表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朝焼色の悪魔-第4部-  作者: 黒木 燐
第1章 攪乱
1/33

【幕間】声

20XX年6月30日(日)


 山下公尚きみひさは、疲れ切っているのに眠れないと言う辛い状況にあった。


 時刻は深夜1時をとっくに回り、丑三つ時に近づいていた。

 今日……いや、昨日は土曜出勤を余儀なくされ、しかも、夕方には終わるだろうと高を括っていたら、思わぬトラブルが起きたために仕事は22時を過ぎても終わらず、解放されたのは23時を過ぎていた。PC画面の見過ぎで目は痛く頭もフラフラしており、猛スピードでキーボードを叩き続けていた両手は腱鞘炎を起こしたようだった。

 疲れ果てた体で気力を振り絞って走り、ようやく滑り込んだ急行電車は、最終とはいえ下り線故に座る余地もどころか、満員と言ってよいくらいの混みようだった。どうやらプロ野球の試合が長引いたようで、地元球団のユニフォームやグッズを持った輩が大勢いる。試合終了後繁華街に流れ込んだ連中が、最終電車にこぞって乗り込んできたのだ。そのせいで車内はかなり酒臭く、山下はさらにゲンナリしていた。多分、自分のように仕事で遅くなった者は少ないだろう。しかし、彼らの話す内容から、今日の試合は延長の挙句負けてしまったらしいことが判った。それを耳にした時、山下はつい(ざまあみろ)と思った。ほんの少し気が晴れたような気がした。しかし、すぐに自分の度量の狭さに気付いて彼の気持ちはさらに落ち込んだ。これはきっと心底疲れているせいだ。明日は昼過ぎまで寝ていよう……。

 


 山下は深夜0時を過ぎてようやく家にたどり着いた。

 コンビニで買って来た冷凍鍋焼きうどんと発泡酒で何とか人心地をつけ、シャワーを浴びてようやく倒れこむようにヘッドに入った時には、すでに深夜1時をかなり過ぎていた。

 ベッドサイドの明かりを消して体を丸め、リモコンでテレビも消した。しかし、テレビの音が消え、静かになった途端に聞こえ始めたのは、あろうことか隣の部屋の「あの」声だった。山下は思い出した。そういえば、昨夜もそのような声が微かに聞こえていた。しかし、今日のはひどい。少なくとも隣には2組以上の馬鹿どもがいるようだった。110番しても問題ない程の精神的苦痛だったが、山下はそれをためらった。

 実は、半年ほど前に同じ部屋で夜中に乱痴気騒ぎがあり、山下はその時110番通報したのだが、その後しばらくの間、何者かの嫌がらせを受けたことがあったからである。

(くそっ、何が防音壁だよ!)

 山下は耳を抑えながら寝返りを打った。山下は周囲に気を遣う性格で、仕事で遅くなることが多いために、前のアパートでは深夜の生活音が隣人に迷惑をかけないよう注意していた。もちろん、このタワーマンション自体も気に入ってはいたが、予算よりも家賃が高めだったここに決めたのは、防音壁完備と言う触れ込みだったからである。確かに壁は防音だった。しかし、窓まではその配慮がなされていなかったのだ。隣のケダモノどもは、おそらく窓を全開しているのだろう。山下は起き上がるとテレビをつけて声をかく乱し、さらにジャケットのポケットからイヤホンを引っ張り出してスマートフォンに取り付け耳にあてた。せめて好きな曲で紛らわそう。

 しかし、神経の高ぶった状態の山下はそれでもなかなか寝付けなかった。むしろイヤフォンや音楽自体が鬱陶しい。テレビのちらちらした光もさらに彼の神経を逆なでした。

 彼は何度も寝返りを打った。エアコンのタイマーも切れ、暑苦しさも相まって余計寝苦しい。ついに彼は再度エアコンをつけた。これで、周囲の空気だけは快適さを取り戻した。


 そして、ようやく彼が寝息を立て始めた頃には、すでに4時を回っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ