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第10話 ウサギ泥棒と北西の村(終)

 盗賊は、村のはずれから20m程で身を伏せ動かない。僕らにも聞こえる集荷所の騒ぎが気になるのだろう。


 「何をしているのかしら?ここからじゃ良く見えないわ。『暗視』を使ってよ、それで見るはずよ。」

 妹は、僕と同じ訓練を受けている、スキルがないだけで それがどんな効果があるかは分かっている。

 「『暗視』は、負担が大きすぎて使いこなせないだろうから『猫目』を使うけどいいよね。」

 「見えればいいわ。」


 『猫目』は、月灯り程度の明かるさで戦闘可能とするスキル。ただ今は、星しか出ていない。しかし、星の明るさが対象の『夜目』を使えば、視覚の半分が魔素に特化される。その状態でここの魔素を見た場合、妹には膨大な魔素情報が入る。訓練をやっていれば必要な魔素だけに反応できるだが、妹はそこまでの訓練をやっていない。

 『猫目』だと、大きな魔素が感知できるだけなので妹の負荷にならないはずだ。ただ、この明るさでは、地面に伏せている盗賊の様子は見えないだろう。

 そこで、体内の魔素を希釈して拡散、盗賊の周囲に降らせる。何処に付着しても僕の魔素が発光してボンヤリと見えるようになる。もちろん、僕(妹)だけに見るように調整している。

 「まだ暗いけど、さっきより見えるわ。」


 そこに違和感が・・一人だけ変わっていない。なんだろう?何故か僕の魔素が見えない。そこだけ暗いままなのだが・・いや、暗い状態だと『猫目』には見えているか?あの盗賊に付いた魔素が反応していないのか?それとも、そもそも付着していない?なぜ?どうやったのか分からないが、抵抗(レジスト)された事だけは理解出来た。


 考えていても仕方がない。違和感を抱えたまま、様子を見ていると一人が動き出した。中腰になり集会所に向かう、何が行われているか見に行くのだろう。

 「私が行くわ。アルは、あの子を見ていて。」

 妹は、体の向きを変え、体が「薬草干場」から出ない様に身をかがめて下りていく。

 

 伏せたままの盗賊、向こうに行った盗賊と妹との格闘が始まれば物音で逃げ出すだろう。なら、逃げられない様にしておこう。

 『混乱(コンフュージョン)』(初級)五感が脳に伝える時間を乱す魔法で、一時的に気を引く。それに並行して、『睡眠(スリーブ)』(初級)も準備する。これは、畑の中で使用したものと同じ。睡眠の魔素を、強引に脳に送りつけて眠ってもらう。


 盗賊の魔素の色は『白』、相性の悪い『赤』で魔素を練る。出来上がった魔素を霧状に放出、落下地点を修正しながら『睡眠』の魔素を一緒に放出する。魔素は、放物線を描いて頭に落下す・・・いや、思い通りには、魔素が頭の上で霧散した?それだけではない、一緒に放出した『睡眠』の魔素まで消えていた。またレジストしたのだろうか?でも、レジストで魔素が消えるとか聞いたことが無い。

 魔法が効かないなら行動を監視するしかない・・妹が戻ってくるのを待つことにした。



 妹は、畑の中を移動する盗賊を追っていた。

 盗賊は、『集会所』が見える所まで来ると、立ち上がって立ち木に隠れながら『集会所』の外壁へ。

 中の様子を見ていた盗賊・・集会所の灯りでその姿が見える。


 年格好はアルと同じ位の男の子。

 中肉中背。髪は、ブロンズ。

 鼠色の服(浮浪児が良く着ている服)を着ている。

 顔までは見えない。


 中の様子に安心したのだろうか・・今度は、腰を少し屈めてこちらに向かって来る。村の外側の家を狙うのだろう、周囲を見渡し注意深く歩いている。全く物音がしない家に不審を抱いているのか、外壁に張り付くと、中の様子を探っているようだ。


 数件様子を見ていたが、人が居ないと考えたのだろう。あたりを見回して・・・・次の家の裏庭、正確には『ニワトリ小屋』の手前で体をかがめる。


 指をなめて、風向きを調べる。さらに、風上になる様に位置移動。ニワトリは、気づいていない寝ているのだろう。


 ポケットから缶を取り出し・・缶の蓋を開け・・地面に蓋を置く・・缶を傾け軽く振る。白い粉を蓋に落として・・火打石?粉の上でこすり合わせる。

 「カチッ、カチッ。」

 二度音がすると、粉が燃えているのだろうか?火は見えないが、粉の上部の空気がユラユラと動いている。煙だとすると黒い煙?がニワトリ小屋へと流れていく。『猫目』の効果か、薄っすらと見える。時折「コケッ」と鳴いていたニワトリの鳴き声が消えた。


 あれは、ジャック師匠が言っていた『睡眠』の粉なのか?薬草の配分は公開されていないと言って、燃やして見せてくれた。ダンジョン内のモンスターハウスになっている部屋に入れると効果的だと教わった。

 そう言えば、愚弟が訓練だと言われて『レジスト』しながら寝ていたのを思い出した。


 『レジスト』を思い出したら・・いつの間にか魔法が使える事に気付いた。ここから愚弟が見える、結構離れているが見えれば、使えるのか。


 何の魔法?・・これはシスターが教えていた『混乱』と『睡眠』の魔法のようだ。外だと使いにくいと言われていたのだが、今日は風がそよいでいる。丁度風上にいるので、体内に出来た『混乱』の魔素を腕を上げて手のひらから出してみる。

 魔素の流れが見える・・盗賊の子を通り過ぎていく。


 一分もしないで効果が現れる。最初は、キョロキョロあたりを見渡す。何処にいるのか分からないのか?次に硬直したのかジッと立っている。


 『混乱』しているならと、盗賊に近づくがこちらを見る様子は無い。さらに近づく・・硬直している首めがけて、指で『睡眠』の魔素を弾く。

 首に張り付いた魔素は、意思を持っているかのように体内へと消えていった。




 僕が妹の様子を見る為、首を向ける。すると・・男の子を背負った妹が、もう一人の盗賊へと歩いている。それは不味いのでは・・?


 妹は、僕の魔素で明るくなっている畑めがけて声を掛ける。

 「ねえ、そこにいるんでしょ。出て来なさいよ。」

 畑の中で人が動く。妹を見ているようだ。

 「あんたの相方は、捕まえたわ。大人しくこちらに来なさい。」

 畑の盗賊がゴソゴソと動いている、逃げようとしているのだろうか?

 「逃げても無駄よ。足なら私の方が速いからね。」

 妹よ、確かに僕より速いけど。『猫目』では、足元が見えないだろう?


 意外にも諦めたようだ。立ち上がる盗賊、その細く華奢な体は女の子?


 僕が女の子の手を取り、妹は背負ったまま 村長の家へと向かう。

 近くで見る女の子、魔素が白い・・純白。

 対して男の子、魔素は黒かった。識別の為 周囲が白いので間違ったようだ。

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