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2023年10月

タイトル

『恋の終わらせ方がわからない失恋続きの弟子をしょうがないやつだなと見守る師匠』


あらすじ

どうやったら恋が終わるのかわからない。

「自分で決めるんだよ。こればっかりは正解がない。魔術と一緒かもな」

耳が出たら破門だというのにまた髪を切ったらしい弟子の頭をかき混ぜる。首が傾ぐほど強く手櫛を入れれば、痛いと涙目になって睨みつける。

俺相手にはこんなに強気になれるくせに。


背中を覆うほどの長い髪は豊かで美しかった。

首筋をくすぐるほどしかなかった髪が伸びていくのを見るのをいつの間にか楽しんでいた自分は一体どういうつもりなんだろうか。

初めて馬鹿弟子が、魔術師にとって大切な髪の毛を切った日をよく覚えている。





9月4日の題『残り2センチ』で書いた以下の2作品を元に上記のメモを作成しました。


「また髪の毛短くなった?」

「そだねー」

「髪の毛って魔術師にとって重要だと聞くけどいいのか?」

「良くない」

「会った時は腰まであったな」

「耳がでたら破門と師匠に言われた」

「もうやめとけって」

「仕方ないじゃん。失恋したら切りたくなる」

「俺と彼女みたいに一途になれよ」

「ばーか」


 失恋のたびに自分で髪を切る弟子のガタガタな毛先を揃えてやりながら、師匠は「俺はお前の髪結じゃねぇぞ」と顔を顰めるけど本当は切りたくないから、目立たないように編みこむことを覚える。毎朝ギャーギャー文句言われながら編んではリボンで飾ってやる。少しでも惚れた相手の気を引けるように。



以下のお題メーカーを使用して上記のテーマで一日3作品を執筆しました。

①https://shindanmaker.com/776155

②https://shindanmaker.com/386208

③https://shindanmaker.com/1108121

❶❷のお題の言葉は直接本文中では使わない。

❸は単語3つなので出た順に本文で使用。



出来上がった作品をもとに執筆した同タイトルの小説をアルファポリスにて公開しています。

『届かない距離』

親しさって曲者だ。

毎日一緒にいたって、くだらないことを言い合う誰よりも気の合う相手だって、一番親しいとは限らない。

「おっはよ!」

毎日学園に一緒に向かう為に迎えにくるのに、ちっとも僕の気持ちには気がついてくれない。

肩を組んで身体を触れ合わせても、それは僕の欲しいものじゃない。

12:16 AM · Oct 1, 2023



『触れそうで触れない距離』

「おっはよ!」

明るく響く声を毎朝心待ちにしているくせに、顔を合わせれば渋い顔で出かけていく。

俺の弟子は早くも色々と拗らせている。

若いんだからぶつかってみれば良い。

そういう自分も拗らせているのは百も承知だ。

弟みたいに面倒を見てきたが、もうダメだ。

一緒に寝てやることはできない。

12:20 AM · Oct 1, 2023



『擦り寄る』『沈む』『スカート』

「おはよ!」「おはよう」

学園が近づけば、色んな人が声をかけてくる。

もちろん自分になんかじゃない。

「ね、課題終わったぁ?」

甘えた声で彼に擦り寄るあの子を見ると深く心が沈む。

「終わってないんだ。あとで見せて」

「えーどうしよっかなぁ」

ふわりふわりと翻る忌々しいスカート。

大嫌い。

2:14 AM · Oct 1, 2023



『全部全部ウソ』

僕は小さい時に師匠に拾われた親なし子だから、街のみんなに意地悪されることもあった。みんなだけが悪いわけじゃない。僕だって悪い。だってしょうがないじゃないか。みんないつか僕を捨てる。そう思ったら仲良くするのは難しい。

「ずっと一緒に遊ぼうぜ」

彼の言葉だって信じない。信じたかった。

12:07 AM · Oct 2, 2023



『見てるだけで幸せだった』

全く気は進まなかったが、仕方なかった。早々に隠遁生活と決め込んだ俺の住む森に赤子が落ちていたんだから。見捨てたら、あっという間に餌になる。

抱き上げれば機嫌良く笑う扱いやすい子だった。俺が教えられるのは魔術くらいだったが一人で生きていけるようにしてやりたかった。それだけだった筈。

12:14 AM · Oct 2, 2023



『もうおやすみ』『おかしい』『しっかり』

もう小さな子どもじゃないけど辛いことがあった日は家に帰れば勝手に涙が溢れる。師匠も慣れたもので、無理に宥めたりせず食事を終えると「もうおやすみ」とうんざりした顔を見せる。自分はおかしいと思う。幼馴染と女の子が仲良くなっていくのを見るだけでこんな風になるなんて。しっかりしなくちゃ。

12:17 AM · Oct 2, 2023



『またあとで』

拾い子は、最初から手のかからない子だった。しかし、成長して街の子と遊ぶようになってからは様子が変わった気がする。家にいる間中まとわりついて、子どもが近くにいては危ない魔術を使おうにも離れようとしない。きっと捨てられていたと聞いてしまったのだろう。俺は次がある喜びを教えたくなった。

12:14 AM · Oct 3, 2023



『未来永劫』

「女の子って、なんであんなにいい匂いがするんだろう」

「……それ、女の子の前で言わない方が良いよ。かなり気持ち悪い」

棘のある言葉を返してしまったが、その場で泣かなかったんだから褒めて欲しい。

どんなに仲良くたって僕は女の子じゃないからダメなんだ。

いつまでも、僕の番は回ってこない。

12:19 AM · Oct 3, 2023



『眩しいくらい』『そのままで』『なぞる』

弟子の恋心に気がついたのは、本人よりも俺のが先だったと思う。ただの幼馴染だった背中を見送る瞳の輝きは、いつしか眩しいくらいになった。 男同士でも芽生えた思いはそのままで良い。大事にして欲しい。 弟子の泣く日が増えればどうにかしてやりたいが、もう俺が脇腹をなぞるだけじゃダメなんだな。

12:34 AM · Oct 3, 2023



『夢で逢いましょう』

一緒に遊んで、喧嘩して、仲直りして、また明日。

いつだって隣にいたのに、気がつけば僕たちの間には他の人がいる。かわいい女の子、頭の良いクラスメイト、僕より君に似合う気がする。変わらず行き帰りは一緒だけど、辛くなる。現実なんて大嫌い。布団に入って目を閉じる。僕だけの君に会うために。

12:15 AM · Oct 4, 2023



『ずっと追いかけてる』

弟子が学園に通い始めてからは、日中に以前のような一人の時間が戻ってきた。といっても、やるべきことなんて大してない。二人分の食べ物は家の前にある畑で事足りる。ぼんやりと日向に寝転がり、夢現を行ったり来たりするが、思い浮かぶのは弟子のことばかり。いつから俺は優しい師匠になったんだか。

12:22 AM · Oct 4, 2023



『エアコン→風に変更』『さよなら』『掠れる』

学園の帰り道、突然強い風が吹いて、みんなの髪の毛が舞い上がる。君の視線の先にはあの子がいた。いつも下ろしている前髪が捲れて形の良いおでこがあらわになる。息を止めて釘付けになる横顔なんて見たくなかった。「先行く、さよなら」必死に絞り出した声は掠れるけど涙が溢れる瞬間は見せなかった。

12:31 AM · Oct 4, 2023



『泣かない君』

その日のことはよく覚えている。

風の強い日で、俺は飛ばされた洗濯物を回収していた。いつもより弟子の帰宅は遅く、昼間から煮込んだ肉を独り占めする憂鬱さを抱えていると、髪を乱した弟子が走って帰ってくるのが見えた。

「馬鹿野郎が」

不揃いになった毛先。いつまでも泣いていれば良いものを。

6:10 AM · Oct 5, 2023



『会いたかった』

どうにかして、自分の気持ちと決着をつけなければいけないことはわかっていた。幼馴染への気持ちを恋だと認めるのも辛かったのに、今度はそれを諦めなければいけないなんて。

初めての恋、終わらせ方なんて知らない。

師匠に禁じられていたが、一人河原で髪を切った。

早く「馬鹿野郎」と怒られたい。

6:15 AM · Oct 5, 2023



『握る』『どうしてなの』『優しくしないで』

回収した洗濯物を全て落としていた。近づいてくる弟子はこっちの気も知らないでイタズラを企む子どもの顔をしている。

「髪を切るなといっただろう」

服の裾を握る弟子は「どうしてなの」と白々しく言う。

「しょうがないヤツだ」

乱れた髪に手櫛を通すのを嫌々と弟子は頭を振る。

「優しくしないで」

6:22 AM · Oct 5, 2023



『僕じゃダメですか』

「アイツか」

師匠には何でもバレてしまう。

魔術を使う時には、少しでも世界と接する範囲が広い方が良いからと髪を切るのを禁じられていた。

僕は師匠に怒られたかった。

ダメな自分になりたかった。

彼にとってだけダメな自分には耐えられない。

「怒って。お願いだから」

「ちゃんと言ったのか?」

12:38 AM · Oct 6, 2023


·

『君とじゃないと』

本当に弟子は馬鹿だ。

当たって砕ければ良いのに。

いつだって考えすぎて、結局立ちすくんでしまう。

そのくせ、変なところで思い切りがいい。

頭は良いのに、馬鹿だ。

「……何も言ってない」

「言うべきことがあるだろう。俺はお前にちゃんと言葉を教えたぞ」

「知らない」

「一人じゃダメだ、って」

12:44 AM · Oct 6, 2023


·

『手を振る』『霞む』『腕をとる』

師匠は簡単に言うけど、そんなの無理だ。

もう泣かないと決めたから、必死に唇を噛み締めた。

「肉の煮込みだったんだがな」

師匠は大きなため息をつくと僕の前で手を振るように動かした。あっという間に目が霞む。ぐらんと頭が揺れた。倒れると思った瞬間僕の腕を取る乾いた手を感じた。

「おやすみ」

12:49 AM · Oct 6, 2023



『火傷するほどの恋』

誰だって恋に振り回されることはあるだろう。

相手の言動に一喜一憂して単純な自分にうんざり。でもどこか心は温かい。

「でもコイツのはなぁ」

久しぶりに抱き上げた弟子はずっしりと存在感を増していた。成長した身体つきなどに気がつきたくはなかった。

弟子が泣き濡れるなら、俺は灰になっちまう。

1:22 AM · Oct 7, 2023



『強気な視線』

弟子をベッドに寝かせると、近くにあった椅子を引き寄せ腰掛けた。久しぶりに寝顔を堂々と眺められる。いつだって小生意気でポンポン言い返してくる癖に、ヤツの前じゃ縮こまる。知らないうちに始まった恋は厄介だ。終わらせ方がわかりにくい。腫れた瞼をそっと撫でる。明日はいつも通りになるように。

1:37 AM · Oct 7, 2023



『それでも』『消える』『羽』

ゆっくりと意識が覚醒していく。

抗う必要なんてない。身体が望んで目覚めていく。

簡単に瞼が上がり、頭はスッキリと冴えていた。

文句なしに気持ちの良い朝だ。

それでも、胸の痛みが消えるわけじゃない。

生きたまま羽をむしられるような残酷な感触はまだまだ続く。どこまで行っても終わりはない。

1:42 AM · Oct 7, 2023



『籠の中の鳥は空を夢見た』

肉の煮込みを温めていると、すっきりとした顔で弟子が起きてきた。

「おはよ」

気まずそうながらも、瞳には意思の強さが戻っている。

「朝から肉?」

不満そうな声だが顔は緩んでいた。

隠遁生活を決め込んでいた自分は、自由なつもりで囚われていた。

こいつが全て教えてくれたんだ、幸せってやつを。

12:18 AM · Oct 8, 2023



『ここから始まる』

何もなかったフリはしないと決めていた。

昨夜食べるはずだった煮込みに、重すぎると不満を示しながらも口内は唾液に溢れている。

「いただきます」

師匠が煮込みに視線を落としたのをみて口を開く。

「ねぇ、髪の毛綺麗に揃えて欲しい。ぐちゃぐちゃになっちゃったから、さ。またキチンと伸ばす為に」

12:21 AM · Oct 8, 2023



『許す』『慰め』『咲く』

珍しく自分から不都合を清算した弟子を許す合図に眉毛をぴょっとあげる。慰めの言葉なんか鼻からかけるつもりはなかったが、弟子も必要としていないようだった。

「元に戻るまでどれくらいかかるかなぁ」

口いっぱいに頬張りながら首を傾げる姿は一皮向け、花咲くその時に向かって成長したようだった。

12:25 AM · Oct 8, 2023



『今日はおやすみ』

「三年」

肉を頬張りながらボソリと師匠が呟いた。

こちらに視線もよこさない。

あぁこれはだいぶ怒ってる。

機嫌が悪くなればなるほど、言葉数が減る人だ。

「修行期間が延びちゃうね」

「…当たり前だ。ひよっこのくせに」

「良かった」

「何が」

「僕の師匠が貴方で良かった」

小生意気な僕は封印。

12:36 AM · Oct 9, 2023



『冗談の範囲外』

弟子らしからぬ発言に思わず動きが止まった。

年中行事の『身近な人に感謝する日』にだって、そんなこと言わないじゃないか。

元気になり過ぎてこちらを揶揄っているのかと視線をやれば、大好きな木の実を頬張っている時と同じ、素直な表情をしていた。

「師匠がいてくれて良かった」

冗談にしてくれ。

12:42 AM · Oct 9, 2023



『ペット』『蔑む』『廻る』

師匠に子ども扱いされるのは大嫌いだ。

ペットを撫でるようにぐしゃぐしゃと髪を乱してくるから「撫でるの下手くそ過ぎ。孤独拗らせジジイ」と蔑むのが常だった。

小生意気な弟子と拗らせた隠遁魔術師がすれ違いながらもお互いを唯一の大切な存在と気がつくには、まだまだ幾つも季節が廻る必要がある。

12:48 AM · Oct 9, 2023



『もう二度と会いませんように』

弟子を見送ってから一人になると、ホッとした。

曇りのない瞳で自分を慕う姿に勘違いしてしまいそうになる。それはとても恐ろしいこと。どうしたって、人は人に惹かれてしまう。一方通行のままだったり、衝突するように通じ合ってしまったり、自分では決められない。もう二度と暴走する自分は御免だ。

12:20 AM · Oct 10, 2023



『もうしばらくここにいて』

師匠に子ども扱いされるのが嫌だから、ついつい憎まれ口ばかり叩いてしまう。だけど本当は今日みたいに素直でいたい。朝起きて、ご飯を食べて、訪ねてきた彼と遊んで、やりすぎて、一緒に師匠に怒られる。無条件に甘やかさられる日々もいつか終わるけどもう少し後が良い。二人ともどこにも行かないで。

12:27 AM · Oct 10, 2023

·


『奏でる』『髪』『神様なの』

弟子なんて生涯取るつもりは無かった。

責任を負うなんて自分には無理だ。己のコントロールもできないのだから。

自分の師匠は完璧な人間だった。楽器を奏でるように唱える術式は美しくも強固で、魔術が発動する瞬間に舞う髪は細く棚引く雲のようだった。

「神様なの?」

ガキの俺は真剣に思っていた。

12:39 AM · Oct 10, 2023



『捨てたはずの想い』

もう泣かないって決めた。

思いを断ち切るように髪を短くして眠ったら、師匠の前でも素直になれた。

自分のことは自分で決める。

心の整理もきちんとできた。

幼馴染と登校したって大丈夫と思ったのは錯覚だった。

「あぁ」

吐息みたいな小さな声と共に彼の視線が一点に集中する。

僕の心は荒れ狂う。

12:33 AM · Oct 11, 2023

·


『見過ごした瞬間』

「神様だったら、良かったのにね」

ガキの目から完璧に見えても、実際には限界もあったのだろう。師は有数の魔術師だったが、故にやっかみも多かった。ガキの耳に入るのだから相当のものだろう。

やっと師と肩を並べられると思った頃「ごめんね」と一言残して師は消えた。どんな顔をしていたのだろう。

12:56 AM · Oct 11, 2023



『神様』『約束』『軋む』

神様とどんな約束をしたら、僕の心は軋むのをやめてくれるのだろう。

忘れると決めたのに、僕の心はすぐに彼への気持ちを思い出してしまった。

「具合悪いから、帰る」

「お?大丈夫か?」

「先生に言っておいて」

「わかった。気をつけて帰れよ」

もう泣かない。

そう決めたから、これは涙じゃない。

1:01 AM · Oct 11, 2023

·


『君は僕のもの』

自分を置いて消えた師匠を恨んだことはない。そして力になれなかった自分を責めたこともない。

ただ、心の底が抜けたように空っぽだ。

そのまま独り朽ちていく筈だったのに、弟子なんか取っちまった。

腰にも満たない小さな頃に「ししょー、ずっといっしょね」なんて言ったから、俺はまだ生きている。

12:39 AM · Oct 12, 2023



『約束違反』

濡れた頬が気持ち悪い。河原に座って、水面を覗き込む。サラサラと肩から落ちる髪は不揃いで不恰好だ。髪を切れば思いを断ち切れるなんて嘘じゃないか。師匠をガッカリさせただけの大損だ。

「国一番の魔術師になる」

幼い僕の宣言を師匠は笑わなかった。

早く一人前になりたい。髪の毛よ早く伸びろ。

12:47 AM · Oct 12, 2023



『八重歯』『痛み』『叫びたい』

夕飯は魚でも焼くか、と水辺に行けばいるはずのない背中を見つけた。

震える肩で不揃いな毛が揺れる。

唇を噛めば、八重歯が刺さって肉を裂いたが、大した痛みじゃない。

叫びたいほどの苦しみは、弟子の涙を止めてやれないせいだ。

ここには俺しかいないが、俺じゃ駄目なんだ。

そんなのわかってる。

12:52 AM · Oct 12, 2023



『叶うはずのない約束』

僕の師匠は凄い人、らしい。本当はどのくらい凄いかわからない。だって師匠は術を発動させることはない。僕が見たのはたった一度だけ。幼馴染と共に川で溺れかけたのを引き上げられた。僕の命は師匠に助けられたから僕だって師匠を助けたい。ずっと一緒と僕は言ったけど、いつまで弟子でいられるの?

12:38 AM · Oct 13, 2023



『その台詞くさいよ?』

いつまでも暗い顔をしているから、余計なことをやっちまった。幼い弟子が好きだったやつ。細かな風の矢で水を叩き、飛沫をあげる。幼い頃はそれだけでいつまでも笑い転げてた。

「びっくりした。久しぶりじゃない?」

「……だな。しけた顔してんじゃねぇよ」

「励ましてんの?」

「笑ってろ」

「げ」

12:55 AM · Oct 13, 2023



『哀愁』『穴』『飛び跳ねる』

憎まれ口に顔を顰める師匠の横顔は哀愁漂うおっさんそのもの。穴の開いた服を平気でいつまでも着て、直しもしない。酒に酔えば一人で歌って飛び跳ねる。どうしようもなくダサい中年だけど、カッコいい。絶対そんなこと本人には内緒。実は憧れてるなんて口が裂けても言いたくない。尊敬してるのも秘密。

1:00 AM · Oct 13, 2023



『午前2時に』

憎まれ口を叩く弟子はいつもの調子を取り戻した。

学園をズル休みしたことには目を瞑り、二人並んでのんびり釣りをする。

「油で揚げたのがいい。小骨とってあるやつ」

「げ、めんどくせぇ」

「酒のつまみに合うよ」

「もう酒はやめだ」

弟子の前で飲むのはな。余計なことを言っちまう。独りで飲むさ。

4:09 AM · Oct 14, 2023



『簡単じゃない』

ここら辺の魚は頭が良い。そんなふうにいうとおかしな気がするが、本当だ。ちょっとやそっとの仕掛けじゃちっとも釣れない。

「夕飯のおかずなしになっちゃうよ?」

「お前がうるさいからだろ」

「術を使えばあっという間なのに」

「…ダメだ」

師匠は珍しく低い声を出す。

「魔術を軽はずみに使うな」

4:17 AM · Oct 14, 2023



『ふわりと』『限界』『旅』

弟子は真面目な努力家で、優秀な魔術師になれるだろう。もう俺なんかの元にいるべきじゃない。

木漏れ日のような優しい笑顔がふわりと広がれば俺の胸は騒ぎ立てる。知らないふりをするのはもう限界だろう。本当は今すぐに、ここではないどこかへ旅立ってしまいたくなる。それでも、置いてはいけない。

4:24 AM · Oct 14, 2023

·


『かなしい、悲しい、哀しい、愛しい』

自分は師匠の唯一の弟子で共に暮らす存在で、誰よりも師匠のことをわかっていると思ってる。

そんなわけないのにね。

師匠はすごい魔術師なのに(噂で聞いただけ)、魔術を使わない理由を知らない。一人でいる理由も知らない。

過去のことは何にも知らない。

血が繋がっている家族だったらわかるの?

11:50 PM · Oct 15, 2023

·


『わかった気がした』

「白身の魚は絶対揚げたやつがいい」

「面倒くせぇ」

弟子が強気で我儘なのは俺の前だけだからいい気になっていた。俺は特別なんだと優越感に酔いしれる。とんだ馬鹿野郎。

俺の次に長く一緒にいるヤツの前ではうまく自分を出せないのは恋をしてるから。そうだよ、俺のことなんてどうでも良いんだ。

11:56 PM · Oct 15, 2023



『鳴らす』『告げる』『しっかり』

「後始末が嫌なんだよ!」

「でも師匠だって魚の揚げたの好きでしょ」

なんだかんだ言ったって、夕飯は僕のリクエストが通った。最高の日だな、なんて思ってたのに。

リンリンと玄関のベルを鳴らすのが、彼だった。

「おーい」

来訪を告げるいつもの声は料理中だってしっかり聞こえる。

「行ってこい」

11:59 PM · Oct 15, 2023



『待てができない』

ドアを開ければいつも通り、優しい笑顔の彼がいた。

「調子はどう?」

「うん、大丈夫」

「……いい匂い!」

嬉しいけど帰ってほしい。

顔を見たくないけど一緒にいたい。

「お!お前も食ってくか?」

「やった!」

師匠の声に彼ははしゃぐ。

僕と師匠よりも、ずっと君の方が魚の揚げたの好きだよね。

12:06 AM · Oct 16, 2023



『来て。』

家の中なら邪魔も入らず楽しく過ごせるだろうと誘ったが失敗だった。

弟子は笑ってるのに歯が見えない。下唇噛みすぎだろ。

「また明日」

元凶が帰っても固く口は閉じたままだ。

いつもみたいに泣いちゃえよ。

ソファに座って、あいつの気に入りのブランケットを広げる。胸を貸してやろうじゃないか。

12:12 AM · Oct 16, 2023



『カレイドスコープ』『カーテン』『握る』

師匠が両腕を広げるポーズは昔からの定番だ。

カレイドスコープが欲しいと泣いた時、カーテンをいたずらしたのがバレて怒られ泣いた時、いつだって最後はその場所が僕の為に用意されていた。

もう子どもじゃないのに。

泣かないって決めたのに。

服の裾をギュッと握る。

「おやすみ」

僕は背を向けた。

12:17 AM · Oct 16, 2023



『お前がいないと俺は』

ずっと俺が保護していると思っていた。だって俺は大人で弟子はガキで泣き虫だ。

お前のためにと広げた腕が空っぽのまま使われない。

それを「成長したな」と寂しく思いながらも喜ぶの親だし、保護者なんだろう。

俺は頭を思い切り殴られた様な気持ちだ。

いっそ殴られたい。

独りより、ずっと良い。

12:52 AM · Oct 17, 2023



『返品不可』

師匠は気持ちを伝えろと言うけれど、そんなに簡単じゃない。

僕の気持ちが突き返されたらどうすれば良いの?

想いに答えてくれなくても良いけど、拒否されたならもう幼馴染としても一緒にいられなくなってしまう。

スカートを翻す可愛いあの子を目で追う彼の心には、絶対僕の居場所はないのだから。

12:58 AM · Oct 17, 2023



『便箋』『教えて』『ゆっくり』

みっともないが思い出に縋るしかない。

引き出しに入った小さな箱を取り出して、蓋を開ければ大小様々な紙切れが入っている。便箋なんて高いものは用意してやれなかったが、字を教えてとせがむ弟子と手紙を交換していたことがある。一枚ずつゆっくり読めば、まだ必要とされている様な気持ちになれた。

1:03 AM · Oct 17, 2023

·


『初恋は実らないらしい』

いつから僕はこんな風になってしまったんだろう。

頭の中は彼のことでいっぱいなのに、胸がすぅすぅする。小さい頃からいつも一緒に遊ぶ、楽しいだけの関係だったはずなのに。

気がつけば苦しくて堪らない。

僕と話していても、気がつけば視線は他の子を求めて彷徨っているから、もう見ていられない。

2:43 AM · Oct 18, 2023

·


『もしも、願いが叶うなら』

魚の揚げたのが余っていた。せっかくだから一杯飲むかと、安い酒を引っ張り出して来る。

でも結局は弟子がくれた拙い字の手紙ばかりが酒の肴になった。

『また、あまいやツがたベタい』

『もつとヤさシくして』

強請る言葉ばかりが並ぶ。

「厚かましいやつだな」

いつまでもずっとそのままでいいのに。

2:52 AM · Oct 18, 2023

·


『終電→最終の馬車』『花屋』『腕をとる』

寝られないベッドで思い出していたのは、幼い時のこと。幼馴染一家が遠出をしたから、僕は独り。寂しくてウロウロしていたら街に着き、目の前の停車場には最終の馬車が止まっていた。花屋の香りを嗅ぎながら、これに乗ったら、会えるのかな。と思ったところで僕の腕をとる手に気がついた。師匠だった。

2:58 AM · Oct 18, 2023



『きらきらと輝く

冷めた魚を摘む。そもそもこんな料理は俺のレパートリーにはなかった。弟子が小さい時に一人で街に行ったのを回収するついでに、飯でも食うか!と子どもを連れて酒場で一杯引っ掛けた。グデグデのだらしない大人達に怯えるかと思ったら、弟子は興味津々だった。キョロキョロと忙しない瞳が美しかった。

1:58 AM · Oct 19, 2023

·


『真夜中の訪問者』

「馬車に乗って一人で出かけるにはちぃっと早いな」

一人で街に行った僕を師匠は叱らなかった。

それでも一度つかんだ僕の腕を離すことはなく、しっかりと握っていた。

そういえば、あの日食べたのは魚の揚げたのだったと思い出したところで、部屋のドアが開いた。

寝たフリをしたのに理由なんかない。

2:02 AM · Oct 19, 2023

·


『ふわりと』『睨む』『以上』

思い出に浸りすぎて、久しぶりに弟子がちゃんと寝ているか見に行った。昔は途中で目覚めて暗闇が怖いと泣いている時もあった。ふわりと髪を撫でる。いつもは小生意気にこちらを睨む瞳は隠れていた。弟子はいつの間にか成長している。頬の丸みはとれ、喉仏も目立つようになった。子ども以上大人未満か。

2:10 AM · Oct 19, 2023



『痛かったのです』

師匠の温もりを感じて、あっという間に寝たフリは本当の眠りに変わった。

いつも通りの朝。食事を済ませた頃に到着する幼馴染の声。

「行ってこい」

見送る師匠の視線が一瞬だけ止まったのを僕は見逃さなかった。いつもは背中で揺れていた毛先が肩で跳ねる。

師匠は怒っていない。でも謝りたくなった。

12:55 AM · Oct 20, 2023

·


『お気に召すまま』

帰ってきたら毛先を整えてやろう。

そもそも魔術師なんて、あいつはならなくても良いんだ。一人でちゃんと生きていけるのならば。

魔術以外に何も出来ない俺は弟子のためにできることが他になかった。

それだけ。

俺の師匠も最後は自由を選び、俺もそんな人生だ。

お前も好きに生きていけば良いんだ。

1:00 AM · Oct 20, 2023

·


『背負う』『頼』『あえて』

いつも通り学園を目指せば、現れる可愛い子。

「おはよう!」

「あ……ぉはよ」

照れる幼馴染。

自然と手がのび、彼女の荷物を背負った。

「わぁ、頼れる!」

二人の間が特別になったと嫌でもわかる。

昨日は逃げたけど、今日はあえて目に焼き付けるように見つめた。きっと僕の恋心は、これで終わり。

1:08 AM · Oct 20, 2023



『今日も君が笑っている』

揚げ物食べて深酒した自分が悪い。いつまでも胃のムカつきが残り、もう若くないことを実感する。

未来のある弟子は失恋したって、まだまだ次があるといつか気づくだろう。だから大丈夫。

「ただいま」

「おう……お前またやったな?」

泣いてない。いつもの顔。でも不揃いの毛先が耳元で揺れていた。

12:29 AM · Oct 21, 2023



『たった一言で』

「うん。そう」

なんでもないみたいに振る舞う。そうすればそうなると期待して。

ベーっと舌を出す。

何も言わず師匠は僕の髪を撫でた。

外に椅子を出して座れば、頭が後ろに倒れる程強く櫛で梳かされた。

「痛いってば」

僕の髪を編み始める。

「しょうがないやつだな」

あっという間に視界が歪んだ。

12:39 AM · Oct 21, 2023



『もうおやすみ』『葬列』『腕をとる』

声も上げずに泣く弟子の横顔は美しい。

きっと似合うだろうと選んだモスグリーンの髪紐は弟子の灰色がかった紫の髪色に想像以上によく映えた。

これで笑ったら、もっと魅力を増すだろう。

「もうお休み」

葬列に並んでいるかのようにさめざめとなく弟子の腕を取る。

横たえて手のひらで目元を覆った。

12:52 AM · Oct 21, 2023



『手を繋ぎたい』

やっぱり流れ出てしまった涙をなかったことにしたい。

強く擦るのを見越したかのように、師匠の手がそっと瞼の上に重ねられた。

乾いた感触が懐かしい。

空っぽの胸が少し満たされた気がした。

両手を伸ばして、師匠の手の上に重ねる。

「やめとけ。擦ると明日ひでぇことになるぞ」

「……ん。しない」

12:31 AM · Oct 22, 2023

·


『なにして欲しい?』

柔らかな弟子の手がしがみ付くように俺の手をとらえて離さない。早く寝てしまえば良いのに。自分の手でお前の顔が隠れて、満足に見えないんだよ。あと何回お前の寝顔を見られるんだろうな。もう少ししたら俺は耐えられなくなるだろうよ。今だって危ないもんだ。お前の為にアイツを操ってやりたくなる。

12:36 AM · Oct 22, 2023



『逃げられない』『写真』『逃がさない』

「どうしたら恋って終わるの」

今なら師匠に言っても良い気がした。

「さぁな。てめぇからは逃げられない」

「写真撮ると魂抜けるんだっけ?一緒にどうにかならない?」

「んなわけあるか」

「いっそ魂だけ持って行かれるんでも良いかな」

フッと耳元に風を感じた。

「お前のことは、絶対逃がさない」

12:42 AM · Oct 22, 2023



『君が笑うから』

「え?」

いつもと違う俺の様子に慌てた弟子は俺の手を退けようとした。

もちろん自由にはさせない。

「お前は大きく育ったなぁ?良い年頃だ」

ペロリと舌なめずりをして水音を立てる。

「丸々太った腹が美味そうだ」

そう言って脇腹をくすぐった。

「ひゃ、無理ィ!」

本当は冗談じゃないんだけどな。

12:26 AM · Oct 23, 2023



『遅くなってごめん』

起きたら当然髪はぐちゃぐちゃだった。

「やって〜」

師匠は髪をといてくれる。

「痛い。そっとして」

「へいへい」

生意気な態度はこの後の嵐に備えてだ。

「彼女できた」

「バレバレ。言うのおっそ!」

幼馴染らしく言えただろうか?

せっかく師匠が結んでくれたリボンにも気が付かないんだろうね。

12:31 AM · Oct 23, 2023



『涙』『キーホルダー』『地面』

「ラーらララ……」

調子っぱずれな歌声の合間に鼻を啜る音を響かせて弟子が帰ってきた。涙で光る頬。髪に結んでやったはずのリボンは解かれ、キーホルダー代わりに鍵につけられ振り回されている。

「ばっか。結構高いやつだぞ……」

「あ!」

手からリボンがすっぽ抜けて、鍵は地面に飛んでいった。

12:36 AM · Oct 23, 2023

·


『あの星が欲しいのです』

せっかく師匠がキレイに髪を編んでくれたのに。

リボンを結んでくれたのに。

結局ダメ。

分かっているけど胸が苦しい。

リボンを解いて、自分なんかより鍵のがずっと似合うと思ったのに飛んでいって汚れてしまった。

「う、あぁ…何してもだめ」

僕だって頑張りたかった。師匠みたいになりたかった。

12:11 AM · Oct 24, 2023

·


『一人にしないで』

「しょうがないやつだな」

もっと弟子が泣くと分かって、その言葉をかけた。

鍵を拾い、リボンについた汚れを払う。

「ごめん、なさい」

しゃくりあげながら、俺の腹にしがみつく弟子の身体は間も無く俺の背を抜くだろう。きっと年を重ねれば逞しくなる。俺なんかいらないくらいに強くなるんだろうな。

12:14 AM · Oct 24, 2023



『隣』『心臓』『首輪』

いつだって僕の日常は幼馴染と師匠で出来ていた。隣にいるのは二人でも、聞いたことのある心臓の音は一つだけだと不意に気がつく。

「師匠、ずっといて。どこにもいかないで」

「何言ってんだよ。どこか行くのはお前だろ。小さい時からウロチョロと忙しない。何度、首輪をつけてやろうと思ったことか」

12:17 AM · Oct 24, 2023



『愛し続けると誓った』

今は一刻も早く巣立って欲しくて堪らない。俺がお前を手放せなくなる前に、早く自分の道を歩き出して欲しい。

魔術師として成功する可能性を、人として愛し愛される相手と添い遂げる可能性を、俺の醜い独占欲で潰す日が来ませんように。

お前はたった一人の大切な弟子だから、ずっと幸せを祈っている。

12:33 AM · Oct 25, 2023

·


『好きにさせない』

「じゃあ僕がここにいたら、ずっと師匠と一緒にいられるの?」

「それは……あり得ない」

不意に師匠を遠くに感じた。

都合が悪くなるとすぐコレだ。

一線を引いて絶対に立ち入らせない。

子どもだから。その時が来たら。

大人の事情を振り翳し突き放す。

僕だってそれくらいわかる年になったんだよ。

12:38 AM · Oct 25, 2023



『灯り』『見上げる』『どうしてなの』

「もういい加減にしろ。家に入るぞ」

弟子から目を逸らし、遠くにひかる家々の灯りを見上げる。

「どうしてなの」

いつもみたいに我がままを言う声じゃない。はっきりと意思のある響きは、決して言い逃れなど許さないと俺に告げていた。

いつの間に覚えたんだ。

そんなに急いで大人にならなくていい。

12:49 AM · Oct 25, 2023



『内緒話』

「師匠、はい」

誤魔化される気配に僕は両手で右耳を囲い師匠の口元に向ける。これは師匠が考えた二人のルールだった。

こうして聞いたことはその場限りにするからなんでも言って良い。

今度は師匠の番だ。

辛抱強く待てば近づいてくる。

「お前が何よりも大事だから」

呻くような苦しそうな声だった。

12:32 AM · Oct 26, 2023



『帰したくない』

「じゃあ、なんでなの?!」

俺の返答に弟子は弾かれたように顔を上げた。

新たに滲む涙を拭ってやる。

「その場限りって約束だろ。終わりだ。家に入るぞ」

踵を返して、家を目指す。ほんの数歩だけの帰り道。弟子はついてこない。振り返れば、何度も首を横に振っている。

強い意志が瞳に灯っていた。

12:36 AM · Oct 26, 2023

·


『結ぶ』『振り返る』『ゆっくり』

師匠が拾ってくれたリボンで髪を結ぶけど、上手くいかない。短くなってしまった髪が忌ま忌ましい。振り返る師匠に首を振る。

「まだ、話は終わっていない」

じっと見つめ合うが、師匠が何を考えているかはわからない。

呆れてる?面倒だと思ってる?

ゆっくりとこちらに向かって師匠が足を踏み出した。

12:41 AM · Oct 26, 2023



『さよなら、また来世で』

一歩、また一歩と弟子に近づいて行く。

幼い顔は、期待と不安とが入り混じり強張っていた。

手を伸ばし、そっと頬を撫でれば素直に目を閉じる。

この信頼関係を勘違いしてはいけない。

髪を結ぶリボンをするりと抜き取った。

「お前は男で、未来がある。一人目の魔術師になって、女を娶れ。だからだ」

12:30 AM · Oct 27, 2023

·


『愛してる』

失恋の痛みとは全く違う。涙は出ないのに苦しくてたまらない。世界が遠ざかって行くような眩暈に襲われる。 師匠の言葉は簡潔だった。 男だから。未来があるから。 そんなの何だっていうの? 他の大人が言うみたいな言葉なんていらない。 いつもみたいに僕を見て。僕だけの為に言葉を選んで。お願い。

12:36 AM · Oct 27, 2023



『写真→像を焼き付ける』『項垂れる』『結ぶ』

弟子は何も言ってこないが、ただの一度も視線を外すことなく俺を見ていた。

意志の強い瞳、幼さの残る頬、何かを言おうとする唇。

みんな消えてしまうものだから、そっくりそのまま像を焼き付けるように記憶に刻む。

声もなく項垂れるのを見届け、背を向けた。

もうこのリボンをお前に結ぶことはない。

12:43 AM · Oct 27, 2023



『たった2文字が言えなくて』

どうして。どうして師匠は僕を遠ざけようとするの。

つまらない嘘なんかついて。

僕は一番近くで師匠を見てきたんだ。

人生のほとんどの時間を師匠と過ごしている。

どうしてそれがずっとじゃいけないの?

幼馴染には気持ちなんて伝えたくなかった。

だけど師匠には言いたい。ちゃんといつか伝えたい。

1:36 AM · Oct 28, 2023



『触れそうで触れない距離』

逃げるように弟子に背を向けた。

震える心は驚くほど臆病で、もう保護者としていられなくなるのも時間の問題だろう。

本当だったら一思いに姿を消した方がお前の為かもしれない。でも、そんなこと俺が耐えられないからはっきりと線を引く。お前の心も、身体も俺の手が届かないところに遠ざけてくれよ。

1:41 AM · Oct 28, 2023



『雨』『タイムリミット』『手招く』

急いで伸ばした手が空を切る。

「待って、行かないで」

雨が降る匂いに満ちていた。

タイムリミットが迫る。

僕を待たない師匠。どうしても待って欲しい僕。

「離れるのは嫌!どうしたら一緒にいてくれるの?」

子どもみたいに叫んだら師匠が振り返った。

どうか次の瞬間手招く姿が見られますように。

1:45 AM · Oct 28, 2023

·


『望んだ世界はこんなにも』

あぁ俺はどうしようもない。

自分に甘くて仕方ない。

子どもみたいに叫ぶ弟子の声に簡単に振り向いちまう。

「ほら、早く来い」

今にも雨が降り出しそうな黒雲を背負ったって、弾けるように笑う弟子の笑顔は眩しくて堪らない。

両手を広げて腰を落とす。

「ししょー!」

俺だけの温もりを閉じ込めた。

12:12 AM · Oct 29, 2023

·


『揺らぐ理性』

あと一歩のところから思い切りジャンプする。

久しぶりに飛び込んだせいで勢いが良すぎた。

「う、わっ」

いつもだったらそのままリフトをしてくれるはずが、ふたりで玄関先に転がった。

「いてて」

背中を打ったらしい師匠の上に馬乗りになった僕は顔を覗き込んだ。

「大丈夫?…すごく顔が赤いよ?」

12:17 AM · Oct 29, 2023

·


『ライト→灯りに変更』『靴下』『哀しみ』

顔を覗き込む弟子の顔を押し返す。

「気のせいだ。どけ」

「絶対赤い。灯り…」

「いらん」

灯りをつけようとする弟子を捕まえ、靴を脱がせば、靴下に穴が空いていた。

「寿命か」

「捨てないで!」

「なんだよ」

「師匠がくれたやつだから」

「また買ってやる」

どんな哀しみでも俺が拭ってやるさ。

12:25 AM · Oct 29, 2023

·


『お前だけが知っている』

僕と師匠の関係は何一つ変わっていない。

寝坊したら怒られるし、飯をもっと食えとドヤされる。

だけど、視線を感じて顔を上げると、師匠はびっくりするほど優しい顔をしている。

「なあに?」

「なんにも」

「最近の師匠は変な顔なことが多い」

「そうかよ」

「赤かったり」

「忘れろ」

「やーだよ」

1:13 AM · Oct 30, 2023



『どうしてそこまで』

昔から弟子は寝るのを忘れて本を読んだり、地面に絵を描き続けて森の向こうへ抜けたりしたもんだ。

もうこの思いと付き合っていくと決めたから、こっそり可愛い顔を眺めたいものだがうまくいかない。

「なあに?」

「なんでも」

すぐに視線に勘付かれる。

いっそ眠り薬でも使うかなんて考えるな、俺。

1:22 AM · Oct 30, 2023



『許す』『沈む』『花言葉』

「早く寝ろ」

「もうちょっと」

時間が許す限り師匠といたいから、脳が眠りに沈むギリギリまでは一緒にソファに座っている。

「お前、そんなに熱心に何読んでるの?」

「花言葉の本」

「似合わねぇ」

「仕方ないよ。相手は花が似合わないんだから」

「なんだそれ」

「でもプロポーズに花は必須でしょ」

1:26 AM · Oct 30, 2023



『君との距離、あと何センチ?』→『お前との距離、あとどれくらい?』

思ってもいない弟子の言葉に、開いた口が塞がらない。

プロポーズ?こいつは頭がおかしくなったか?

「正気だよ」

「何も言ってねぇ」

「師匠の考えることくらいわかるよ」

「気のせいだ」

「僕のこと、好きでしょ?」

今度こそ、本当にどうしていいかわからない。

全てを見透かす瞳から逃げられない。

1:36 AM · Oct 31, 2023



『今に見てろよ』

「そんな顔しないで。師匠を困らせたい訳じゃない。でも、もう決めたんだ。僕は師匠を伴侶にするよ。生涯を添い遂げる相手にするって決めた」

微動だにしない師匠の手を握る。

「師匠はさ、僕が何を言っても馬鹿にしないし、応援してくれるでしょ?だから、よろしくね?」

手の甲に誓いのキスをした。

1:37 AM · Oct 31, 2023



『もうおやすみ』『睨む』『反則』

弟子の言う言葉全てが理解を超えた。

「もうおやすみの時間だね、一緒に寝よっか」

調子づく弟子を睨むと、冗談だよ、と笑った。

「これからもよろしくね。良い夢を」

立ち上がりざまに頬を掠った柔らかな感触。

「おやすみなさい!」

走り去る後ろ姿の耳は先まで真っ赤だった。

そんなの反則だろ!!

1:37 AM · Oct 31, 2023


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