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色が変わる瞬間を  作者: 粥
16/25

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トウマがストーカー被害にあっている様なので、とりあえず今日はこの家に匿う事にした。


「すみません…」

「こんな時くらい頼りなよ。でさ、とりあえずどんな奴なの?そのストーカーって」

「えっと…いつもパーカーを着ている、私たちと近い年齢の人です」

「そんなハッキリ姿見たの?」

「ええ、一度だけですけど…。その時はストーカーだなんて思ってなかったので、特に警戒したわけじゃないですけど」

「それがいけなかったんじゃない?もっと怖がったり、迷惑そうにしたり、強気に警察とか呼ぼうとしないから」

「私だってストーカーだって分かってたらそれなりの対処をしましたよ…。というかそんなもしもの話なんてどうでもいいです」

「そうだね、今これからの話をしようか」


トウマのストーカーの姿などはトウマ自身が知っているので、とりあえず俺の部屋の窓から覗く様にしながら、今相手がいるかどうかを探してみた。


「今は…いませんね、先ほど一久さんと一緒に家から出て来たのが効いたんでしょうか」

「だったら話は早いんだけどね」

「ですね…」

「思いの外頑張るタイプのストーカーだったらすぐには諦めないだろうけどね」

「ストーカーでも頑張らなきゃ出来ないんですね」

「まぁいいや、とりあえずは今日泊まっていきなよ」

「…良いんですかね…。やっぱり帰った方が…」

「さっきも言ったけど、まさに今日トウマの家まで押し入って来たらどうすんの?」

「流石に…」

「流石に今日は来ないって証拠を非の打ちどころなく説明できる人~」

「う…」

「はい議論終了、そろそろ母さんが帰ってくるから、ちゃんと事情を説明しようね」

「はい…」


トウマがまた申し訳なさそうに俯く。

俺はそんなトウマの頭をワシャワシャと撫でてあげた。


「大丈夫、俺が今日泊まらせるって言ったから、トウマに責任はないよ」

「そういう問題じゃ…」

「大丈夫大丈夫」


それ以上トウマは何を言わず、ただ俺の撫でを受け入れるだけだった。



母が帰って来て、事情を説明すると二つ返事でオーケーが出た。

と、同時にそのストーカーをしばき倒してくるとか言い始めたので、流石にそれは二人で止める。


「で、どこで寝るの?」

「どっか空いてる部屋無いの?」

「私今日作業部屋で寝るから、トウマ私の部屋で寝ていーよ」

「ちなみにその作業部屋には布団あるんですか?」

「………………………」

「私ソファで寝るので大丈夫です」

「駄目だよお客さんなんだから!」

「お客さんって程珍しい客でもないだろ」


トウマの寝る場所は結局リビングのソファになった。夏場なので掛布団はバスタオルで良いと言ったので、大判のバスタオルを渡しておいた。


「ぶっちゃけリビングが一番涼しいだろうから寝苦しいってことはないだろうけど、もし何かあったら俺の部屋…はあれか、母さんの部屋に行けばいいよ」

「何で一久さんの部屋はダメなんですか?」

「それはまぁ…男の部屋に女の子が何の躊躇い無く入るのはなぁと…」

「いや、先ほどまで私一久さんの部屋に…」

「うるさい」


トウマの言葉をテキトーにシャットアウトした後、俺は自室に戻った。



部屋に置いてあるテレビで深夜にやっているよく分からない番組を見ていると、母かトウマのどちらかが俺の部屋の扉をノックした。


「どうぞ~」

「一久さん、私です。トウマです」


お風呂から上がり、俺の寝間着を借りたトウマが部屋に入ってきた。


「あの、見たい番組があって…リビングのテレビつけてもいいですか?」

「良いけど…それわざわざ聞きに来たの?」

「はい…あ」


トウマは俺の部屋にあるテレビを見て固まった。反応からして、見たい番組はこれのようだ。


「見たいのってこれ?」

「はい」

「…じゃあここで見なよ」

「良いんですか?」

「もう見てるじゃん」


トウマの見たかった番組は、俺がテキトーに付けていた番組だった。

どこか聞いたこともない海外の街を、現地の美人リポーターがリポートしていく内容で、美女の声を日本語でアフレコして、物珍しいお店やスポットを紹介している。


「これ、面白いの?」

「はい、毎週見てます」

「海外行きたいの?」

「海外に行きたいんじゃなく、海外ならではって感じが好きなんです。お店の外装内装、道の作り、ファッション、家の作り、その国だからその国でしか出せない『色』みたいなものを、こうして見られるのが楽しいんです」

「まぁテレビでこうして紹介されないと、実際に見に行くしかないしね」

「時間の流れが全然違うと思います、彼らと私たちでは」


画面ではその国の女性と男性が堤防に座り、綺麗な海を眺めながら軽食を食べている。

恐らく日本でこんなカップルもいるのだろうが、東京ではまず見ない雰囲気だ。みんなスマホを持ちながら、スタスタ速足で街中を歩いていく。

ゆっくり流れるこの時間は、果たして俺たちの中にあるのだろうか。


「あ、一久さん」

「んー?」


トウマがあまりにも楽しそうに見ているので、俺も気になって番組を見ていると、横でトウマが話しかけてきた。


「今度の土曜の夜、暇ですか?」

「土曜の夜?バイト終わりで良い?」

「バイト何時までですか?」

「朝から夕方まで、帰るのは17時くらいかなぁ…」

「バイト終わりですか…」

「何かあるの?」

「映画に付き合ってもらいたくて」

「映画?なんの?」

「これ観たいんです」


トウマは見たい映画のWeb広告を開いた状態で携帯を渡して来た。それを見てみると、アニメ映画だった。


「興味なさそうなら、無理にとは言いません」

「こういうのは初めて見るけど、良いよ。観に行こっか」

「良いんですか?」

「うん、何かあらすじからして面白そうだし」

「では行きましょう。…意外です、正直一久さんがあまり観なさそうなジャンルだったので」

「まぁ、トウマが観たいって言うほどだしね」

「私基準ですか」

「そうそう」


珍しくトウマが我儘を言ってきた。我儘って程大袈裟じゃないけど。

それでも珍しいトウマからの誘いだ、どんな映画だろうと子の誘いは受けるべきだと思った。映画もちゃんと面白そうだったからというのももちろんある。


「トウマって休日何してんの?」

「休日ですか?…何でそんな事を今?」

「いや、付き合い結構長くなってきたけどさ、そういえばトウマの色々知らないなぁと思って」

「なるほど…」

「で、何してるの?」

「そうですねぇ…基本的にはお婆ちゃんたちの家に行ったりしてますよ」

「へぇ~あの凛とした人か。お婆ちゃん家までどれくらいなの?」

「そこまで遠くはありません、大体バイクで1時間くらいでしょうか」

「結構かかるね、バイク何乗ってんの?」

「スポーツタイプですね、お爺ちゃんと一緒に弄ったりしています」

「そっか、お爺ちゃんバイク整備の人だっけ?」

「まぁ、そろそろ閉めるそうですけど」

「そうなんだ、トウマが継いだり…しないってこの間言ってたっけ?」

「言った気がします。まぁ、継がないですね。あれは趣味でやるものだと思ってますし」

「なるほどね」


トウマの顔にもわずかに笑顔が増えてきた。

もうストーカーについて不安に思ったりしていない様だ。


「もうストーカー怖くない?」

「あ…そういえば私、それで泊まってるんでしたっけ」

「忘れてんじゃないよ」

「忘れてしまっていました。一久さんといると悩み事忘れてしまいがちですね」

「それは…良い事?」

「さぁ、分からないですけど良い事なんじゃないですか?悩むことも忘れるくらい、楽しいって事なんですから」

「楽しいんだ、俺といると」

「楽しくないと言えば嘘になりますから」


トウマの回りくどい言い方に少しだけ笑い、気付いたらトウマの見ていた番組が終わっていた。


「あ、終わった」

「終わりましたね」

「………………………」

「………………………」


トウマは何故かその場から動かず、次に続いているコマーシャルを眺めていた。


「…戻らないの?」

「戻りますよ」

「いや、別に戻らなくても良いんだけどさ。ただ、番組終わったらすぐにリビング戻ると思ってたから」

「そうですか」


そう言った後、トウマはしばらく動かなかったけど、ようやく立ち上がり一階のリビングへと降りていった。


「あ、やっぱ俺も降りる」

「何か?」

「喉乾いた。知ってる?寝起きに足攣るのは水分不足だって」

「へぇ、そうなんですか。じゃあ何で寒い冬場に多いんですか?」

「毛布とか厚着するだろ?あれで汗かくらしい。で、冬場だから水も飲まないし」

「あー…そういうサイクルですか、一つ勉強になりました」

「それはよござんした」


トウマと一緒にリビングに降り、冷蔵庫にある麦茶をコップ一杯注いでその場で飲み始める。


「トウマも飲む?」

「飲みます」


もう一つグラスを取り出し、麦茶を注いでトウマに渡す。会釈しながら受け取り、喉を鳴らしながら飲み始める。

お互い麦茶を飲み干し、俺は二階の自室に戻るためにリビングのドアに手をかけた時、後ろから引っ張られる感触を覚えた。


「ん…?トウマ?どした?」

「…いえ、その…今日、ありがとうございます。ほんとに…。正直、今日襲われたらどうしようかと…いや、今日だけに限った話じゃないですけど…」


彼女は俯きながら、恥ずかしそうにしながら感謝を伝えてきた。

トウマや俺くらいの歳になると、素直に謝ったり感謝を伝えたりする事は少なくなる。そんな中で、トウマは今一度しっかり感謝の意を伝えたかったようだ。


「…ん、まぁただ泊めただけで状況は全然変わってないけどね」

「それでも…『ありがとうございます』なんですよ」

「そか」


俯き、頭頂部を向けられている俺は、丁度良いということでトウマの頭を撫でてあげた。いつか動物園に行った時、ウサギのふれあいコーナーでした時の様な優しい撫で方で。


「………………………」


気に入ってくれたのか、トウマはしばらくそのまま俺が撫でているのを受け入れてくれた。すぐに取り払われると思っていたので、少し意外だった。


「一久さん、撫でるの上手いです…」

「そう?あんましたことないけど、気に入ってくれたなら」

「気に入りました」


トウマは嬉しそうに、気持ちよさそうにしている。

これ以上やっていると辞めるタイミングを失いそうなので、その後すぐに手を頭から放し、『おやすみ』を言って二階に上がった。


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