訪問者①
目が覚める。
ふかふかのベットの上だ。
目を開くと真っ暗な部屋の天井がはっきりと見える。
やっぱり夢じゃない···。
そうだよね。夢とは言い難いあの感覚···まだ少し残ってる。
あの奇妙な出来事は今でも僕を不安にさせる。
一息ついてから見えるようになった部屋を見渡すと僕はある一点を見つめてしまう。
えーっと····真っ白な髪の少年? がいる···? と言っても本来は暗いこの部屋だけに色がわかるってやっぱり変な感じ。
でも、なんだろう? 壁とかははっきり見えるのにこの人は···なんていうか···色が薄い? ちゃんと見ようとしないと見えない感じがする。
その間も白い髪の少年はじっとこちらを見つめている。
その少年はすっと横に移動する。そして、少し考えた素振りのままこちらを見つめている。
この人は誰なのだろう。今までもいたのだろうか? もしかして、いつもお世話をしてくれる人?
でも、あの人はいつもすぐいなくなっちゃうし···。
まさか、あの時の···女性と一緒にいた···。
いやいや、あの時に感じた圧力を感じないし、あの笑顔の人と同一人物とは思えない。この人は一体誰だろう? そう考えを巡らせていると
「おまえさぁ、見えてるなら見えてるでなんか反応しろよー。」
と白い髪の少年が呆れがちに僕に話しかけてきた。
「あーぁ、気付かれないようにしてたのになー。つーか、すぐ気付いたろ?」
と白髪の少年は手をひらひらと振り、すぐ側の壁に体の重心を預ける。
あの不思議な出来事の後というのもあって今度はちゃんと返事が出来るのか? それを考えると少年の思考が止まってしまう。
「おーい?固まってないでなんか反応しろよー。こっちは身構えてたってのに···。」
と白い髪の少年はツカツカと僕の前まで進み顔に指を向けた。
「ご、ごめんな、さい····。」
と俯くと、白い髪の少年は
「あー···、そうなのか。悪い。あまりにも簡単に見つかったもんでイライラしてた。指差ししてお前にあたってカッコ悪いよな。俺こそ···ごめん!」
と右手を顔の前で立てて僕に頭を下げる少年。
僕はどうして良いのかわからないでいると···
「あー、俺はレオナルド。お前は?」
「ア···アクセル···。」
「アクセルか。よろしくな!」
と言うと白髪の少年、レオナルドはニコッと笑い握手を求めてきた。
僕はどうして良いかわからずレオナルドの手をゆっくり見つめた後、自分の掌を見る。
「はい! 握手! これで俺達は友達な!」
とレオナルドは僕の手をサッと取り握手した。
「なぁ、お詫びってわけじゃないけどさ···どこかに遊びに行かね? ずっとこんな暗い所にいても楽しくないだろ?」
と首を傾げこちらを見る。
「え?」
ここから? 出る?
そんな事···考えた事なかった。
「うーん、暗い所は落ち着くってのは俺もわかるけど···ここって暗いにもほどがあるだろ? こんなんじゃその内、病気になっちゃうぜ?」
「う、うん···。」
「それに外にいるって気持ち良いもんだぜ? というか、アクセルは自由に外出れなかったかもしれないけどなー。」
とレオナルドは暗い部屋を見渡す。
「···。」
というより本当に外に出るって考えがなかった···。
「まぁ、そんなの俺には通じないけどな!」
と頭の後ろで腕を組みにひひと笑うレオナルド。
外···確かに行ってみたい···レオナルドと外で遊んでみたい···な···。
でも···。
「あー、もしかして、ここに誰もいなくなるのが心配なのか?お前が寝てた時にこの部屋掃除してた人いたもんな···。」
「う、うん。」
レオナルドの言う通りではあったが、僕がいなくてもお世話の人にとってはどうなのだろう···もしかして何も変わらずいつも通り掃除や手入れをして帰っていくだけなのでは? と思ってしまう。
するとレオナルドは少し考え込み。
「···ベルゼール。いる?」
「はい。こちらに···。」
と眼鏡をかけた大人の男性が現れる。
「俺、こいつと外で少し遊びたいんだけど、あれをこいつにも使って良い?」
「はい。左様で御座いますね···。恐らく···ではありますが、使用可能で御座いましょう。」
「お? マジ? やっぱりイケる?」
「はい。しかしながら、何らかの制限は付くかもしれません。」
「え? 制限?」
「はい。制限···で御座います。しかしながら、単純な制限ですのでご友人に危険が生じる···という事はないかと。」
「うーん···。まぁそれなら良いか! アクセルも良いか?」
と頭の後ろで腕を組み再度、にひひっと笑うレオナルドだったが少し考え込み。
「確かに体力は無さそうだよなぁ。」
とアクセルに聞こえない程度の声で呟いた。
「おし、じゃあそれで行こうぜ!」
「え? え? でも···。」
「大丈夫! 細かい説明するとあれだけど、俺達に任せとけ!」
と胸をドンと叩く。
「んじゃ、ベルゼール! よろしく!」
「はい。では、レオ様の新しいご友人···少し失礼致します。」
とベルゼールと呼ばれた紳士が僕の額に手を当てると僕は意識を失う。
◇ ◆ ◇
「んー? ここは?」
ま、眩しい? ここは外? って目を手で擦ると毛がもふもふす····え?
何? これ?
「あーっはっはっは! 目が覚めたか? つーか、あんな所にいたもんだからって本当に体力無さすぎ! 人間の生命力とみなされずそんな小動物の体になるなんてなー!」
とレオナルドは目の前で白い椅子に座っており、腹を抱えて笑っている。
「失礼ながら···ハムスター種····で御座いましょうか。」
「あははははは! ハムスターってお前!」
レオナルドの笑いは止まらない。
こんな事は初めての経験だったが、むっとしていると····。
「悪い悪い。ほら、これでも食べなよ。美味いぞ?」
と平皿を目の前に出され、ベット替わりになっていた小さなクッションから皿の前に移動する。
そして、皿の上の物を両手で持ちカリカリと食べ始める。
「うひゃー! ナッツ食べてる! お前ってば可愛いなー! あははははは!」
再度むっとしてしまうが、今の姿の影響か、ナッツがとても美味しい。
悔しいけど、食が止まらない。
カリカリと食べ続けていたらレオナルドが
「うっひゃー! めっちゃ頬にナッツ貯めてる! 写真撮りてー! あははははは!」
とご満悦のようだ。
それを聞き、ぷいっとそっぽを向くと
「ごめんて! そんな怒るなよ! ベルゼール! アクセルに紅茶を。」
「はい、畏まりました。」
とベルゼールが紅茶を淹れてくれ、僕の前に紅茶を置いてくれた。
僕のサイズにあったカップで、今もテーブルの上と思われるが更に小さな台の上に置いてある。しかも、少し温度を下げて飲みやすくしてくれているようだ。
なんでこんなカップを持っているのかとかハムスターというものは紅茶を飲んでいいのか? とかずいぶん後で疑問に思った。まぁそれは別の話である。
「美味しいだろ? ベルゼールの紅茶は格別なんだよ。」
「お褒めに与り光栄で御座います。」
うん、レオナルドの言う通り紅茶がとても美味しい。お腹、頬も膨れ紅茶で気分も落ち着き、先程までのやり取りはどうでも良くなってしまった。
頬にナッツを貯めつつ紅茶を飲むという至難の技をレオナルド達に披露したが····まぁこの話もまたずいぶん後の笑い話になったのだった···。
「だから、機嫌直してくれよ? 笑っちゃってごめんな!」
とレオナルドが言うと間髪入れず
「あー、それから説明が遅れたけどさ、あの部屋にはアクセルの体···本体がある。万が一の為、その体を守らせている者も一緒にいる。」
とレオナルドはテーブルに肘を付き頬杖をついて話を続ける。
「だから、何かがあったらすぐ連絡が来るし、その場でアクセルの体の元に戻す。な? 問題ないだろう?」
にやっと笑うレオナルドは更に話を続けるのだった。