2025年6月
6月1日写真の日
「撮るよ」とスマホを向けられ「実は動画でした」のやつは何度引っかかっても恥ずかしい。そんな話をした後に恋人がスマホを向けた。「はいチーズ」ここぞとばかりに激しく踊り狂う俺。大爆笑の恋人。「見て!」スマホには正体不明の写真が並ぶ。そこは動画を撮るところじゃん…でもかわいいから許す!
6月2日 オムツの日
埋まらない年の差を受け入れる君は頼もしい。干支がお揃いだと心から喜び、一周先を生きる私を安心させてくれる。増えた白髪も目尻の皺も愛してくれるのは嬉しいが……ちょっと待て。私の腰を抱く手が、するりと丸みをなでる。「かぶれないようにオーガニックコットンがいいですよね」じゃないんだよ!
6月3日 ポンコツの日 なんもしない日
「なんもしない!」大学は履修登録失敗するし、バイトはクビ。時間があるから家事をしようと洗濯すれば泡だらけの俺はポンコツすぎる。布団をかぶって丸くなるとつつぅと背筋をなぞられた。指先だけなのに、いつもより恋人の体温が高いとわかる。「もしかして誘ってる?」じゃないけど、それもよし♡
ポンコツはなんもしないとふて寝する男の尻が俺を誘った
6月4日 蒸しパンの日
「出来立て」のポップについ手が伸びた。誰もいない朝のオフィスでほかほか蒸しパンの甘い香りを楽しんでいると、人肌にも似たきめ細やかな表面に目が吸い寄せられる。もしかして、俺は誰ともキスしないまま死ぬのか?思わず唇を押し当てた自分に悶える。俺はいい年のおっさん。乙女じゃないんだよ。
蒸しパンへ唇寄せる横顔にキュンじゃねぇよ、相手は上司
6月5日 ろうごの日
恋人と購入したマンションはスーパーと病院がテナントに入り、日当たり良好。一回り年の離れた私の老後を気づかってくれたのだろう。気に入っているが、ひとつ難点がある。「あ、お線香の匂い」君の声に視線を下げると、そこには墓地。「お化けが出そう」「……化けて出てね?」そこまで考えてたのか!
「まだ平気?」困った顔で笑うよね。定年したら毎晩抱くから
6月6日 ワイパーの日
居酒屋で隣あった男は好みのタイプど真ん中。ツンツンしてたから脈なしかと思いきや、ついてきて居候になった。いつも俺の膝を枕にくつろぐが、手を伸ばすと逃げていくのが解せぬ。二人でドライブ中、雨が降ってきたら、男はワイパーに釘付けになった。夢中で顔を左右に動かす。まさか猫じゃないよな?
兄の日
ねぇ兄ちゃん 無邪気に俺を呼ぶ声が 今では胸を切り裂いていく
兄ちゃんがいつのまにか縮んでた 俺いつまでも子どもじゃないよ
6月7日 ムダ毛なしの日
夏が来るとスネ毛が気になる。白い肌にちょろりと生えた毛は中途半端でカッコ悪い。横で寝ている恋人のようにふさふさしていたら良かったのに。「剃っちゃうか」ヒゲ剃りを数度往復させれば、俺のスネはベルーガそっくりになった。気がついた恋人は大絶叫。「愛する人が減っちゃった!」いや、毛だぞ?
うだる夜ぬれる縮れ毛からみ合う 人工の蜜 快楽の汗
6月8日 ローションパックの日
「ストレス限界。癒されたい」俺のうめきに同居人が腰を上げた。「おすすめはローションパックだ」先輩の女子社員が話していたのを聞いたことがある。若返るとかなんとか。「じゃあそれでぇ……」「OK!」ドンと目の前に置かれたのはペがつくローションの大ボトル。なんか俺の知ってるのと違くねぇ⁉︎
ネクタイの首輪が似合う社畜さん、俺しか見えない癒しをあげる
6月9日 ロックアイスの日
アメリカ勤務も三年目。慣れたものでアメリカ人みたいに暮らしている。友人宅へ向かう途中アイスの買い出しを頼まれた。チョコミントとクッキードオ。いつものフレーバーを抱えて登場すると静寂のち大爆笑。「氷が欲しかったんだけど?」赤くなる俺に顔を寄せる。「お前に教えたいことまだまだあるよ」
君が抱くロックアイスに嫉妬する 濡れた二の腕 指をすべらす
君が抱くロックアイスを奪い取る 親切じゃない 俺の場所だろ
6月10日 ところてんの日
「ところてんいいな」僕の言葉に君は動きを止める。冬に出会い、春に恋人となった僕たち。キスはしたがその先はないまま夏を迎えようとしていた。「……さっぱりしてるよな」やっと口を開いた君の顔は赤い。どうやら君も男同士の方法について調べたらしい。どっちで想像した?いつ答え合わせしようか。
ところてん始めましたの看板に笑み噛み殺す不埒なふたり
6月11日 雨漏り点検の日
しとしと雨の日に人が訪ねてきた。隣に住む同じ大学の男で眠そうな顔をしている。「部屋が雨漏りしてるんだけどそっちは?」「平気。部屋水没した?うち来る?」「助かる」修理が終わるまでと一緒に暮らすうちに関係は深まっていく。男は気持ちの良いやつだった。雨漏りしていると嘘をついていたけど。
6月11日 傘の日
「うわ、雨降ってら」一緒に残業していた上司の言葉に心でガッツポーズを決める。「置き傘あります。駅まで一緒にどうぞ」「お、助かる。お前は優しいなぁ」「いえいえ」下心あります。ゲリラ豪雨が来て電車止まってお泊まりしたいと願ってます。「お前、全部口に出てるからな。俺の家によってくか?」
雨の日に傘などささず濡れてやる 早く誘えよ 家近いだろ
一本の傘がふたりに味方する より添い歩く男と男
6月12日 恋人の日
(※ブラジルでは恋人同士が写真立てに写真を入れて交換する日です。スマホって現代の写真立てじゃない?)
営業帰りに偶然コーヒーショップでお前を見つけた。パソコン片手に難しい顔。テーブルのスマホに触れて仕事の手が止まり、あ〜あと思ったら、急にふにゃりと表情がゆるんだ。俺はそこに何が写っているか知っている。お前のスマホのロック画面は俺と同じ。ふたりの写真。「え、俺もあんな顔してんの?」
雨音のリズムに合わせ揺れる腰 腹打つ音に狂う突き上げ
6月13日 いいミョウガの日
日本人というだけでモテる暮らしに胸焼けしていた。色素の薄い人ばかりの国で僕の黒髪は目立つ。「君は日本人?」カフェで声をかけられ俯いたまま頷いた。「日本に行ったことあるよ」聞き飽きた言葉。気を引くための嘘に決まってる。「美味しかったな、ミョウガ」思わず顔をあげた。恋が始まる、かも。
6月14日 手羽先記念日
いつも余裕の男が困惑するのは、控えめに言って最高。しかもその理由がちっぽけな手羽先の唐揚げなんだから、愉快、痛快。「モタモタしてると、俺が一人で食っちゃうぞ〜」食べ方がわからないらしい坊ちゃんをからかった。「どうぞ。今夜は体力を使うでしょうから……ベッドで」あ、これマズイやつだ。
6月15日 生姜の日
暑い日はたっぷりの薬味を乗せた素麺が美味しいが、買い忘れてしまった。すっかり日本に染まった米国人の恋人に「今日はノージンジャーです」と告げれば灰色の瞳がきらりと光る。くるか?くるのか?「ショウガナイネー!」「ふははッ」わかっていたのに僕は我慢できず。本当に日本語が上手になったね。
6月16日 無重力の日
「ハニー、ヘルプ!」寝っ転がったガチムチは僕をひょいっと持ち上げると、ゆっくりと上下に揺らした。筋トレの助けが欲しかったらしい。たくましい両手両足に支えられ、僕は宙を泳ぐ。目の前には大好きな人。心までふわり軽くなる。「ありがと〜最近のハニー重くてイイネ〜」僕も運動しなくちゃね…。
6月17日 ファミマのフラッペの日
刑事の俺が毎朝飲むのはホットコーヒーのブラック。息子みたいな相棒は渋いっすと言ってくれるが、本当は腹が冷えやすいだけだ。コンビニでいつもの一杯を買ったら、フローズンドリンクのクーポン券がついてきたので押し付ける。「これあそこの。あなたとコンビに——」「え、浮気っすか⁉︎」「ばーか」
6月18日 海外移住の日
「仕事やめてどっか逃げたい!」「よっしゃ行くか‼︎」「海?山?」「どっちもあるところ!」恋人はにぃっと笑う。行くなら今度の連休か?と思ったが違う。書類にサインして、健康診断して、役所に行ったら、分厚い封筒が家に着いた。「婚約者ビザ⁉︎」「俺の国行こうぜ」「お前アメリカ人なの⁉︎」
6月19日 ロマンスの日
「かっこいい」テレビには大御所俳優が映っていた。恋人は三十路を越えたが、まだ大学生と言っても通じる顔立ちをしている。「俺も早く渋くなりたい」「イケおじ?」「ロマンスグレー憧れる〜!」アプリで写真の加工まで始めたから笑ってしまう。さては、ひと束白髪があるの知らないな?パンツの中に。
6月20日 犬を職場に連れて行く日
※「父の日」(6月第3日曜日)の後(6月19日以降)の最初の金曜日。https://zatsuneta .com/より
ルームメイトは実家の犬が恋しいらしく、俺の髪を撫でるのを日課にしている。「あした一緒に会社行く?」「急に言われたって無理」「お前にぴったりのイベントあるけど」「なになに……『ペットと出社しよう』って、俺ペット⁉︎」「あははは、じゃあ何だよ?」恋人がいい、なんて言えるわけないだろ。
6月21日 国際ヨガの日 エビフライの日
「おはよ、何それエビフライのポーズ?」「……バッタだよ」家でヨガをしていたら幼馴染がやってきた。「学校休みなのに早起きじゃね?」「お前もな」「筋トレのしすぎでドクターストップとかダセェ。で次はヨガか」「うっせ!」「何でそんなにモテたいかな〜」お前が俺のこと好きにならないからだろ。
6月22日カニの日
朝から俺はウッキウキ。だって家にお楽しみが待っているから。昨夜実家から届いた白い箱、中身はカニでした〜!ありがとう母ちゃん!ありがとう日本海!都内で買ったら栄一が大脱走だ。社内ですれ違った恋人に両手でピースして見せるとすぐにメッセージがきた。『外でアヘ顔禁止!』いやカニだってば!
6月23日 国際寡婦の日
お前を見送り独り暮らしが始まった。穏やかなもんだ。晴れた日は散歩して、好きな蕎麦を食べて。茶飲み友達がいると言ったらお前は妬くか?でもさ、足りないんだよ。牛乳を買いに行ったのに手ぶらで帰った時だ。どんなに待っても「バカだな」って笑う声がしない。お前がいない。早く化けて出てこいよ。
6月24日 UFOの日・空飛ぶ円盤記念日
暑すぎる。大学をサボり部屋でぐったりのびていた。「オレハ、ウチュウジンダ〜」「懐かし!」くるりと振り返ると、恋人が笑った。「宇宙人と結婚する気ある?」「はは、なんだそれ。UFO乗せてくれるならいいよ」「そっか。俺バイト行ってくる」「いってら〜!」ふと気がついた。うちに扇風機ないぞ。
6月25日 船員デー
マッチングアプリの職業欄に船乗りと書いたら通知が鳴り止まない。『ガチムチ降臨!』『仕事終わりヤバそう♡』すまん。俺は小さな連絡船の係員です。懺悔して服を脱いだヒョロい上半身をアイコンにしたら、即祭り終了。と思ったらメッセージが届いた。『〇〇さん?』嘘だろ。しかも会いたいって誰⁉︎
6月26日 露天風呂の日
帰宅したら家の中が水浸しだった。あれ?半魚人と同居してたかな?と思うレベル。「地獄か…」頭を抱えたら奥から声がする。「こっち〜」ベランダを覗くと恋人がビニールプールに入っていた。湯気が漂い、ほてった肌に目が釘付けになる。「露天風呂行きたいって言ってたでしょ♡」なんか違うけど許す!
6月27日 日照権の日
爪を切りだすとあなたは落ち着きをなくす。僕にとって、それがどうしようもなく可愛いのだが、気づかないふりをしている。あなたは照れ屋だから。音もなく立ち上がったあなたは真っ直ぐに窓へ向かい、カーテンを閉める。陽当たりにこだわって見つけた部屋なのにね。夜を待てない僕たちの視線が絡んだ。
6月28日 パフェの日
女顔の僕とイカつい君。喫茶店でパフェとコーヒーを頼めば、当然のように僕の前にパフェが置かれる。「僕、甘党じゃないのに」互いの前に置かれた皿を交換するのがお決まりだ。「パフェは可愛い子用だからな」君は苦笑いして、口の端についたクリームをペロリと舐める。この無自覚!可愛すぎるんだよ!
6月29日 国際熱帯デー
「暑い。暑すぎる。これは熱帯」東京砂漠ならぬ東京熱帯。嫌すぎる。能天気な相棒はビバ!とフラダンスらしきものを踊り始めた。「もはや東京はブラジル!え〜じゃあ、コーヒーとかバナナとか名産になって」「だから東京ばな奈なんだぞ」「なるほど〜!」嘘に決まってんだろ。ばーか。かわいいやつめ。
6月30日 リンパの日
宅飲みの酔いに任せて同僚の手を握った。冷えた指先が俺の熱に温もって強張りが解けていく。この先を望みながら、俺は意気地なしだ。「ほら、あれだ……体にいいというか」「巡りが良くなる?」「それそれ」誤魔化して手を離した次の瞬間、床に押し付けられた。「俺、リンパマッサージ得意なんだよね」




