少年
僕は今、真っ暗な部屋にいる。
以前はこことは違って明るい所にいたんだけど、気付いたらこの真っ暗な部屋で生活している。
真っ暗な事もあって僕のお世話をしてくれる人が来てくれる。その時は少しだけ明るくなる何かを持ってて、それのおかげで僕は暗い以外は不自由ない生活を送っていた。
その灯りを頼りに食事をしたり体を拭かれたり、髪を洗われたりお世話をしてもらう。そして、着替えたらいつもの部屋で静かに過ごす。
その繰り返し。
その人はお世話をしてくれている時も何かをしている時も何も話してくれない。明るくなる何かはぼんやり明るくしてくれるってだけでその人がどんな人なのかよくわからない。何な特殊な灯りなのかな? それとも僕がずっと暗い部屋にいたから? 見えなくなっちゃった?
その人は僕に良くしてくれるから···勇気を出して挨拶をしてるんだけど···全然反応してくれないんだよね。
僕の挨拶···もしかして間違ってるのかな?
考えてもわからないからその人にまた同じ挨拶をしてみよう。続けたら反応してくれるかもしれないし。
その人がお世話をしてくれると今横になってるベットもふかふかになってとても気持ち良く眠れるんだよ。
うん、そのお礼の気持ちを伝える時は···そう···
「ありがとう」って言えば良いはず。
それを聞いたのはずっと前···明るい所にいた時···。
今度その挨拶したら、その人は何かお話してくれるかなぁ? 楽しみだよ。
ワクワクしてたら眠くなってきちゃった···。
おやすみ···なさ····い·····。
◇ ◆ ◇
んん····。
あ····あれ···?
部屋が明るい···。いや、少し眩しい? 目を閉じていても光を感じる。こんな感覚は久しぶりだ。
お世話をしてくれている、いつもの人が来てくれたのかな?
僕、いっぱい眠っちゃったみたい。
えっと···何か···する事があったような····。
そうだ···挨拶しなきゃ···。
起きて、挨拶を···。あれ? 体を起こせない···?
「·····!」
声が···出ない? あれ? 腕が···手が動か···せない···? 目を開いて、口は開くけど···他は動かせないよ···。
こ、こんな事初めてで···。僕、どうすれば···。
「····。」
「あら、まぁ···坊っちゃん。この幼子があの···?」
「·····。」
「坊っちゃん。それは大変よろしゅう御座いました。」
「········。」
「左様で御座いますか。坊っちゃんの為になるならそう致しましょう。」
いつものお世話の人? 声を初めて聞いた。でもなにかいつもと違う? 体が動かないなんて初めてだし。またお礼が言えると思ったのに···。
僕はなんで動けないの?
いつもより明るくて、お世話になってる人がどんな人か知れるかもしれないのに···。
よし! もう一度やってみよう!
「·······!」
やってみたけど、声が出ないよ···。
どうして? わからないよ···。
「···。」
「この幼子が···で御座いますか···。」
「···。」
「失礼致しました。申し訳御座いません···。」
「···。」
「左様で御座います。この幼子ではあまりにも···。」
「···。」
「左様で御座いますか、それは楽しみで御座います。ですが、この幼子は···。」
「···。」
「はい、坊っちゃん。せめてこの幼子にこれから起こる奇跡を説明しませんと。」
「···。」
「畏まりました。では僭越ながら···コホン。良いですか? 幼子よ。これから貴方は坊っちゃんより偉大なる奇跡を授かります。それ以て何を為すかは貴方次第ではありますが、くれぐれも坊っちゃんを、世界を退屈させぬよう···お気を付けなさい。」
え? な、何? どういう事? わからないよ···。
そう声の主に言われると目の前が光り輝く。
そして、透き通った白い肌の手が···その掌から黒く圧縮された圧倒的な力のような何かが生まれる。
暗闇に黒い光とは奇妙だが、その何かは暗闇の中を照らし、少年の白い肌を際立たせ神々しさも感じられる。
その掌の持ち主である少年の顔が視界に入る。それはとても美しい笑顔を見せ、その笑顔に気を取られていると掌から何かを僕へ落とす。
そして、それが僕の顔···左目に触れたと思われた瞬間·····。
味わったことのない衝撃が僕を襲う。
う、うあああああああああああああああああああああああ!
熱い! 目から徐々に広がり体全体に伝わってくるような···コレ、ハ····ナニ····?
少年の耳を支配する、自身の鼓動。ドクンドクンと脈打つ生の証明、そして少年の体が脈打つ度にまた鼓動が生まれる。
次第に強くなる鼓動に耐えきれず、体を反ったり寝返ろうとするも自由が効かない為、僕は耐えるしかなかった。
その衝撃に耐え続ける僕は目を開く事を思い出し天井を見つめる。
今までミエナカッタ···真っ暗だった天井···が、模様ガ見エる···。
目の奥が、体が燃える様に熱くて·····何かと混ざってイく···ような···このカンかくハ····。
あああああああアアアァ····あああああああアァ····。
と少年は衝撃の波が全身に行き渡った所で意識を失うのだった。
「·····。」
「坊っちゃんはこの幼子のこれを見越していらっしゃったのですね。」
「·····。」
「はい。坊っちゃんの仰る通りで御座いました。おや···この幼子は気を失っておりますよ! 坊っちゃんの奇跡を受けて気を失うなど、許してはいけません!」
「·····。」
「そう仰いますが、坊っちゃんはこの幼子に甘過ぎます! このような無礼を···不敬を許すと、他の者に示しが···。」
「···。」
「いえ、そんな···坊っちゃん大変申し訳御座いません···。坊っちゃんの仰る通りに···。」
「·····。」
「はい、坊っちゃん。では、手配を致します。」
「·······。」
「坊っちゃん···。あらあら、そのようなお顔は私、何千年ぶりで御座いましょう。私は坊っちゃんのそのお顔が見れてとても嬉しゅう御座います。」
「·····。」
「なんと、まぁ。左様で御座いましたか。大変失礼致しました。」
「····。」
「はい。ではそう致しましょう。」
「········。」
「あら···まぁ、それは大変で御座います。では、坊っちゃん急ぎませぬと···。」
「···。」
「坊っちゃん準備整いました。参りましょう。」
と暗闇の部屋にあった明かりは徐々に力を失い、また何時ものように静寂に包まれる。
◇ ◆ ◇
二人が少年の前を去って数時間後。
真っ暗な部屋で少年の寝顔を見つめる者が現れる。
「こいつが···さっき感じたあれか? ···起きた瞬間で判断付くが····出来る事ならば····。でもなぁ···。」