淫夢・攻
動きが鈍ったアイリンに
留めの一撃をくらわそうと、
モーションの大きい
渾身の一撃を振り回す人狼。
アイリンはこれを、人狼の腕を掴み、
流れに逆らわず後ろに飛ぶことで
衝撃を和らげ受ける。
派手に飛ぶので、
人狼はさらに猛追して拳を振り回す。
アイリンが人狼の攻撃を
後ろに飛んで乗り切る、
それが何度も繰り返された後。
突如として人狼が崩れ落ち、
片膝を着く。
「クッ」
アイリンは人狼の射程ギリギリまで
にじり寄る。
「あんた、あたしが
エネルギー切れのサキュバスだと思って
油断したろ?」
「あたしぐらいのレベルになるとね、
男と性交するだけが
精気を吸収する方法じゃないんだよ」
立ち上がろうとする人狼、
だがその足元はフラフラだ。
「クッ、エナジードレイン、
ドレインタッチか……」
「そうだよ、
何のためにあたしが殴られる度に、
あんたの獣臭い腕を
掴んでたと思ってるんだい?
まぁエネルギー摂取の効率が悪いんで、
普段は使わないんだけどね。
調子に乗った獣に気づかれないように
精気を吸い取るぐらいわけ無いことさ」
フラフラになりながらも向かって来る人狼、
その土手っ腹に綺麗な弧を描いた
回し蹴りを決めるアイリン。
人狼は腹を押さえその場に崩れ落ちる。
アイリンは深呼吸をして発する
「淫夢・攻」
その言葉と共に歪む空間。
「物質至上主義文明のここの人間には、
見えないし聞こえないし、効かないんだけどね。
精神至上主義文明の同郷から来たあんたには
よく効くことだろうよ」
いつの間にか、
弱った人狼の体には拘束具、口には猿轡が。
「これはあんたの心の奥底にある
欲望を具現化して、
攻撃手段にする術だからね」
アイリンの手には
巨大な鞭が握られていた。
「どうしてあんたみたいな
脳筋マッチョには、
ドMが多いんだろうね、
やんなっちまうよ、まったく」
『鞭打ち千回の刑』
アイリンはその太く長い巨大な鞭を
高速で振り回し、
拘束され身動きが取れない人狼の背中を
何度も打ちつける。
空を切り裂き、
ビュンビュンと唸る鞭。
猿轡で声を出すことが出来ず、
呻き声のみを上げる人狼。
背中の毛は抜け落ち、皮膚には
大きなミミズ腫れが無数に浮かぶ。
「まぁ、千回には全然足らないけど、
これ以上やったら死んじまうからね」
人狼は失神し体をピクピク痙攣させている。
「これはちょっとご褒美過ぎたかね」
-
「被害者は無事保護。
男三人は骨抜きで逃亡不可能。
人狼も拘束して身柄を確保。
今回もこれで一件落着ですかね」
女子高生を家まで送り届けたリリアンは、
状況を確認するように言った。
「今回は密入国者が絡んでるからね、
警察も移民局も出て来るだろうよ。
さすがにこれで一件落着なんて
脳天気な訳にはいかないだろうよ」
夜空の満月をしかめっ面で見上げるアイリン。