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色が変わる瞬間を  作者: 粥
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夏人なつひと、夕飯出来た。食べよ?」

「うん」


トウマと一久の息子、夏人がリビングにあるソファで本を読んでいると、トウマが声をかけた。

彼女の後ろのダイニングテーブルには、美味しそうな夕飯が並べられている。


「美味しそう」

「でしょ、箸出して」


二階から一久も降りて来て、夕飯を食べ始める。


「トウマ、ドレッシング取って」

「はい、どうぞ」

「…前から気になってたんだけど、何で父さんは母さんをトウマって呼ぶの?母さんの前の苗字が藤間っていうのは知ってるけど…」

「トウマがトウマって呼べって言うから」

「結婚しても呼び方を変えるタイミングが無かったから」

「へぇ」


結局まともな説明はされずに終わった。


夕飯を食べ終わると、夏人はすぐにリビングのソファの端っこに座り、読みかけの本を読み始めた。間接照明のオレンジ色の明かりが、白紙の上の黒文字を明るく照らす。


「夏人は本が好きだなぁ」

「え…あ、まぁ」

「何その反応、好きじゃないの?」

「いや…好き…とか、考えたことないかな」


一久から言われた言葉に夏人は釈然としない態度を見せた。思った反応が返って来なかった事に少し拍子抜けの顔になる。


「好きだから読んでるのかと…」

「好きというか、一冊読んで次ってなってたら、いつの間にかこの歳までそれが続いてるってだけでだから」

「それは…面白いからじゃないの?」

「うん…まぁ面白いのは面白いんだけども」

「煮え切らないなあ」

「好きなことに理由っているの?」

「えー何その名言」

「夏人は活字が好きなんだね」


洗い物を終えたトウマが一久と夏人の間に座り、一家三人リビングのソファに集まる。

夏人は高校生なのだが、世の反抗期真っ只中の高校生にしては珍しく、両親の言う事をちゃんと聞く良い子だった。

本人からしてみれば良い子であろうという気概はなく、ただ両親の言う事に間違いはないからという理由で従っていた。


何であれば一久が率先して夏人に学校をサボらせ、家族三人で遊園地に行こうとか言い出す始末だ。もちろんトウマに注意されて、みんなが休みの日に再度行く事になったそう。




朝、夏人はパジャマ姿のままリビングに降りて来て、ダイニングテーブルに静かに着いた。


「夏人ぉ、コーヒー淹れてくれ~」

「父さんが淹れてよ、僕が淹れるよりはるかに美味しいんだから」

「え~めんどくさいなぁ」


グチグチ言いながらも、一久は台所でコーヒーを三人分淹れ始めた。


「じゃあ食べようか、いただきます」

「「頂きます」」


トウマの作った朝ご飯を全て綺麗に平らげ、一久の作ったコーヒーを飲んだ後、制服に着替えて夏人は家を出た。


学校に着き、夏人が自席の前に立つと別の誰かが既に座っていた。


「よぉよぉ~夏人~」

「どいてよ、そこ僕の席」

「別に良いじゃ~ん、学年1可愛い女の子が自分の席に座ってるんだよ?むしろお得じゃん」


夏人の席にどっしり座っていたのは同じクラスで前の席の女の子、美吉みよし夏乃なつのさん。

夏人と名前が似ているという点だけで親し気に話しかけて来て、毎日喋るほど仲が良くなっていた。


因みに、夏乃が自称した『学年1可愛い』はあながち冗談ではなく、かなりな数の男子に告白されているらしい。

しかし夏人にそんなことは関係ない上に、夏人は夏乃に対してそこまで友情を感じてはいなかった。


「ねぇねぇ夏人、ほーかご勉強会しよ!」

「勉強会?」

「私英語出来るからさ、教えられるよ~?」

「帰国子女だっけ」

「そそ」

「帰国子女って、海外から引っ越してきた女の人の事を言うのかと思ってた」

「男子は帰国子男…って?」

「まぁそんなとこ」

「あはは~まぁ勘違いするよねぇ。夏人は馬鹿だからなぁ」


夏乃の軽口に言い返しも、腹を立てている態度を見せる事無く淡々と次の時間の授業で使う教材を準備し始めた。


「それでさ、出来れば理科を教えて欲しいんだよね。特に化学」

「帰国子女は化学が苦手なの?」

「帰国子女関係なく、私が苦手なの」


どうやら彼女は、英語を教える代わりに苦手な科学を教えてもらいたいそうだ。


「別にいいよ、僕も英語教えて欲しいし」

「やったぁ~じゃあ放課後、ファミレスで」

「何で?教室で良いじゃん」

「えぇ~教室じゃ夜遅くまで出来ないじゃん」

「夜遅くまでやらないといけないの?」


夏人は家と学校以外で勉強をしたことが無い。

なので夏乃のファミレスで勉強という考えがそもそもあり得なかった。


「ま、とにかくファミレスへGo~!」

「ファミレスってこの辺で言うと…」


夏人が歩いて近くのファミレスまで行こうとする中で、後ろから夏乃が自転車に乗ってやってきた。三段階で変速するタイプの普通の自転車、後ろには荷台がある。


「へい夏人、ケツ乗りなぁ~」

「二人乗り?そこまで遠くもないのに」

「良いから良いから!青春っぽいじゃん」

「概念に捕らわれた愚か者め…」


ボヤキながら夏人は荷台に乗った。またがるのではなく、横向きに。

さながらそれは青春映画のワンシーンの様だった。


「ダイジョーブ?落ちそうじゃない?」


夏人は両手で携帯を操作しており、自転車のどこにも捕まっていなかった。

彼の身体能力はかなり良く、自転車が出せるスピードなら転んでも、まずうまく受け身を取って無傷で済ます事が出来る。


「大丈夫、バランス感覚は良い方だから」

「あっそ、もっとスピード上げて良い?」

「暑いから上げて欲しいと思ってた」


夏乃が自転車のスピードを上げる事5分でファミレスに到着した。


「着いたけど…」

「混んでるなぁ~」


同じく試験日前に勉強しに来たのか、店内にいる客の6割は学生だった。よく見れば同じ制服の人もいる。


「ここら辺他の高校もいるから、その人たちもいるね」

「んー他の場所探そ?」

「…ファミレスじゃなきゃいけないの?」

「カフェでって事?カフェも混んでるでしょ」

「んーまぁカフェといえばカフェなんだけど」


そう言って夏人はまた夏乃に運転を任せ、道案内役として後ろから指示を出した。


ファミレスから自転車を走らせること20分。ようやく夏人の言うお店に着いた。


「はぁ、はぁ…!ようやく着いた~!」

「良かったね、お疲れ様」

「私にここまで2ケツさせといてそれだけ…!?」

「自分がしようって言いだしたんじゃん。入らないの?」

「入るよ!」


自分がこんなに疲弊しているのに軽い労いの言葉一つで済まされた夏乃は、信じられないと言った顔のまま夏人の後ろについていった。


夏人が入ったのはおしゃれなカフェ。内装は基本的に木造で、少し高めに設計されている天井は圧迫感を感じさせることなく、プロペラが目に見える速度で回転している。

コーヒーの香りと、微かなケチャップの香りもする、恐らくナポリタンに使ったのだろう。


「ただいま」

「ただいま?」

「お~おかえり夏人。アレ?彼女?」

「違うよ」


奥から出て来たのは一久だった。

エプロン姿で白シャツ。まぁよくあるカフェの店員さんスタイルだ。

一久は自分の息子が可愛い女の子を連れてきたことに少し驚いている様子。


「お、お知り合い?」


一久と夏人が親子だと知らない夏乃は、イケメン店員と仲良さげな夏人に尋ねた。


「僕のお父さん」

「お父さん!?」

「息子がお世話になってます~」

「別になってないけど」

「お父さん渋いね…ていうかかっこいいね」

「そうだね」

「照れる~」


一久のいつもの軽いノリを無視して、夏人はスタスタカウンターの中に入っていった。


「二階使っていい?」

「良いよ、何すんの?」

「勉強。試験近いから」

「期末かぁ、懐かしいな。ゆっくりやんな」

「うん」

「後で飲みもん持ってくよ」

「ありがと」


夏乃だけが流れに取り残されながら、夏人は彼女を二階の休憩室に連れて行った。


「とりあえず、19時くらいまではここで勉強出来るから」

「何で19時?」

「19時になったらバーになるから」


一久の店は10時から19時まではカフェとして、19時から23時まではバーとして経営している。

一久はカフェとバー、どちらにも出勤する事はあるが、一久がバーで出勤する日はトウマがカフェに出たり、信頼している友人に手伝ってもらったりするというスタイルを取っていた。


「なるほどーたまによく見るお店だね」

「そんな感じ」

「因みにここは何の場所なの?」

「休憩室みたいなもの。19時までは誰も来ないと思うけど」

「やだぁーそんな所に女の子を誘い込むなんて」

「そうだね。勉強しようか」


独りふざける夏乃を置いて、夏人は休憩室窓際の机に勉強道具を広げた。

決して広くはないけれど、二人分の教科書や参考書などを出すには十分なスペースだ。

夏人はよくこの休憩室を使って勉強をしている様で、手慣れた手つきで準備を進めていく。


「荷物、そこにあるソファに置いて良いから」

「あ、うん。ありがとー」

「どうする?そっちの苦手教科から勉強する?」

「うん、じゃあそうしようかな」

「化学だっけ、難しいよね。僕も理解に時間がかかる。一つの問題に2時間」

「めーちゃーくーちゃーかかってんじゃん」

「僕だって別に頭が良いわけじゃない」

「えーーーここまで来てそんな事言う?」

「嫌なら帰れば?僕はここに残ってやるけど」

「嫌!私もここでやりますぅ~」


そんな話をしていると、二人分のコーヒーをトレーに乗せた一久が休憩室に持って来てくれた。


「はい、コーヒー。夏人はブラックな」

「ありがと」

「で……」

「あ、美吉みよし夏乃なつのと言います」

「夏乃ちゃん、へぇ~夏がお揃いなんだねぇ。仲良くしてやって欲しいね」

「はい是非」

「いや、別に大丈夫」


一久と夏乃が話している間に夏人は勉強を進めた。


ということで、

一久とトウマの息子、夏人くんの話になりました。

みなさんも好きになっていただけたらと思います。


因みに夏乃ちゃんは筆者が実際に高校時代同じクラスだった

帰国子女の女の子を参考に書いてみました。

浅く広く付き合っている方でした。

因みに筆者は超狭く深く友人を作成しました。


みなさんはどうでしたか?感想と一緒に教えてください。

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