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第12話 北の村とシスターの災難

 雷雲は、去ったが・・後を追うように雷鳴と光が、僕たちを襲った。


 それは、立ち去った雲を追うように地に落ち、強烈な音と光が馬たちに降り注ぐ。いくら訓練を受けていても、これに対応できる事は出来ない。パニックになり口から泡を吹き、この場から逃げようと足を懸命にばたつかせる。

 しかし、四頭とも馬具によりそれぞれ繋がれている。そして、反対側の馬車は脱輪して手前には動かない。

 悪い事に後方の馬たちは、馬車が斜めに傾いた為 後ろ脚が持ち上がり気味になっている。踏ん張りの効く前足が馬車をさらに後方へと押しやる。

 前方の馬たちは、前へ行く事が出来ない。しかし、それどころでは無い、訳も分からず後方へと引っ張られる。この場から逃げようと、横に移動を始めた。


 「ああ、なんだこれは。」

 酷い物音に慌てて戻ったジャック師匠、素早く御者台に飛び移り手綱を操り始める。次第に遠のく雷鳴と手綱により、次第に落ち着いていく馬たち。

 「悪いな。まさかこうなるとは思ってもいなかった。」

 外套だけぬいで急いで来たのだろう、御者台でこちらを見ている。

 「これじゃ前に行けない、馬車の向きを変えるのも無理だ。仕方ない馬具を外して馬車の位置を直すしかないな。」

 そう言うと、後ろの御者に声を掛け四頭の馬具を外しにかかった。


 「さっきより酷くなったわ。アル、得意の魔法でさっさと直してよね。」

 そう言われても、道から外れている車輪は3つ。それだけではない、馬車は30度程斜めになっている。ジャック師匠の言うとおり、無理に馬を進めればぬかるんだ畑に馬を進める事になるが・・脅え切っている馬が言う事を聞くとも思えない。人力で馬車をぬかるみから出し、方向を直す必要があるのだが・・。


 人獣戦争が終わると、無理に区画を作り道を新たに造った。その補修は、へこんだ道に土を盛るだけ。最初畑と同じ高さだった道は、戦争後約200年の間に盛り上がっていた。この場所での高低差は、20cm以上ぬかるんでいる部分が5cm程なので、最大30cmの高低差がある。


 御者台の板は、取り外せる。ぬかるんだ道に車輪を取られた時、何もない所で休憩する時の簡易の長椅子として。

 外すのは簡単で、板の端にある『留め具』(ズレないようにはめてある木片)を外して、スライドさせて端の金具から抜ければ持ち上げるだけ。

 愚弟に言われるまま、馬車と荷馬車の板を一か所にまとめる。

 「じゃこれで固定してくれないか。」

 愚弟は、針金と先のとがった金属の棒を持ってきた。

 馬車の板は、荷馬車より幅があるので長い。それを3本縦に並べて、荷馬車の板から同じ様な幅の板を添える。荷馬車の板の端に、真ん中から折った針金を回し金属の棒に絡める。『ギリギリ』と聞こえそうな位に締めると。

 「あと3か所、同じ様にしてもらえる。」

 と、金属の棒を渡された。これは、屋敷の大工達が修理でよくやっていた。やり方は聞いていたので・・やってみた。


 愚弟は、最初に落ちた車輪の泥に手をいれ底を調べているようだ。


 体に魔素が流れてきた・・これは『土属性の魔素』?車輪の下に土を集めて、馬車を持ち上げる?


 そうでもないのか、馬車は持ちあがる様子もない。終わったのか立ち上がると、次々と車輪の下に移動して魔素を流し続けている。


 戻ってきた愚弟は、3本に緊結された板を見て回り緩み具合を確かめている。満足した顔をしている。更に手をかざして、今度は『風属性の魔素』を送り込む。シスターから『風属性』は、木と相性が良いと聞いているが・・?どうやら、板の隙間に魔素を送り込んで接着させたようだ。


 「これで、強度は大丈夫だろう。そっちを持ってくれないか。」

 言われるまま、端を『アル』途中を『アダム』と『イブ』、最後を私が持つ。


 アルは、畑の中に入ると車輪のそばに置く。ぬかるに板が沈むがお構いなしに指示をだす。


 端を持った私が馬たちと反対に立つと。

 「そのまま持っていてよ。」

 再度板を持って浮かし、端をスライドさせる。

 「少し持ち上げてくれないか。」

 私が両手をバンザイの所まで上げると。

 「今度は、ゆっくりと下げてくれ。」


 馬車に揺れる、持ちあがっている?

 アルは、もう2カ所の落ちた車輪に行くと下に手を入れ魔素を流し込んでいる。


 「アル、もう下がらないよ。」

 「分かった、また上げてくれないか。」

 板を上に上げると、泥の中に手を入れ魔素を注ぎ込む。

 「いいよ、またゆっくりと下げてくれ。」


 5度同じことを繰り返すと、泥から車輪が出て来た。板の下に魔素で作ったのだろう手前には、細長い小さな堤防。奥の車輪には、プリンのような車輪台が見える。

 プリンが持ち上がり車輪と接すると。

 「これで最後だよ、持ち上げてくれないか。」

 板が離れると、魔素を受けて堤防がせり上がってくる。

 「ゆっくりと下げてくれ。」


 最後に堤防の隣に車輪台が造られ、堤防が消えていく。


 道路と平らになった馬車の脇に、荷馬車からタライが幾つか下ろされ、アルの作った水が満たされる。手足を洗うと、今度は板をバラシてブラシで洗う。アダムとイブが洗い私達で馬車に板を戻していく。


 「終わったかな。」

 シスターが戻ってきた。

 「後は、道を延長させれば良いのかな。私がやる?」

 「いいえ。シスターは、見ていてください。道の延長をやれるとすれば、この泥の下から造り替えないと出来ないので、かなりの魔素を消費するはずです。だったら、僕がやります。」

 「いいわ、任せてみる。」


 御者に言いつけて、荷馬車からロープを持ってこさせ馬車の架台に縛り付ける。

 「アル、引っ張ったら、また落ちるわよ。」

 「ロゼッタ。大丈夫さ、道が出来たら静かに引っ張ってくれないか。」

 「分かった。」

 妹は、ロープを受け取りと僕を見ている。何を始めるのかワクワクしているようだ。


 特に難しい事をやろうとしているのでは、ないのだが。

 今、車輪は3個が畑に落ちている。内2個は、道のそばにあり平らであれば引き寄せられる。最初に落ちた車輪は、車体の半分程はみ出ていて これに道をつなげるのは大変。だったら、無理に繋げない。


 今ある3個の『車輪台』を延長して仮の道とする。短時間しか使用しないので、大量にある泥を使う事にした。泥の水の魔素を『水属性』に変換しながら『車輪台』と道の間を埋める。水を急激に冷やし鋭利な槍にすれば『氷槍(アイスランス)』が出来る。この詠唱は、長く面倒なので『魔法陣』に組み込んでいる。記憶してある魔法陣から水から温度を奪う部分だけ実行。

 急速に造った氷の道は、平らではない。僕は、見た目平らだと良いのだが・・シスターの視線が痛い。それでも、出来ているのが氷なので削れる。

 泥に手を近づけて、土の魔素を『土属性』に変換して凝縮 それにより水分が縛り出される。棒状に形状を作り、先端を『スクレーパー』状に。後は、ただ削るだけ。

 『ガシガシ・・』

 僕が道の脇の2個を削っていると、待っているのがもったいないとシスターが『氷のスクレーパー』を作り奥の道を削ってくれた。もちろん、車輪の通る部分は平らに、周りはそのままにして車輪が外れにくくしてある。それと、道の所は周りよりホンの少し氷で盛っておいた。


 道から外れたと言っても、10cm程と20cm程。奥も30cm位仮道を作った。

 「いいよ、静かに引いて。」

 妹とアダム・イブが引く。車輪は滑り易いので大人だと加減が難しいと思ったからだ。また、車体に風を当てて引く力の手助けをしておく。


 最初の車輪が道に乗ってくると重くなる、子供では力不足と御者とジャック師匠に手伝ってもらい静かに引いてもらう。移動先の道の表面を凍らせて、少しずつ盛っていく。

 「よし、車輪が道に戻った。後は、どうすのだ?」

 「では、ジャック師匠と御者のおじさんは、ロープの位置を変えて御者台に乗ってもらえますか。」


 二人が御者台に乗ると、畑に残った車輪が僅かに持ち上がる。後は引き寄せるだけだが、安全の為 最初から道にあった車輪の周りを氷で固定する。

 「今度は、皆で引いてください。」

 僕は、道を凍らせて滑りやすく。妹とアダムとイブ、シスターとメイドに引いてもらい・・無事に道に戻す事が出来た。


 僕とシスターが道の氷を溶かし、馬と馬車が荒らした畑をそれなりに直している間に、御者とジャック師匠は馬たちをつないでいた。



 ここからが、シスターにとって災難となる。


 シスターは、先程 実験をしていた居た道まで戻ると 杖を振りながら戻って来て さらに馬車の前へ。


 道は、鏡面の輝きを失いザラザラとした仕上がりに、それだけではなかった。点字ブロックの突起物とディンプル状の窪みを併用して、車輪が滑らないようにしてあった。


 確かに、以前の様に馬の動きに合わせて車輪の滑りは無くなった・・が、『コツン』『カタン』と僅かな振動と音が・・気になる。


 馬車は、『北の村』へと入っていた。途中で降った雷雨のせいだろう、誰とも村人とは会わなかった。村長の家で、時間までくつろいでいた時だった。

 数名の村人が村長に連れられて客間に入って来た。今日分かれた、隣村の村長と顔役だった。


 「お願いがあります。道を直して頂いたのは、大変ありがたいのですが・・・」

 雷雨により、荷馬車は畑に滑り落ち、人が歩いても転んで怪我をしていると言う。道路の手直しと、怪我人の治療をお願いされた。

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