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2024年6月

6月1日総務の日「寂しい朝」


 辛い通勤電車のオアシスとして、こっそり眺めていた学生さんが姿を消した。社会人になったのだろうか。面接希望者が来るからと、いつもより早く乗った電車の中で、スーツ姿の彼を見かけた時は胸が弾んだ。でも、まさか行き先が一緒なんて。運命は言い過ぎ?勇気を出して微笑む「おはようございます!」



6月2日は路地の日。「引っ越し中の発見」

 新卒入社した会社がブラックで即退社。お先真っ暗と思ったら運良く中途入社で拾ってもらえた。しかも、そこには憧れのあの人がいた。これからのハッピーオフィスラブを思えばい引っ越し作業もすいすい進む。

「ちょっと休憩しようぜ」

 手伝いの友人と路地裏へ一服しに行くとそこには怪しい人影があった。



6月3日なんもしない日「授業の後に」

 寂しいのが嫌で予定を詰めるのをやめられなかった。なんもしない日なんて考えられない。社会人になってからも休日は資格取得のために予備校に通う。人肌が恋しくて好きでもない相手と関係を持つことに罪悪感はないが、授業の休み時間に引き摺り込まれた路地裏であの子と目が合った時、初めて後悔した。


ボツ:なんもしない要素がイマイチのため。

 髪を下ろし眼鏡を外していれば、誰も自分だと気が付かないと思っていた。資格取得のための予備校で、意味ありげに視線を送ってくる講師の誘いに乗ったのは、授業料が浮くかなと思ったから。もう不埒なことは何もしないと決めていたのに己の貧乏性を呪う。男の肩越しに見たあの子の驚く顔に後悔した。


ボツ:キーワードを完全に忘れていたため。

 同性が恋愛対象と自覚して絶望したのは昔のこと。責任に縛られず遊び歩けると開き直ってからは好き放題したが、三十が見えて不埒なことはやめた。それでも昔を知る男に会えば見逃してもらうことは難しい。何もしないと決めた休日に路地へ引き摺り込まれた上に、あの子に見られるなんて、ひどい日だ。



6月4日は武士の日「好きだよ、嘘だよ」

 人の情事を邪魔する野暮な男にはなりたくなかったが、気がつけば二人の間に割って入っていた。あの人が何でもないと言うのを無視して駅まで送った。「今日見たことは誰にも言いません。変な噂が流れたら腹を切ります」「武士?そういう真面目なとこ好きだよ」驚いて顔を上げると『うそ』と唇が動いた。


6月5日はろうごの日。「にごった水」

 あの子に憧れたのは自分とはかけ離れた純粋さを感じたから。老人に座席を譲るだけでなく、満員電車の中で人の邪魔にならないようにと縮こまる姿に人の良さが出ていた。間もなく三十路の自分は後ろめたいことばかりしてきた。濁った水に溺れるように人生を終えるのがお似合いだから近づいてはいけない。


6月6日は兄の日。「類似品」

 こちらの様子を面白がるように笑うあの人に面食らったが、視線をそらした後の表情には見覚えがあった。他人に頼るのが下手で心身を壊した兄が何かを諦めるときはいつも嫌なことをして似たような目をしていた。自分に都合の良い思い違いかもしれないが、勘違い男でもいい。あの人を独りにしたくない。


6月7日はムダ毛なしの日。「調子っぱずれの」

 「俺、結構いい胸板してるんです」「へ?」あの子の言葉に思わず間抜けな声を漏らした。「水泳やってたんで、筋肉+脂肪でふわふわだし、ムダ毛もないし」黙っていると焦り出した。「あ!変な趣味じゃなくて毛がないほうがいいタイムが出るんです!」あまりに必死で笑ってしまった。何だったんだろう。


6月8日はガパオの日。「プリント」

 幸運なことに営業部に配属されたから経費精算のプリントを握り締めてあの人がいる総務部を訪ねられる。勤務中のあの人は冷ややかな印象で俺にも冷たい。「昼飯行きませんか?ガパオのうまい店があるんです」何度断られても繰り返し誘う俺に、呆れた視線を送るのはあの人だけじゃない。でも負けない。


6月9日はロックの日。「入場料をいただきます」

 あの子の誘いを忙しいと断り続けるせいで外食に出られない。時間をずらして離席するとミーティングルームに忍び込んだ。メールに返信している間にロックする前のドアが開いて大きな体が捩じ込まれた。「お邪魔します」「ちょっと、いいって言ってない。入場料とるよ?」「いくらです?喜んで払います」


6月10日は無糖茶飲料の日。「背中に温もり」

 「はぁ、信じられない」ため息をついて不機嫌な顔になるのを見て、嬉しくなる。「人のこと困らせて笑うなんて性格悪いね?」「だって、そうやって感情出すの俺の前だけでしょ」無言で出て行こうとするのを引き止め、背中に温かいお茶のボトルをつける。「邪魔してごめんなさい。これあげるから許して」


6月11日は傘の日。「甘くて、甘くて」

純粋に見えたあの子は意外と強かで駆け引きが上手い。「参ったな」「忠犬君?」知らないうちに漏れた言葉に同僚がそう答えたから、手を打つべきだと思った。終業後、雨に立ち尽くす彼を傘の中に誘いホテルに連れ込んだ。「大人を舐めると痛い目を見るよ?」「貴方となら喜んで」とろり視線が溶ける。


6月12日は恋人の日。「痛恨の極み」

あの人の性的指向対象が同性とわかってから、この時が来るのをずっと待っていた。電車に乗り合わせていた時から視線を感じていたから、俺の見た目を気に入ってるんだろう。体からでも遊びでも関係が始まれば絶対に恋人になる自信があった。「どっちでもいけます!」「は?休むだけだから」「えぇ⁉︎」


6月13日ははやぶさの日。「大人一枚」

ホテルのベッドで一緒に寝転がっても、あの子は指一本触れてこなかった。欲望丸出しで襲ってくれれば幻滅できたのに。相変わらず総務部に顔を出しては誘ってくる。「ね、休めるとこ行きましょ」いたずらっ子みたいに笑うから折れた。「プラネタリウムかぁ」「割り勘ですよ?付き合ってないんで。まだ」


6月14日は世界献血者デー。「締切二時間前」

体を動かすことは何でも得意で、頭を使うこともまぁまぁ出来る。そんな俺が唯一苦手なものが針だ。普段の外面の良さのせいでオフィスに来た献血カーに連れて行かれ青くなる。終了後に貧血を起こし医務室で寝るハメになった。頬を突く感触に目を開ければあの人がいた。「清算の締切迫ってるんだけど?」


6月15日はオウムとインコの日。「残りがあるなら」

「すいません!」飛び起きようとするのを覗き込んだ。「近い」「チカイ」おうむ返しでからかうとムッとした。「キスしますよ⁉︎」「キスシマスヨ」「どうぞ」「ドウゾ」目を丸くしながら遠慮がちに触れてすぐ離したのがおかしい。「インコか」「ラブバードですね⁉︎」「清算いいの?」「残ってる!」


6月16日は無重力の日。「にわか仕込み」

突然あの人がデレた衝撃に貧血はすっかり治った。むしろ血の気が多すぎて困るくらいだ。「すぐ、すぐ行くんで、ちょっと先に行ってください」「肩貸してあげるよ?」「……逆効果です」「そう?」気合を入れてもふわふわと浮ついたまま総務部に辿り着く。あの人を見た瞬間、急拵えの真顔がゆるんだ。


6月17日は薩摩の日。「警告一回目」参考:https://www.8toch.net/translate/

真っ赤な顔で登場したあの子は大きな声を張り上げた。「締切直前になってすみもはん!清算たのみあげもす!」「は?何語?」「薩摩弁が出てしまった!」「え?出身なの?」「いえ、西郷隆盛ファンです!」「何それw」笑っていたら同僚に黄色い付箋を貼られた。「いちゃつくなら出てってくれますぅ?」


6月18日は国際寿司の日

2人揃ってきょとんとしている。イチャついてる自覚なしかよ。まさか総務の氷と営業の忠犬がゴールインするとは。視線を感じて顔をあげると課長が小さくVサインをしていた。「くぅ」回らない寿司なんか賭けるんじゃなかった。普通の寿司屋なんか連れて行ってたまるか。海外 創作 寿司屋で検索を始めた。


6月19日はロマンスの日

「精算お願いしまーす」「はい」二人がイチャついたのはあの日だけで、すぐに元に戻ってしまった。忠犬くんに対する冷え切った対応にこちらがドギマギしてしまう。これは寿司代を貯めなければと思っていたら「課長、手続きお願いします」と当人が住所変更届を出した。これ忠犬くんと同じ住所だよね⁉︎

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