2024年8月
「変態」「振り返る」「充電」
僕の週末は充電から始まる。掃除機、ゲームのコントローラー、シェーバーと繋いでいけば、すぐにコンセントはいっぱいになった。ガタンと玄関から聞こえる物音に振り返ると僕の心臓は急にうるさくなる。服を脱ぎ捨てながらやってくる男は挨拶もなしに「ヤるぞ」と笑った。「変態」僕の充電も始まる。
「睡眠中」「閉じる」「旗」
色恋ごとは御免だ、と告白する前からお前には振られている。黙って腐れ縁に甘んじているが、晩酌に付き合うだけでは物足りない。睡眠中のお前は無防備だから「好きだ」とお前の耳元で囁き共寝する。いつからかその後目を閉じるとお前から熱いため息が聞こえるようになった。白旗をあげる日も近いのか?
「下旬」「そらす」「指」
毎月下旬を迎えると、経理課は途端に忙しくなる。残業で肩はガチガチ、眼精疲労は限界突破、空腹すら忘れてしまう。そんな深夜の地獄から目をそらし、僕は気になる後輩をからかうことにした。「ここ、間違ってるよ」指摘するとせっかくのイケメンが歪んだ。ねぇ、奥さんの元に帰らないで僕と遊ぼうか。
「過去」「つつく」「絵」
たった一枚の絵が過去の古傷をつつくなんて思いもしなかった。しかも運の悪いことに、無邪気な君はこの絵が気に入ったらしい。「イルカ可愛い〜飾るならリビング?」と購入する気だ。「その絵には苦い思い出があって」と正直に告白すると君は表情をなくす。「なんだもう購入済みか。もういい。別れよ」
「深夜0時」「だます」「爪」
「いまなんじ?」
ベッドの中の貴方に聞かれて時計を見れば、深夜0時が迫っていた。いつもなら最終電車に乗るため身支度を整える時間だけど、僕は「まだ大丈夫」とだけ答える。僕がだますなんて想像したこともない貴方はすぐに寝息をたて始めた。ねぇ、もう帰らないでよ、とは言えないまま爪を噛んだ。
「毎日」「ふく」「槍」
毎日決まった時間に起きるなんて無理と思ったら、学校前に開店したパン屋が超旨い。限定10個のとうふくりまんじゅうパンが俺的ベスト。これを食べなきゃ命滅びるので開店と同時に買いに行く。結果、遅刻常習犯は返上、パン屋になる夢もできた。そろそろ槍でも降るか?って先生、パン屋のオーナーなの⁈
「秋」「打つ」「首」
夏休みが明けたら友人に彼女ができていた。プールで知り合ったと馴れ初めを聞いて腹がたつ。ぽっと出のくせに何なの?これがBSS—僕が先に好きだったのにってやつか。秋になったら告白しようと思ってた。校門で彼女と待ち合わせる友人の首を狙ってピストル型の指で打つ「好きだった」振り向くなよ、ばか
「とっくの昔」「ゆだねる」「紫」
とっくの昔に答えは出ていた。
顔合わせの席でお前は俺の名前を聞くなり「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」と呟いた。ちっとも意味はわからないけどお前の横顔が満足そうだから決めた。パパなんて呼ばない。いつかこの身をゆだねる相手にするから。ごめんねママ。これ俺のにする。
「寝る前」「着る」「熱」
気楽な人生を愛していた。仕事から帰宅後シャワーを浴びて独り晩酌をする。眠くなったらそのまま寝ればいい。だが出会ってしまった。スマホを握りしめ、あてのない連絡を待つ。スーツを脱いで寝る前まですぐに外出できる服を着ている自分は滑稽だ。でもこのまま熱に浮かされていたい。夢を見ていたい。
「いつまでも」「開ける」「扉」
いつまでも貴方の帰りを待つことは辛いだろうと思っていた。二、三日は泣いたこともあったが、始まってみれば、それは平和そのもので、独り静かに思い出と暮らしている。永遠に続きそうでも、始まったものは必ず終わる。どうか旅から帰った貴方を迎えるために扉を開けて、終わりを迎えられますように。
「明日」「鳴る」「蔵」
「じゃあ明日、駅ね!」
「わかった」
「11時だよ!」
「わかってるってば」
そんなに心配なら待ち合わせなんかしなけりゃいいのに。アイツが家に入るのを確認して、すぐ隣の家に帰った。お蔵入りしていたジャケットを羽織ってみれば胸が高鳴るのを感じた。俺だってデート、楽しみにしてるんだからな。
「睡眠中」「ふく」「屑」
腐れ縁も五年目になると、甘い言葉も触れ合いも過去の産物となり、きっと愛情も枯れたに違いない。だから本当の気持ちはお前が睡眠中にこっそり呟く。
「ホラをふくし屑だしムカつく……けど好き」
満足してベッドに潜り込むとお前の腕が絡みついた。
「なぁ、今の本気?」
そこは俺もって言えよバカ。
「勤務中」「打つ」「絵」
「首のとこ虫に刺されてますよ」
部下に手渡された痒み止めを手に、猛スピードで課長は出て行った。
すぐに俺のスマホが震える。
『ふざけんな!』
冷静沈着な課長が勤務中にこんなメッセージを打つなんてね。返信は唇の絵文字をひとつだけ送る。
「よっぽど痒かったのね」
真相は俺だけが知っている。
「乾季」「飲む」「緑」
欲しくて、欲しくてたまらない。狂ったように貴方を求める自分が怖い。「人生の乾季だからしょうがない」と笑って僕の要求を飲む貴方なんて大嫌い。貴方にも乾季があった?その時誰を求めたの?と聞いてしまいそうだから唇をふさいで。乾季を終え芽吹く緑なんて見たくない。ずっと貴方を求めていたい。
「ゆる過ぎる指輪」
「馬鹿にするな」と突き返していたら苦しい思いはしなかっただろう。渡された婚約指輪は時代遅れのデザインで、サイズは全く合っていない。結婚したかった相手は誰?と聞けないまま身代わりの結婚を決めた。
「君に初めて出会った日に婚約指輪を買ってしまった。成長した姿を想像して」
早く言ってよ。
「永遠」「裂く」「頬」
永遠に心を裂く痛みなどないと貴方は僕を笑ったけど、今になれば自分が間違っていたとわかるだろう。「どうしてこんなことに!神などいない…」頬を引き攣らせ絶望した。これだから徳の低い人間は困る。「全ては日頃の行いだから」「たかがガチャだろ?!」「うん」「…掃除してくる」家事よろしく〜!
pome村さん@pomemura_
#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる
https://x.com/pomemura_/status/1823354414704538074
カーテン開けたら酒池肉林⁉︎
「確かに俺うまい飯食いたい、綺麗なもん見たいって言ったけど、全部旅行の話でしょ⁉︎」
「うん。わかってる」
「お前いっつもジャージ着てたのに何その服⁉︎もうそんなの王子様じゃん‼︎」
「あたり。今から二人で結婚式して披露宴して新婚旅行だからよろしくね〜」
「明け方」「眠る」「闇」
「いってらっしゃい」と俺を見送るあなたはいつも眠そうで儚い笑顔を浮かべている。闇が怖いと夜に眠ることを諦めたあなたがベッドにいないことに慣れた自分が嫌だ。本当は明け方の浅いまどろみの中、足を絡め頬を寄せたい。寝なくてもいいからベッドにいてとわがままを言えない俺はただの臆病な弱虫。
「白い布」
生贄の花嫁として異界に来て、すぐに目隠しをされたが理由はわからない。あなたが僕の目を覆うために選んだ布は白くて薄い。しっとりと柔らかな肌触りで、目を開ければ布越しに異界を見ることができる。シルエットだけしか知らないあなたは一体何を隠しているのだろう。僕の旦那様。あなたは誰ですか?
「側妃のふりをした騎士」と「侯爵」の二人が「舞踏会」で「ばか」と言って終わる物語
「あなたの手を取る栄誉を」
奔放な側妃が替え玉をおいて舞踏会を抜け出しているのは有名な話なのに侯爵は跪いた。無碍に断ることもできず応じるがドレスになれない騎士の俺は子鹿のようにしか歩けない。
「ちょっと、あんた何考えてるんですか?」
「さらうなら絶好のチャンスだと思って」
「ばかぁ」
「攻めが感動屋で受けが冷め切っている両思いな」二人が「動物園」で「ばか」と言って終わる物語
「あぁ!ここ何?楽園なの?右を見ても命、左を見ても命。どこもかしこも生命にあふれてるんですけど?!」
「うん。動物園だからね」
「そして私の隣に愛しいあなた!幸せ!もうこのまま死んでもいい!」
「俺のこと置いて逝く気か?」
「無理!絶対連れてく〜!」
「そこは一緒に生きるだろ、ばか」
惚れっぽい上級貴族×転移してきた下級冒険者
「かわいい。お前のこと雇う」ギラギラに着飾った男に急に首根っこを掴まれた。「うえぇ?」位は不明だが偉そうなのは確か。そしてこういう奴は絶対トラブルの元!だてになろう系読んでない。えーと嫌われるにはどうするんだっけ?「お前の言いなりにはならねぇ!」「面白い奴だ」あ、絶対間違えた〜!
勘の鋭いグラフィックデザイナー×イタズラ好きなグラフィックデザイナー
「じゃあラフ案は17日まで。締切厳守な」
「本当にじゅうしち日ですか?じゅういち日とかなしですよ」
「そ、そんなわけないじゃん」
「あんた前もそれやったじゃないですか!」
「だってお前の焦る顔レアだから……」
「今も焦ってますよ?あんた鈍感だから。早く俺に気持ちに気づけよ」
「ふぇえ?」
「一昨日」「思い切る」「嘘」
「お前のことなんか好きじゃない」
臆病な君の言葉を僕は信じない。
一昨日君が作ったカレーは僕が好きな甘口だったし、昨日の帰りは雨の中反対方向の駅まで送ってくれた。
「俺たちはただの友達だろ」
「でも僕は君が好き。君もでしょ?」
思い切るなら今だよ。頷くだけでいい。僕のかわいい嘘つき。
「警告一回目」
待ち合わせに遅れたら、恋人は先にバーで飲んでいた。
「そんな顔、外でするなよ」
「そんな顔ってどんな顔?意味わかんない」
僕に会えて嬉しいと全身を使って発信してくるくせに、言葉はツンと尖っている。
「ん!」
無理に唇を奪えば力が抜ける。
捨て身の警告やめろよな。誰かにとられちゃうだろ。
「年の初め」「揺れる」「板」
年の初めに決めた目標なんていつも覚えていないのに、今年は違った。不毛な片想いに決着をつけたくて『好きな人に告白する』と決めたけど、顔を合わせるたび心は揺れる。「お義兄ちゃん好きだよ」真夜中に一人きり冷蔵庫の伝言板に大きく書いて消した。翌朝見つけた「俺も」の文字に期待しても良いの?
8月19日は俳句の日
送り火に私も乗せて行かないで
寂しさ全開の句を詠みながら「約束してくれないなら焚きません」という意地っ張りの未亡人が良い。「うちはずっと新盆が終わらないので」と言って盆提灯は白一個だけ。
8月21日はバニーの日
職場で君が笑う時は隠れるように下を向いて、そっと口元に手を添える。体に染み付いて流れるような動きは、かつて誰かが心無い一言で君を傷つけたからだろう。でもね、大丈夫。君の白くて少し大きめの前歯の愛らしさを僕は知っている。家では何も気にせず笑う君は僕だけのかわいいバニーボーイ。




