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朝焼色の悪魔-第4部-  作者: 黒木 燐
第4章 翻弄
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2.緋色の不安

 由利子たちは感対センターに着くと、急いで霊安室に向かった。

 感対センターの中はいつにもまして騒がしくなっていた。3人はそれが黒岩の家族が来ているからだと思っていた。

 皆無言だったが、部屋の近くまで来た頃ギルフォードが言った。

「東京駅行きの新幹線の便が終わっていたので、特急と夜行列車を乗り継いで来られたそうで、九時過ぎに到着されたということです」

「やはり長野からは遠いですわね……」

 紗弥が答えたが由利子は黙って足早に先頭を歩いている。しかし、部屋の近くまで行くと、紗弥が足を止めて言った。

「わたくし、部外者だと思うので、ここで遠慮させていただきたいのですが…………」

 紗弥には珍しく及び腰な申し出だった。

「ユリコが心細いと思いますよ。出来たら一緒にいて欲しいです」

 ギルフォードがとりなすように言った。紗弥は一瞬辛そうな表情をしたが、数秒目を閉じたあと「……はい」と答えた。

 由利子もまたドアを前にして戸惑っていた。中から泣き声が聞こえてきたからだ。

「どうしますか? 落ち着いてからでもいいのですよ」

「いえ、行きます」

 由利子は意を決してドアをノックした。ドアが開き、山口朋恵の姿が現れた。

「ああ、由利子さん、皆さん…………、ちょっと待ってください」

 山口はそういうと部屋の方に向かって問うた。

「先ほどお話しした黒岩さんのお友達がいらしてますが……」

 すると、中でぼそぼそ話す声がした後、男性の声で「どうぞ」というのが聞こえた。山口がそれに応えるように言った。

「どうぞ、お入りください」

 由利子は背後に立つ二人を振り返った。ギルフォードは静かに首を縦に振った。由利子は前を向くと、「失礼します」と言って中に入った。後の二人もそれに続いた。

 ギルフォードが中に入ろうとすると、山口が遮った。

「いろいろ説明しようと来たのですが、今はみなさんそんな状態じゃなくて……。でもそれは想定内でしたが、スタッフ内で想定外のことが起きたらしくて…………」

「え?」

「なので、ちょっと持ち場に帰ります。それでアレク先生、説明は後程私がしますけど、私のいない間のフォローをお願いしたいのですが……」

「いったい何があったのですか?」

「実はこちらも情報が交錯していて……。もう少し状況がはっきりしてからお伝えしますので……」

「わかりました」

「では、すみませんが……」

 山口はそういうと、ばたばたと走って行った。

(”あの人があんなに余裕ないなんて、いったい何が起きたんだ?”)

 ギルフォードは不安になったが、それを抑えて少し遅れて室内に入った。

 そこには隔離された遺体安置室のガラス窓の前に老夫婦と少女が寄り添うようにして立つ姿があった。祖母が遺体に向かって何かを言っていたが泣き声交じりでほとんど何を言っているかわからなかった。祖父のはそんな妻の肩を抱いて無言でいた。

 それとは対照的に、少女はぼんやりとガラス窓の中を見ていたが、由利子たちが入ってくると彼女らの方を見てぼそりと言った。

「あれ、本当にお母さんなのかな……」 

 孫からの思いがけない言葉を聞いて祖父母は耳を疑った。

明香里(あかり)!?」

「明香里ちゃん、何を言ってるの? しっかりして!」

 明香里はそれが聞こえないかのようにして祖父母から離れると、まっすぐに由利子たちのほうに向かってきた。

「おばちゃん、お母さんの会社でお友達だった篠原さん? ですよね」

 由利子は明香里にまっすぐ見つめられて戸惑いながら言った。

「え? ええ、そうです。篠原由利子です」

「あれ、お母さんじゃないですよね。死ぬ前のお母さんと電話してたってウソ情報ですよね。お母さん、今頃おみやげいっぱい持って長野の家に帰って、誰もいないからきっと困ってる……」

「明香里ちゃん、それは……」

 由利子には何と言っていいかわからなかった。明香里は今度は祖父母の方を向いて言った。

「おじいちゃん、おばあちゃん、お母さんが死んだって間違いだよ。ねえ、もう長野に帰ろうよ。お母さん、きっと待ってるから」

「明香里ちゃん……」

 口籠る祖母に代わって祖父が口を開いた。

「残念だけど間違いじゃないんだよ。本当はわかっているだろう?」 

「おじいちゃん、なんでそんなこと言うと? お母さんが明香里を置いて死ぬわけないもん。お父さんが明香里とお母さんを守ってくれてるって言ってたもん」

 そういうと、明香里はうわああと堰を切ったように泣き出した。

「明香里ちゃん……!」

 祖母は慌てて孫娘に駆け寄り抱きしめてすすり泣いた。祖父はそんな二人の肩を抱いてつぶやいた。 

「ずっとお母さんと二人だけだったんだもんなあ、辛いよなあ、悲しいよなあ……」

「ごめんねえ、こんなことならもっと早く…………。おばあちゃんが悪かったよねえ……」

 明香里は首を横に振ると言った。

「明香里も悪いと。友だちと離れたくなかったから」

「あの…………」

 由利子はようやく意を決して言った。

「明香里ちゃん。黒岩さ……いえ、お母さんから伝言があります」

 明香里は泣きじゃくりながらも由利子の方を見た。由利子は黒岩の言葉をしっかりと伝えるために、感情を極力抑えねばならなかった。

「『ごめんね、愛してるよ。ずっと見守ってる……』.……それから先は、もう…………」

 由利子はようやくそこまで言うと、下を向いた。

 明香里は祖父母から離れてガラス窓に縋りついた。

「お母さん、お母さん、おかあさん……!! 目を覚ましてよ、明香里を置いていかないでよぉ」

 明香里は窓に縋りついたまま幼い子供のようにわあわあ泣き始めた。祖母が再び駆け寄ってしゃがむと、慰めの言葉をかけながら孫娘の背中をさすっている。由利子たちは成す術もなくそのまま立ち尽くしていた。

 祖父が、妻と孫娘から離れて由利子たちに近づいてきた。

「すみませんがお引き取りください。もう私たち家族だけにしてください」

「え?」

 由利子は一瞬戸惑った。由利子も黒岩に最後の別れをしたいと思っていたからだ。

「で、でも……」

「わかりました」

 ギルフォードが由利子を制して言った。

「お暇いたしましょう。この度は本当にご愁傷様でした」

 そう言いながらギルフォードが深く一礼すると、由利子と紗弥がそれに倣って頭を下げた。

「さあ、二人とも行きましょう」

 ギルフォードに促され、由利子と紗弥は彼の後に続いて霊安室を出て行った。出て行きさまに聞こえた祖父の言葉が由利子の胸に突き刺さった。

「あれは今知らせることか? しかも、涙も流さず冷淡に! もう一人は泣いていたのに」

 由利子は愕然とした。心は張り裂けそうに悲しいのに、涙が全く出ないのだ。改めて紗弥の方を見ると、黒岩老人が言ったとおり涙を流しており自分でも戸惑っているようだった。

「ごめんなさい、わたくし、どうしてこんな…………」

「サヤさん、それはね、君が普通に生きているってことですよ。気にしなくていいんです」

 ギルフォードは紗弥に優しく言い、その後由利子に向かって言った。

「サヤさんはね、子供の頃すごく辛いことがあって、ずっと普通に泣くことができなかったんです。ユリコ、人はあまりに辛すぎると泣くことが出来ないことがあるんです」

「辛すぎると泣けな……い……?」

「そういうこともあるんです。でもユリコ、涙は必ず戻ってきます。大丈夫」

 そう言いながらギルフォードは由利子の頭を優しくぽんぽんとたたいた。

「でも今は落ち込んでいる暇はありません。トモさんが言ったことが気になります。行きましょう」

「はい」

 由利子と紗弥が同時に答え、ギルフォードの後に続いた。


 碧珠善心教会F支部の団欒室である円環の間では、信者たちが壁面に設置された大型のテレビを食い入るように見ていた。誰もが昨日起きたH駅爆破事件のニュースに釘付けになっていた。

 ここにいる信者の殆どはこの事件の真の首謀者が誰であるか知らぬまま、恐怖や怒りを口にしたり思い思いの憶測や推理 を述べたりしていた。

 その中で、白いスーツの中年女性が黙って食い入るように画面を見ていた。その女性は教主室にいた教主のお世話係の女性だった。彼女は無表情だったが、ニュースが死傷者のことになり、死者の写真が出ると口元や目元に微かな笑みが浮かんだように思えた。


 ギルフォードたちがスタッフステーションの中に入ると、なんだか異様にざわついていた。それは、今までの患者の容体悪化の時の緊張とはまったく違った空気だった。山口医師が何か必死に電話で話しており、その周囲をスタッフが心配そうに囲んでいる。何か近寄りがたい空気を感じたギルフォードは一瞬躊躇して連れの二人を見ると、二人も困惑した目で彼の方を見た。

 ギルフォードは近くを通りかかった三原医師を捕まえて尋ねた。

「何が起こっているのですか?」 

「甲斐看護師と連絡が取れなくなっているらしいのです。今朝、春野看護師にメールが入ったそうで、詳しくは山口のほうに聞いてください。すみません、急ぎますので」

 三原は早口で言うと走り去って行った。ギルフォードはその後姿を見送りながら眉を寄せてつぶやいた。

「あちらはあちらで何かあったようですねえ……」

「ねえアレク、山口先生の電話が終わったみたいだよ」

山口医師の様子を見ていた由利子が言った。

「ほんとだ。行きましょう」

 ギルフォードは足早に山口の方に向かい、由利子たちも後に従った。

 山口は受話器を置くと頭を抱えてため息をついた。

「トモさん、何かあったのですか?」

「アレク先生……」

 山口医師は少し躊躇したが、意を決して答えた。

「甲斐さんが昨日から休んでいて……。電話では体調不良ということで感染を心配したのですが、熱もないのでただの過労だろうから自宅待機して様子を見て、もし発熱したらすぐに電話するからと言って……」

「それで、発熱したのですか?」

「いえ、それが、今朝方当直の春野さんから電話があって、甲斐さんから変なメールが来た、と。それで、嫌な予感がしてメールを転送してもらったのですが、にわかに信じられないような内容で……」

「それはどんな?」

「それが、自爆犯の古河勇が甲斐さんの幼馴染で、今まで古河に仕事について悩みとか相談をしていたので、テロリストに|ウチ(感対センター)の情報が漏れていたかもしれない、というような…………」 

それを聞いて由利子と紗弥が先に反応した。

「ええ? それじゃあ甲斐さんは自分でも気づかずに情報漏洩していたってこと?」

「そんな……、では、甲斐さんは今すごく後悔して苦しんでいるはずですわ」

 二人とも甲斐看護師とは何度か話して親しくなっていたので、驚きと心配で少し青ざめていた。

「そうなんです。その後すぐに私はここに駆けつけて、春野さんと一緒に甲斐さんに連絡をとろうと携帯電話(スマホ)や固定電話に何度も電話したんですが通じないんです。

 春野さんは私にメールを転送した後、すぐに甲斐さんに電話したらしいのですが、すごく取り乱していて、瀬高亜由美の人工呼吸器を切ったのも、迷って古河に相談したらそうするべきだ、それが患者さんのためだよと強く言われたからだと言って、何度もごめんなさいと謝り続けていたと…………」

「え? じゃあ、あれは甲斐さん一人の判断じゃなかったって……」

驚いた由利子が言い終わらないうちに、ギルフォードの声が遮った。その声は怒りを抑えた低い声だった

「自爆犯フルカワは、カイさんから情報を得ていただけではなく、患者の苦しみを目の当たりにして迷うカイさんを誘導して、殺人をさせていたということですか」

「信じられませんが、そうとしか…………。その後ふいに電話が切れて、何度かけても不在通知になったそうです」

「山口さん、それってヤバイんじゃない? 様子見に行ったほうがいいよ」

 由利子が言うと、山口は少しもどかし気に答えた。

「何度電話しても通じないので、春野さんが様子を見に行ってるの。私はここから何度も電話をして留守録を入れているのよ」

「タカヤナギ先生には伝えてますか?」

「ええ。ただ、昨日の爆破事件で念のため隔離されている人の中から発熱者が出たらしく、甲斐さんのことは私に一任すると言われて……。もう、私、どうしていいか…………」

「トモさん、しっかりしてください。自爆犯がらみなら警察の対策本部にも連絡した方がいいでしょう。僕がジュン……カサイ刑事に電話しておきます。トモさんは連絡を続けて!」

「はい!」

 ギルフォードに言われて山口医師ははじかれるように受話器を取った。


 春野看護師は、甲斐の住むマンションの部屋の前まで駆けつけたものの、中に入れないでいた。通いの管理人がまだ来ておらず、電話しても留守録になっていた。

「もうっ、管理人なら常駐してなさいよっ! こんな時困るじゃない!」

 春野は仕方なくチャイムを鳴らしたりドアをノックしたり甲斐の名前を呼んだりを繰り返した。そのうちに両隣の住人が順繰りに玄関から顔をのぞかせた。

「どうしたの? 何があったの」

「祝日なのにうるせえょ、……って、看護師さんじゃん。デリヘルじゃないよね」

 右隣からは、中年の小太りの女性が、左隣りからは20歳代の若い男性が出てきた。春野は急いだために制服のまま来ていたことに気づいた。

「私の同僚がこの部屋に住んでいるのですが、音信不通になって…………。部屋にはいるはずなんですが、鍵がないから……」

「へえ、お隣さん看護師さんだったんだ。で、管理人の親爺は?」

「いないんです。電話も出なくて……」

「あのくそ爺、また家で酒かっ食らって寝てんな」

 と、青年があきれ顔で言った。そういうことがよくあるらしい。年配の女性が続けて言った。

「数年前までここも管理人が常駐しとったんやけどねえ。よく気が付く働き者のおばあちゃんやったけど歳で辞めちゃって、後釜が経費節減で通いのパートになっちゃったのよね。で、来たのがあのぐーたらでマンションも荒れ気味になってさあ」

 春野には住人の愚痴はどうでもよかったが、前管理人がいてくれたら良かったのにと心底思った。仕方なく、チャイムを鳴らして声をかけ続けた。見かねた右隣に住む女性が言った。

「待っとき、おばちゃんが管理会社に電話してやるから」

 そういうと女性は部屋に戻った。

 

 その頃ギルフォードたちは山口に代わって甲斐への電話を続けていた。甲斐に続いて春野も不在の状態で山口まで電話にかかりきりとなると業務に支障をきたすだろうと考えたからだ。しかし、何度かけても繋がらない電話に三人が焦りを感じ始めた頃、高柳から内線が入った。

「ギルフォード君、すまんが防護服に着替えて臨時隔離病棟まで来てくれたまえ」

「わかりました、今行きます」

 ギルフォードはモニターに向かって答えると、由利子たちに言った。

「何かあったみたいです。ここはお願いしますね」

「わかった。まかせて」

「いっていらっしゃいませ」

「すみません、行ってきます」 

 ギルフォードは二人に後を任せると、高柳のもとへ向かった。

 

 臨時隔離病棟は、平時に一般病棟として使われていたところを、前回のF駅で起きた大規模ウイルス曝露事件から感染の恐れのある人々を隔離する施設にしたところだ。施設の大きい病室に何人かのグループに一時的に分けて収容し、その後聞取りをしてさらに細かく分類、感染リスクの高い人たちを家族単位で分けニ週間収容する。その一時的に分けたグループの一つから早速発熱者がでたということだった。

 看護師に案内されて、問題の部屋の前までくると、子供の泣き声がした。

(”子供?”)

 ギルフォードがそう思った時、看護師が言った。

「そうなんです。ここは小学生以下のお子様連れの方々のグループなのですが、まだお小さいお子さんが発熱されてて…………」

「お母さんは?」

「ずっと抱っこされていますが、とにかく早く中へ」

 せかされてギルフォードが室内に入ると、部屋の隅の発熱者用パーテーション内に子供と母親がいるらしく、そのそばに高柳たちがいて子供をなだめていた。その反対側のかべ際に他の収容者が集まって様子を伺っているようだった。全員マスクを着け、子供たちをかばうように壁側に向けていた。

「ギルフォード君、よく来てくれた」

 高柳のほっとしたような声が病室に響いた。 

「まずインフルエンザの検査をしようとして近寄ったら、この姿におびえて火のついたように泣き出してな。すまんが何とかしてくれんか?」

「え?」

 深刻な場面を想定して緊張していたギルフォードは、思わず拍子抜けした声を出した。

「ベビーシッター代わりに僕を呼んだのですか?」

「こっちは真剣なんだ。泣きたいのはこっちだよ」

「さすがの先生も泣く子と地頭には勝てないと」

(ことわざ)はいいから早く来てくれたまえ」

 わあわあを通り越してぎゃあぎゃあ泣く幼児に、高柳はほとほと困り果てているようだった。隅に集まった収容者たちの中から「早くして」「その親子をさっさとここから出すか、僕たちを他に移すかしてくれよ」「私たちは大丈夫なの?」という声が出始め、高柳はその説明をするために彼らの方に向かい、入れ替わりにギルフォードがパーテーションに向かった。ギルフォードが中に入ると、泣き声が止まった。


「A型インフルエンザだったよ。今の季節からして、多分以前世間を騒がせた2009年型だ」

 由利子たちのところに戻って結果を待っていたギルフォードに高柳から内線が入った。

「そうですか。よかった」

「インフルもかなり辛い感染症だがね、アレ(サイキウイルス)よりかなりましだからな」

「ほかに感染は?」

「一応、皆の感染を調べたら、小学生の男の子が一人陽性だったよ」

「え? そうなんですか?」

「親に聞いたら、もう治ったと思っていたというんだ。しかし、発熱から四日しかたっていない。しかもまだ若干熱があった。その親子も別の病室に隔離だ。これからは問診だけでなく、隔離前にインフルの検査はした方がいいかもしれんな」

「大変ですね」

「まったくだ。しかも、その親は抗インフル薬を与えていないというんだ。副作用が怖いと」

「それでまだ熱が…………。それにしても、いまだにそんなことをいう人がいるんですね」

「感染症は自分らだけのことじゃないという意識をもっと持ってもらいたいね。ひところよりはだいぶましにはなったようだが、まだまだワクチンや抗ウイルス薬に不信感を持つ人がいる。反ワクチン団体は未だに強力だ」

「我々の永遠の課題ですね」

「そうだな。さっきはありがとう。ほんとに助かったよ。私たちには子供がいないんで、扱い方がよくわからなくてなあ」

「新人のお父さんの表情(かお)をしていましたよ」

「からかわないでくれたまえ。ところでそっちの状況は?」

「まだです。ハルノさんの連絡では、カギ待ちとか」

「そうか」

「ミハラ先生は?」

「昨日の自爆で重傷を負ってここに運ばれてきたアルバイトの子が、発症したらしいので急遽そちらに向かったよ。重症だったのに生き埋めになった同僚を必死で助けようとしていたらしい」

「あの、一番被害の大きかった売店ですね。一人病院で亡くなった」

「そうだ。一番爆心に近かったからな。以上報告だ。私も三原先生の方に向かう。ではまた」

 高柳は言うことだけ済ませると、すぐに電話を切った。ギルフォードが傍らに目を寄せると、由利子たちが必死に呼びかけを続けていた。

 

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