ローランドも同じようにアイリスの顔を見つめた。このまま時が止まってほしいと願ってしまった。

 

ローランドに見つめられつづけ手を握られたままだったアイリスは恥ずかしくなった。「あ、あのローランド様 ?」アイリスはどうして良いのか分からず声をかけた。


ローランドはアイリスに顔を近づけて「触らなくていいのか?」ときいてきた。「触る?」意味がわからずポカンとした顔で聞くと、ローランドは屈託のない笑顔で笑いながら「あんなに私のことを触っていたのに忘れたのか?」


「……ご……ごめんなさい!!!!!お忘れ下さい!お願いです!!!!」あの日の事を思い出してあまりの恥ずかしさに緩やかに握られていた手を振り解き走って逃げ帰った。胸の鼓動が激しく思い出すだけで居ても立っても居られないほどローランドの魅力にハマってしまった。。どうすればいい?


 日課とは恐ろしいもので今日も散歩に出て花畑で「王を呪う祈り」を捧げていた。一応誰もいない事を確認してこの花畑に来たがそれが過信になりちょっと油断をしていた。「今日の日課も無事終了!このアイリス特製呪の祈りが早く届きますように。。あと、サウザリー公爵家に沢山の幸せが降り注ぎますように、あと今日のおやつは……」「プッ」?!誰か,誰かが笑った?!

 

「ど、どなかたいらっしゃい、、ます?」驚いて周りをキョロキョロするが姿が見えない。「え、うそ?お化け?!」急に怖くなって逃げ出そうとした瞬間、花の中からローランドが現れた。寝転んでいたようだ。


「……」突然の展開に頭がついてこれず声が出なかったが5秒後位に「きゃー忘れてください!独り言聞かれました?記憶から消してください!!」羞恥心でその場にしゃがみながら両手で顔を覆って叫んだ。


ローランドはしゃがんだアイリスの前にしゃがんで「アイリス特製の呪いの祈りとはなんだ?」と聞いてきた。「わ、忘れて下さい!忘れて下さい!」必死に叫んだ。ローランドは楽しそうに「王城に向かって呪いの祈りとは、私も教えてもらわねばなるまい」と悪戯っぽくちょっと低い声で聞いてきた。


「……」恥ずかしさが頂点に達すると涙に変わるなんて初めて知った。「ウッ、」突然泣き始めたアイリスにローランドは戸惑った。「ア、アイリス?泣いているのか?」「……泣いていません!!ウッ,」激しく否定したが紛れもなく泣いている。ローランドはアイリスを泣かせるつもりはなかったので泣き始めてしまったアイリスに戸惑っている。


「アイリス,すまない、独り言が可愛くてつい。。」そう言いながらアイリスの前髪を優しく横に分け顔を覆う手を片方だけそっと離し、その手をローランドの左頬にあてた。ローランドの行動に驚いでローランドを見ると困った顔でアイリスを見ていた。またその顔は反則級のかっこよさでアイリスは見惚れてしまった。お互いに見つめ合っている。


 今度は見つめ合っている事が恥ずかしくなりアイリスは急に立ち上がった。今までしゃがんでいて急に立ち上がった反動と脳を使いすぎて酸欠を起こし後ろに倒れて行った。


すぐにローランドは立ち上がりアイリスを胸に抱き抱え一緒に倒れて行った。気がつくとローランドが下になりアイリスを衝撃から守ってくれていた。すぐに起き上がりろうとしたがアイリスを抱くローランドの腕の力が入り「もう少しこのままで」とアイリスの頭に自分の頬をのせた。アイリスはローランドの胸に抱かれ心臓の音を聞きながらそっと目を閉じた。


 ローランドはアイリスを抱きしめながら「アイリス、私はアイリスに心惹かれてしまった。だけど私はサウザリー公爵家の当主であり、重い責任をもってこの家紋を引っ張っている。我が家紋は千二百年に王冠を奪われた。私はこの時代に奪還をしたい。そして出来ることならこの大陸を統一したい。それが幼い頃の夢であり、サウザリー公爵としての責務だと心得ている。」アイリスはうなづいた。


「その夢の為私はどんな犠牲を払おうと仕方がないと思っている。王家から王女との結婚を打診されている。王家は後継がいない。戦を起こさず王位を奪還する一番の方法が政略結婚だ。アイリス、そんな打算的な私を軽蔑するか?」……どう答えれば正解なのかアイリスには分からなかった。


けれどローランドは"アイリスに心惹かれるが公爵家の為自分の夢のために女王と結婚する"と言っている。


 ローランドは「関わると不幸になる異世界の乙女としてアイリスを見ていない」が前提で話してくれている。そんな人を軽蔑出来る訳がない。


「……ローランド様、私はこの世界で異世界の乙女と呼ばれ、ローランド様に関わるとサウザリー公爵家が不幸になると言われました。私はローランド様を不幸にしたくありません。でもローランド様はその言い伝えを前提に話さなかった。きっと私が居てもいなくてもご自分の運命はご自分で切り開くお方だと思っています。私はそんなローランド様が好きです。どうか軽蔑なんておっしゃらないで下さい。サウザリー公爵家の願い、ローランド様の夢実現させて下さい。どんなことがあっても私はあなたを応援しています」アイリスはローランドの胸に手をあててほんの少しだけローランドのシャツを握った。愛していますのかわりに。。


 出会うたびにローランドに惹かれてゆく気持ちをアイリスは抑えることが出来なくなっていた。


だけどまず異世界の乙女としてローランドやこの公爵家の為に立場をわきまえなければいけない。もう一つは近くにアイリスがいる事でローランドの夢に足枷がかかる事を避けなければならない。アイリスはローランドから離れる事を考えた。


南にあるサウザリー公爵領地に行くしかない。サウザリー公爵は一年の半分は公爵領地にいて残りの半分は王都のこの邸宅にいる。ローランド様がこちらにいるときは私が領地に、ローランドが領地にいるときは私はこちらに、そうやって過ごすしかない。物理的に離れれば忘れられる。

 アイリスはクリフに公爵領地に行きたいと伝えた。


 「ローランド様、アリス様を公爵領地でご静養いただくのはいかがでしょうか。」クリフはローランドに提案をした。「そしてローランド様が領地に行く時はアイリス様は公爵邸にで過ごしていただく、、ローランド様、御検討いただけませんでしょうか?」


 ローランドは「そうしよう」と一言だけ言った。


 ローランドは幼い頃よりずっと国王との因縁を解決しその後大陸を統一をする夢があった。

常にその機会を狙っていた。


 サウザリー公爵家と王家の因縁は遡ればエルジャーノン王国が誕生した時まで遡れる。その時の王として君臨するはずだったサウザリー家一代目当主クラリスの父マーベリック サウザリーは国を統一し、即位する前日何者かに殺された。その後マーベリックの弟が国王になった。本来はマーベリックの息子であるクラリスが正統な王であるがそれを無視しいきなり王として即位をした。彼は国を統一するときの戦いに参加していない卑怯者だった。誰の目にみても明らかな暗殺だった。


 貴族達は反発し卑怯な国王を追い詰めた。その時国王は財産を放棄し、サウザリー家を公爵家としクラリスが公爵家当主になり財産、権利等全てを彼に与え国王の地位だけは守った。しかし本来はクラリスサウザリー公爵が全てを受け継ぐべき正当な王なのだ。


 サウザリー公爵家はいつの時代も財産を盾に王室と駆け引きをしてきた。その関係は千二百年も続き今に至っている。しかし事態はかわり今王家には子供が一人しか生まれず王女だった。ブリジット王女は婿を取るしか王家を存続するための方法はない。


 その有力候補がローランドサウザリー公爵だ。戦いをせず王家を手に入れる一番安全な方法はブリジット王女との結婚だ。それが終われば誰の血も流れず大陸統一が現実的になる。

 

 アイリスは不思議な人だ。あの真っ直ぐな瞳、輝くような笑顔,太陽のような明るさ、そんな令嬢に会った事がなかった。だけど、今なら、、きっと良い思い出にかわるだろう。ローランドはアイリスに別れを告げた。


 公爵領地に行く日、アイリスは楓の木に登って最後のメッセージを書いた。

「ローランド様の幸せを祈っています。アイリス」

 


 公爵領地に来てニヶ月、温暖なこの地はとても暮らしやすかった。街の雰囲気も明るく人々は善良で優しかった。アイリスの腕も治りつつある。


ここには多くの孤児院がありきちんと保護された生活をしているので治安も良かった。孤児院は初代サウザリー公爵が設立したらしい。親に捨てられたり虐待された子供にも愛と教育を受ける権利を千二百年から実行するなんて素晴らしいと思った。自分も実の親から育児放棄された人間だからその取り組みの重要さは身をもって知っている。


 アイリスはローランドがくれたハンカチを見ながら彼のことを考えていた。天使と見間違えるほど美しいローランド。彼の優しさは深い苦悩と悲しみがあったからだと感じていた。だから彼の大切なものを守りたい。異世界人として役割があるのならそれを果たしてみせる。だけど、あの柔らかい金の髪美しい顔、力強くアイリスを抱きしめる腕、その思い出があればきっと生きて行ける。


 公爵領地にジャネットは付いてきた。アイリスを本当に大切に思ってくれているジャネットをアイリスも本当大切にしている。


 ジャネットはアイリスとローランドの関係を一番近くでみていた。ジャネットはアイリスが今どんな気持ちでいるのかわからなかったが、明るく強く生きようとするアイリスをずっと支えようと決めた。領地にいる間アイリスは時間を持て余していたので淑女教育を受けていた。この世界の事がよくわかった。お茶会、ダンス、パーティー、全て駆け引きの為にあった。


ローランドが女王と結婚するのも理解できない訳では無かった。領地民を戦争に駆り出す事もせず王になれるならそんな良いことはない。ローランドは全ての人が安心して暮らせる世の中を作りたいんだと感じた。王になるべき人。尊敬しています。


 すれ違いの生活を始めてニ年が過ぎた。ローランドはブリジット王女との婚約が決まった。ブリジット王女はローランドに夢中だったので彼が自分だけのものになる事を自慢したくて仕方がない様子だ。お陰で片思いをしていた令嬢達の反感を食らっている。


「ローランド様、三週間後の婚約パーティーの準備は整いました。指輪などご覧になりますか?」クリフはローランドに声をかけて、返事も聞かないで指輪を開けて見せていた。ローランドは「無くさないように」とだけクリフに言い執務室を出ていった。


 庭園に出て楓の木が色づいているのを見つめていた。病気だったこの楓は両親が生きていた時と同じように大きく力強く根を張っていた。命をかけてこの楓を助けてくれたアイリスはここにいない。花畑にいった。ここでアイリスへの想いに終止符をうった。


 一族の悲願のために、夢のために。しかし時間が過ぎても、過ぎるほどアイリスはローランドの心に鮮やかな印象を残している。ローランドの髪を揺らす風は冷たい。季節は変わりローランドはブリジット王女と結婚する。ローランドは目を閉じて楓の葉が風に揺れる音を聞いていた。アイリスを想いながら。

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