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色が変わる瞬間を  作者: 粥
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サービスエリアで昼ご飯を食べ終わった後、俺たちはまたキャンプ場に向かって車を走らせた。


ようやくキャンプ場に着いた頃には15時前で、フロントで色々説明を受けている間、先にカギを貰った俺とトウマは荷物をコテージの中に入れていく。


「ようやく仕事らしい仕事しました」

「確かに、ずっと車に乗ってきただけだからね」

「結構日中は暑いんですね」

「日陰に行くと涼しいよ」

「あ、ほんとですね」


二人でコテージの屋根の下は日陰になっていて、二人並んでその下に立つと夏にしてはとても涼しかった。


「夜になるとやっぱり涼しいんですかね」

「日中は意外と暑いんだけど、夜とか朝方はやっぱり涼しいらしいよ」

「え、じゃあもう少し厚めの生地のパジャマにしておけば良かったですね」

「まぁ布団にくるまればそれなりに快適に寝られると思うよ」

「なら安心ですね」


手続きを終えた両親たちはさっそくバーベキューの準備を始めた。


「お肉って買ったんですか?」

「買ってないから買ってきて」

「え?」

「トウマと一久で買ってきて」

「どうやって」

「車で、はいカード。これで食べられる量だけ買ってきて」

「場所知らないんだけど…」

「カーナビで調べて入れて走んなさいよ」


そういうことなので俺とトウマでここから近くのスーパーまでバーベキューの肉を買いに行くことになった。

近くとはいっても、調べてみると今いるキャンプ場から車で三十分ほどかかる場所だった。


「いやぁ、バーベキューするにしては肉とか買ってないなぁとか思ってたんだよ」

「美佳ちゃんは本気で忘れていたみたいですけどね」


車を走らせながら母の詰めの甘さにボヤいていく。

せっかく自然に囲まれたコテージのベランダでゆっくり出来ると思っていたのに。


「まぁ悪くないじゃないですか、地方のスーパーって大きくて楽しいんですよ」

「そう?そんなに大きくないと思うけど」

「いえいえ、出来れば一つの場所で多くのものが買えるようにと、ちょっとしたモールみたいな場所が多いんですよ。お肉とか魚とかかなり種類も量も多いんですよ」

「何でそんな詳しいの?」

「祖父母の家が地方でしたから」

「あーそういうこと…。確かに東京ほどごちゃごちゃしてないもんね。東京は人が多くて嫌だね」

「私はそう思いませんけどね」

「そうなの?」


意外だった、トウマこそあの雑踏感が嫌だと言いそうだったのに。


「カフェとかから目の前を流れていく人の群れとか、武骨なオフィス街とか歩いていると、何とも言えない感情に襲われるんですよ。あの感情を何というのか分かりませんけど」

「ふーん、情緒があるって事なのかな」

「情緒がある…あーそうかもしれませんね。一番近い表現はそんな感じです」

「よかったね、良い言葉が見つかって。ありがとうは?」

「言わなければ言ってました」


車窓から見えた清流がトウマの目に留まり、シートの背もたれに寄っ掛かっていた彼女はくっ付いていた背中を剥がして食い入る様に見つめた。


「川、好きなの?」

「好きですね、ずっと眺めていられます」

「後で行こうか」

「時間ありますかね」

「ちょっとくらいあるでしょ」

「まぁ後で行けなくても明日がありますから」


高速道路の時でも思ったが、トウマは意外と気が長いのかもしれない。



車を走らせること30分でスーパーに到着した。トウマの言う通り大きく、予想の二倍はある。小さい子は絶対迷いそうな気がする。


「デッカイな…」

「でしょう?」

「うん、田舎すごい」

「手、繋ぎますか?」

「いや迷わないから!」


トウマに不要な心配をかけられながら、二人でカートを引いてスーパーの精肉コーナーに向かう。

棚には何個もパックに詰められた豚、牛、鳥の肉があり、様々な部位に切り分けられて並べられていた。


「こう多いと迷うよなぁ」

「美佳ちゃんたちは何の肉が好きなんですか?」

「親父は牛タンとか好きなんだけど、母さんはソーセージとか」

「海鮮系とかありますけど、魚、エビとか貝類は買わなくて大丈夫ですか?」

「魚は普段買わないけど、エビと貝は欲しいかな」

「あまりたくさん買っても4人しかいないのでそこまで食べられませんよね」

「トウマって夕飯前には帰っちゃうけど、いつもどれくらい食べてんの?」

「甘いものなら無限に」

「女の子~。じゃああんまり俺と親父が結構食べる感じかな」

「では一久さんはお父様の好きなものを、私は美佳ちゃんの好きそうなものを選びます」


分担してキャンプ場で待つ両親が好みそうなものと、自分の食べたいものを買っていった。

そろそろ会計に行こうとしていると、母からメッセージが送られてきた。


「母さんからだ。…デザート買ってきてだって」

「デザートですか、アイスとかってことですかね」

「いや、母さんの言うデザートはアイスじゃなくてケーキとかの事だね」

「ケーキですか」

「スイーツコーナーに売ってるやつをテキトーに選んで買っておけばいいでしょ」

「いえ、この上の階にケーキ屋さんがあるのでそこから買うべきだと思います」

「え?わざわざ調べたの?」

「入口にフロアごとに何があるのかっていう看板見たら、ケーキ屋さんを見つけました」

「へぇ~とりあえずこれ精算したらケーキ屋寄ってみようか」


肉や飲み物を買ってから、俺たちは二階に上がってケーキ屋さんを目指す。

二階は二階で一階のスーパーとは違って服屋などが多いフロアだった。


「これあと何階あるの?」

「二階です、全部で四階はありました」

「広いなぁ」


雑談を交わしつつケーキ屋さんを見つけ、他に誰も並んでいる人がいなかったのでしばらくケーキの種類を見ながらゆっくり決めることにした。


「一久さんは何にします?」

「モンブラン」

「早いですね決めるの」

「まぁ、安定だから」

「お父様何が好きなんですか?」

「プリン、一緒に連絡来てた」

「じゃあ私だけですね決まってないのは」

「ゆっくり選びな」


しばらくすると、トウマは何にするか決めたようで店員さんにケーキを頼んでいた。


「ショートケーキで」

「結局?」

「一番美味しそうでしたし、美味しいと知っているので」

「そんな理由なんだ、女子ってこういう時冒険するものじゃないの?」

「女子一纏めにしてると、私の事は一生分かりませんよ」

「何でちょっと得意げなの」


ケーキを四つ買い、買い物から40分ほどでようやくスーパーの中から出た。


「あ、シャンプーとか買っておきたかったんだ…」

「戻りますか?」

「いいや、あっちの売店で買えるし」

「じゃあ帰りましょう」


ケーキも買っているし、すぐに冷やしておきたいものも買っているので俺とトウマはそのままキャンプ場に戻ることにした。



キャンプ場に戻ってくると、すでにバーベキューコンロの中で炭火が燃えていた。


「お待たせしました」

「待った?」

「いや、今良い感じに火が落ち着いたところ。さっそく肉を焼いて食べよー」


母の宣言通り、親父に買ってきた肉を渡していくとどんどん焼いていった。


「ご飯ってこれレンジで温めるタイプの?」

「いや、実は飯盒炊爨で炊いてる」

「すご、本格的」

「飯盒って、あの…ちょっと面白い形のですか?」

「面白い形の。アレ」


なぜかトウマが興奮しながら母に聞くと、母が飯盒炊爨のある方を指さした。指の指す方向には今まさに美味しい白米を炊いている飯盒炊爨があった。


「わぁ~私これ実際に見るの初めてです」

「そうなの?」

「その反応…一久さんは見たことあるんですか?」

「そりゃ毎年来てるんだから毎年見てるよ」

「羨ましい…」

「トウマってキャンプ好きなの?」

「好きですね、旅行よりもキャンプしたいです」

「そうだったんだ」


意外なトウマの好きなことに驚いたが、トウマならソロキャンプしたって余裕で熟せそうな感じがして、すぐに驚きは納得に変わる。

それではご飯の方はトウマと親父に任せて、他の準備や洗い物は俺と母がやっていくという流れが自然に出来上がった。


肉がぼちぼち焼き上がり、ベランダに元々設置されていた木製の机を使って夕飯を楽しんでいく。


「美味しいですね~」

「涼しいし、肉は美味しいし、ビールが美味しい。一久も飲む?」

「…それどこの?」

「ドイツ」

「本場も本場じゃないですか」

「トウマも飲みなよ」

「あ、じゃあいただきます」


俺と母とトウマの三人で酒盛りが始まった。

俺と母は酒が強いことを知っていたが、トウマはどうなんだろう?弱かったら介抱してあげよう。


と、思っていたのだが…


「トウマ、酒強いんだね」

「そうですね、比較的」

「家で飲んでるところ見たことないから知らなかった」

「そりゃ仕事中飲むわけにはいきませんからね…」

「俺と同じくらいな気がする」

「今度一緒に飲みますか?」

「良いね、俺一回ベロンベロンに酔ってみたい」

「家で飲みなさいよ?」

「「はーい」」


二人でいつか宅飲みをする約束を交わした。

久しぶりにとても気持ちよくお酒を飲み、ご飯を食べた気がする。情緒がある、とはまさにこの事かもしれない。

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