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第2話 広場で謁見と火矢と氷槍

 エルフ歴1008年8月2日


 僕の名前は、アルフレッド・ドラコ。みんなから『アル』と呼ばれている。妹と同じ、子爵家の息子。そう、双子の兄。

 僕は()()()()。妹が先に生まれたと言っているようですが、朦朧(もうろう)としていた母が言う事が信じられる事もなく。その場で立ち会ったユーノおじさんが言ったのだから、こちらが間違いない。


 さて、こんな不毛な言い争いより、昨日の気になる事を妹に言うべきだろうか?

 その「お披露目会」での事。


 ☆☆☆・・・・・・☆☆☆


 父と母、にこやかにテーブルからテーブルへと挨拶をしていた。


 それとは別に見知った一団。僕の左前に一団の老人が座るテーブルがある、師匠達がまとまって座っているのだ。そこから聞こえてきた話声、僕のスキル『地獄耳』が聞いていた。


 なにか気に障ったのかジャックが屋敷・・いや、その奥を見ている。

 「ネズミが2匹入ってきたぞ。追い払う奴は誰だ?」(ジャック)

 「・・・魔法使いじゃないわね。誰でもやれるじゃない。」(シスター・アズ)

 「ワシは動けないんだ、若い者に任せるよ。」(先代領主、元PTのリーダー)

 「悪いが、酔って動けないよ。」(領主の父)

 「ごめんなさい。同じく酔ってしまいました。」(ユーノ)

 「しょうがないなぁ、じゃあ、あいつらでいいですか?」(ジャック)

 「任せるよ。」(先代領主)

 「坊ちゃんは駄目ね、こっちに気付いている。」

 シスターが小さく手を振り僕にウインクを打つ。

 流石にそれは恥ずかしい、うつむいてしまう。


 ロゼをジッと見つめるシスター。

 しばらくの後、ロゼは、何かを思い出した様にゆっくり立ち上がると屋敷へと歩いて行った。


 ジャックは、執事長とメイド長を呼び寄せなにやらヒソヒソ・・。

 庭には数名のメイドしかいない、人手の足りなくなった会場へ師匠達のお手伝い。


 それからしばらくたった後、一人のメイドが僕に近寄って来た。

 「お嬢様は、服が汚れてしまったので戻れないそうです。後をよろしく、との事でした。」

 はぁ・・、また何かやって服を汚したのか・・この時は、老人達の悪だくみを知る由もなかった。


 ☆☆☆・・・・・・☆☆☆


 と、思い出していたのだが。

 「いててっ!」

 後ろ髪をいきなり引き下ろされました。

 「何するんだよ!」

 「さっきからジロジロ見てるからよ。いくら弟でも失礼でしょ!」

 決めました、昨日の事は黙っています。


 髪を手櫛で整えながら、一団高い椅子に座って到着した村長達と挨拶を交わす。

 村長は、次期領主となるだろう双子に媚びを売る。今より税に手心を、町の施設を新たに・・見え見えである。

 村長に付き従っているのは、村の有力者。店主だったり工房主だったり、こちらもギルドの利権絡みだろう。ギルドに介入すると碌な子は無い、無難に曖昧な返事をしておく。


 中央広場にある地下ダンジョンの反対、広場北側に設置された『ドラコ子爵家、ご子息ご皇女の御入学前の謁見会場』。垂れ幕で切られた会場に座って、周辺領地からの謁見を行っていた。

 後ろの両脇には、父と母が笑顔で座っている。今日は、主人ではないと挨拶に来た村長達への挨拶も淡々と行っていた。


 お祭り騒ぎになるのは想定されて、騎士団、自警団が警護と周囲警戒に当たっているのだが。


 垂れ幕の下から覗き込む子供達。

 遠いと分かっていても、南側の建物の屋根や二階から覗き込む住民。

 会場周囲の立ち木に登って覗き込む冒険者達。


 次々と到着する村長達の荷馬車が広場を占領しだすと、街道を往来する馬車が渋滞を引き起こす。会場は、混乱とカオスの様相を醸し出していた。


 それを持っていた連中もいるわけで・・・・


 会場の奥に設置された、会食用のテーブルに居座った老人達。

 「ねえ、あそこ・・変な魔素が渦巻いているわよ。」(シスター)

 「こっちの反対側だ。坊主達がなんとかするだろう。」(ジャック)

 「一応言っておくか?」(先代領主)

 「あいつらなら、何もしなくてもいいと思う。」(ユーノ)

 「そうだな。ところで、そいつらはワシらのお客さんか?」(先代領主)

 「風体から違うな、警告を無視してダンジョンに入った連中だろう。」(ジャック)

 「また逆恨みか・・」(先代領主)


 僕たちは、そんな事は知らない訳で。


 「あの樹から嫌な殺気が来るんですけど。」

 「そうみたいだね。変な魔素が渦巻いている。」

 「あんた魔法使いでしょ、何とかしなさいよ。昨日、チョット破ったくらいで色々言われたんですからね、今日もまた言われるなんて御免よ。」

 「しょうがないな・・・何をしているのか調べてみるよ。」


 「地獄耳」に聞こえて来たのは、詠唱している声。

 「火矢を作っているようだね。来たら無効化出来る?」

 「無理よ、お洋服に火がうつったらどうするのよ。」

 「じゃ、氷を打つけど・・騒ぎになるよ。」

 「しょうがないじゃい・・・それで、こんなバカ騒ぎが終われば助かるわ。」

 「それは無いと思う。まだ半分しか来ていないから多少の騒ぎはもみ消すだろうね。」

 「はぁ・・、もうそろそろじゃない。さっさとやってよ。」


 右手を頭上にかざすと、小型の『ランス』を魔素で作成。属性は、『水』、周りの温度を急激に低下させ『氷のランス』とする。

 ランスは、持ち手を保護する為ラッパ状に広がった部分がある。これに『突風』を当てると、氷のミサイルになる。


 繁みに隠れていても、魔素を駄々洩れさせていれば何をしているのか丸わかりになっている。初級魔法使いなのだろう、火矢を実射するのに『ボウガン』を使っている。

 こちらが見えているはずなのだが、射かける事を止めようとしない・・火矢が飛ばされた。

 やむを得ない、ランスを射る。


 樹の中の魔法使い、息を飲むのが聞こえるようだ。思いがけない反撃に戸惑っている。

 通常、水系の魔法は『水球』『水刃』を使用する。氷まで凝固させたりはしない、魔素の消費が半端なく効率が悪すぎるのだ。


 『氷のランス』は、『火矢』と衝突。先端が蒸発するがその速度は衰えていない。そもそも質量が違いすぎる。

 魔法使いは、ボウガンを捨て前面に『魔法障壁(シールド)』を展開するが初級程度のシールドで防げるはずも無く。

 シールドを破壊したランスは、その場で実体を解く。周囲に霧散した魔素が急激に周囲の温度を下げ凍らせていく。

 凍り付く葉。驚いた魔法使いは、凍った枝から滑り落ちてしまう。


 「これで良いかい?」

 「まあ弟にしては、上出来よ。褒めてあげる。」

 『フゥ・・・言っても無駄か。』


 多少の騒ぎはあったのだが、「謁見会」はつつがなく進行していく。

 ドラコ子爵領について少々の説明。

 もらい受けた子爵の領地は、中心の町と周囲に広がる8区画の村からなっていた。サイコロの目と同じに9区画(30kmx30kmx9)8,100平方kmの領主である。

 町の中心、東西を交通の主要幹線が走っている。周囲が広大な耕作地で他に産業が無い為、(資金難もあって)町防衛の城壁は無かった。

 町北部を領主と有力者の館・様々な官庁・高級商店街・有名工房など町の顔と呼ばれる屋敷が並んでいた。

 対して南部は、平民の住む家・路地沿いに点在する市場や露店街・それよりも多少ましな商店街や古びれた町工房などが雑然と並んでいた。

 この町の中心に、町の規模にしては不似合いな大きさの『中央広場』があった。そこで先代領主は、待っていた魔核により新たな『ダンジョン』を創り、冒険者達を集める事にした。


 最初に南西と南東に住むための居宅を造り移住を強要する。最初反発していた住民も全て無償で貸し付けると言われると、素直に引っ越ししていった。

 様々な建物が用意されていたので、職人は工房付き居宅・露天商は店舗併用居宅、それぞれ住む家族にあう建物を見つけて移り住んでいった。なお、改造は不可なので、買い取って建て直す事になる。


 引っ越しが終わった南部の土地を更地にすると・・・新たな町造りとして、ダンジョン南の区画整理を行った。ダンジョンに接する様にアイテム鑑定と売買が出来る『冒険者ギルド』・武器防具を扱う工房や商店・長期滞在用の宿屋、貸家、簡易宿泊所・高級酒場から場末まで幅広く飲食街を配置すると・・・これは見事に成功し、連日王国中から冒険者達が集まってきた。

 ダンジョンからもたらされるアイテムは、冒険者達を潤しそして町へと還元されていった。


 ここ子爵領は、元々は別の名前で呼ばれていた。しかし、『ドラゴンの魔核』からダンジョンが創られ、町が繁栄していくと冒険者達から『ドラゴンダンジョンの町』と呼ばれるようになった。

 しかし、先代領主はこの名前を気に入らなかった。ドラゴンの名は、忌々しい呪いを思い起こさせる。


 呪いの元は、『ドラゴンの魔核』にあると気付いたのは、養子に迎えた甥に子供が出来ないと分かってからだった。呪いの元凶を知らずに、『ダンジョンの創生』を甥に任せてしまった後だった。

 せめて名前に主旨返しとでも考えたのだろうか、町の名は『ドラコ』とし、ダンジョンは『ドラコダンジョン』と改名する事にした。もちろん王都に届ける事は忘れていない、きちんと許可も取っている。(かなりの金貨が・・)

 これ以降、領主は『ドラコ子爵家』と名乗る事になる。

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