表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色が変わる瞬間を  作者: 粥
24/25

24

「夏さん、そちらの美人さんは?」

「クラスメイトの美吉みよしさん。さっきまで一緒に買い物してた」

「なるほどぉ」

「夏人、この子は?」

「僕の友達、ひかる。中学の時三年間同じクラスだった」

「へぇ…」


夏人の簡素な人物紹介を受けた二人は、とりあえず会釈して挨拶を交わす。

そこから三人で地元までバスで帰り、バス停付近で三人は二手に別れた。


「じゃあ、僕たちはここで」

「あ、うん…バイバイ」


夏乃と別れた夏人と光は、そのまま光の家を目指す。

二人は中学から仲が良く、お互いの家に二人きりで遊ぶということがよくあった。男女の関係になることなく、我儘を言い合える仲にある。


「良かったんですか?美吉さん。お二人で遊んでいらっしゃったんでしょ?」

「遊んでたっていうか、勉強教えてもらったお礼に買い物に付き合っただけ」

「ほほぉ、恩返しというわけですか」

「まぁ、そういうことになるね」

「お二人でってことですか?」

「二人で、父さんの仕事先で」

「夏さんにしては珍しく、自分のテリトリーに他人を入れましたね」

「元からそうでしょ」

「そりゃあ、自分の波長に合っている人間であればそうするでしょうね。ただ、夏さんの波長にあの美吉さんなる者が合っているというのが、私には意外でならないんですよ」

「ただ一緒に買い物しただけだよ。自分のバイト先教えたのは成り行きというか」


夏人に限らず人は、自分の気に入った人間以外を自身のテリトリーに入れることはない。

テリトリーに入ったものこそ、友達と呼ばれる事が多い。狭ければ狭いほど、友達という存在の数は少ないのが普通だ。

そして夏人も光も、その範囲はかなり狭い方の人間だった。

なので光は夏人が夏乃の様なキャラの人間と仲の良さそうにしていたのが気になった様だ。


「そんなことより、今日の夕飯はどうしますか?また例によってファミレスで済ませますか?」

「僕、今日はジャンクな気分」

「あ、いいですね。かく言う私も今日はハンバーガーな気分です」

「じゃあ駅前のハンバーガー屋さんで済まそうか」

「デザートも帰りのコンビニで買いましょう」

「そうしよう」


夏人と光は、今日夜通しでアニメ上映会をする。

今日は夏人の家で開催されるが、光の家で行うこともあり、お互いの両親と仲も良い。


「あ、今日もお泊まりすることになるのなら着替え取りに行かないとですね」

「この間置いてったのがあるよ。洗濯もしてるし」

「えー申し訳ない。じゃあ着替えはそれにしましょう」

「着替えといえば銭湯行きたくなってきた」

「銭湯は二人じゃ入れませんけど、良いですね」


銭湯に行くとなると上映するアニメの話数が限られてしまうので、今回は見送りになった。


夏人の家に帰ると、トウマが帰って来ていて夕飯の準備をしていた。


「おかえり夏人。いらっしゃい光」

「ただいま」

「お邪魔します、トウマさん」

「今日は夕飯いらないんだって?」

「はい、なのでお風呂だけ頂きます」

「そか」


お互いの家に来慣れていて、互いの両親とも関係が良好な二人は、親と会話するにも妙な壁はない。

少しでも多く観たいということで、二人は夕飯の時間まで夏人の部屋でアニメ上映会を始めることにした。


「夏さんの部屋は余計なものがないので落ち着きますね」

「ごちゃごちゃしてるの嫌いだから」

「男の人でここまで部屋が片付いてるのも珍しいんじゃないですか?」

「光は僕以外の男の人の部屋に入ったことあるの?」

「親戚の子の部屋なら…」

「あーそう言うこと」


そんな会話を交えながら、二人はアニメを見ていった。

全部で2クールあるアニメでOVAを含めると全25話構成。全部観るとなると12時間以上かかる。

全て見るのが目的なのではなく、何話寝ずに見ていられるかという耐久レースに近い。

現在18時。今からノンストップで観ると朝6時には見終わる計算になるが、もちろん夕飯で時間を取られるし、お風呂も入らないといけないので、まず朝6時に終わることはない。


「そもそも多分起きてられないだろうね」

「布団敷きながら見ようか」

「この間は床にそのまま寝落ちしたので体痛かったです」


光は肩の辺りをさすりながらそんなことをボヤいた。



19時になり、お腹が空いてきたということで駅前にあるファストフード店に向かった。

帰宅ラッシュで夕飯時ということもあって店内は混んでいたが、店内のイートインコーナーで食べる人はそこまでおらず、二人で座れる席くらいなら空いていた。


「私席取っておくので、先に頼んで来ていいですよ」

「いいよ、一緒に頼んでくる」

「では後でお金を払いませう」


食べたいものを双方決めたところで、夏人は2階にあるイートインコーナーから降りて、1階にあるレジに頼みにいった。

すると、後ろに並んだ女の子に声をかけられ、振り向くとそこには夏乃がいた。


「夏人だ」

「美吉さん、なんでここにいんの」

「急にここで売ってるパイが食べたくなったから買いに来たの」

「ふーん」

「夏人は?」

「夕飯」

「そっか。…さっきの友達と一緒に?」

「うん」

「光ちゃんだっけ?どこ?」

「上で待ってる」


夏人は質素に、無感情に夏乃の言葉に返事をしていく。

彼自身にその気は無いにしても、普通なら嫌われてると思うだろう。


「光ちゃんと今の時間まで遊んでたの?」

「遊んでた…まぁ、遊んでたね」

「なんでそんな曖昧な返事なの?」

「これからまだ遊ぶから」

「え、夜遊びとかするタイプなんだ。どっちもそんな風に見えないけど」

「街中に出たりするわけじゃないよ、僕の部屋でアニメを夜通し見るだけ」

「え、それってお泊まりってことじゃん」

「そうだね」


夏人と光がどれだけお互いに『自分達は友達である』という信頼度があるかを知らない夏乃は、二人が普段当たり前のようにお互いの部屋に寝泊まりして朝を迎えているかを知って驚いていた。


「そんな驚く?」

「そりゃあ、男女で泊まり込みで遊んでる人あまり見ないから…。居たとしても付き合ったりしてるから」

「従兄弟みたいなもんだよ」

「いや本当にそう割り切れるの凄いね」


夏人の感性に驚きながら、レジの順番が来たので注文をする。

一緒に二人の注文が来たので、2階に行く階段付近でお別れをすることにした。


「じゃ、バイバイ」

「う、うん…。あのさ」

「何」

「本当に付き合ってないの?」

「付き合ってないけど」

「じゃあ夏人はどう思ってるの?光ちゃんのこと」

「友達だよ」

「・・・・・・・・・・」


夏人の答えが腑に落ちない様子の夏乃。

そんな彼女の様子に夏人は一言言い放った。


「ねぇ美吉さん」

「・・・・・・・・・・?」

「僕、別に何に対しても無関心な訳じゃないから、変な勘違いしちゃうよ」

「・・・・・・・・・・!」


夏人はそれだけ言って光の待つ二階に上がっていった。

夏乃はそんな彼の言葉に衝撃を受けながら、その背中を見送る。



2階に上がると退屈そうに携帯を弄っている光がいて、夏人が戻って来たらパッと表情が明るくなった。

光はいわゆるアニメオタクで、口を開けばアニメや漫画の話しかしないのだが、一人でいると無口な可愛い子と見られることが多いので、よくナンパに会う。

そんな顔の良い彼女とトウマと一久に似て顔の整っている夏人が一緒にいると、よくカップルに間違われる。互いの家に寝泊まりする仲だ、付き合っていると思われておかしくない。


「遅かったですね」

「美吉さんが偶然居て。ちょっと喋ってた」

「へぇ〜お家ここら辺なんですかね」

「知らないけど、多分そうなんじゃない?この間、僕と家が近いとかなんとか言ってた気がするから」

「誘わなかったんですか?」

「そりゃそうでしょ、光もいるし」

「私は、夏さんと美吉さんは良い仲になれると思うんですよ」

「何それ、冗談?」

「いやいや、本当にそう思ってるんですよ。夏さんが私以外の女の人と話しているの初めて見たので」

「ただ話してるだけだよ」


『ただ』話しているだけですか、と光は呟いた。

しかし店の前を大きいエンジン音で走り去ったバイクのせいで、その言葉が夏人の鼓膜を揺らすことはなかった。


「食べよ」

「あ、はい。確かにそうですね」


その会話を最後に、二人は夕飯のハンバーガーセットを食べて家に戻った。


家に帰ると同じように夕飯を食べ終わった一久とトウマが一緒にテレビを見ていた。


「ただいまー」

「戻りました〜」

「おかえり」

「おかえり〜いらっしゃい光」

「お邪魔します〜」


部屋に戻ろうとした光と夏人を、トウマが呼び止めた。

理由は風呂が沸いたから先に光が入るようにとのことだった。


「てことで着替え取ってくるよ」

「あー…湯船には入らないですけどシャワーだけ先に頂きます」

「別に湯船に浸かってもらっても良いけど」

「早くアニメ観たいもんね」

「あ、なるほどね」



部屋で夏人が本を読んで待っていると、お風呂から上がった光が戻ってきた。

風呂上がり、すっぴん、夏人から借りた体格に不釣り合いな半袖のTシャツ。もしも夏人じゃなかったら、普通の男友達なら恐らく彼女は手を出されているはずだ。


「お風呂上がりましたよぉ」

「おかえり、早いね。本当に湯船入らなかったんだ」

「夏さんは入らないんですか?」

「いや、僕ももう後は寝るだけの状態で観ていたいから入ろうかな」


光が寝る用に部屋の床に敷布団を敷いて、そこに座り込んで二人はようやくアニメ上映会の本戦を迎えることができた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ