震える店長(マスター)
「それでどうですか?
人間の真似をして
口から食物を摂取して
栄養を取ってみた感じは?」
「全然エネルギー不足だね
これじゃMAXの半分も力を出せやしないよ」
「ですよね?
私も人間の彼氏(契約者)が出来るまでは
我慢したいんですけどね……」
アイリンの顔が少し緩み、
笑みを浮かべているようにも見える。
「でもこっちの食べ物、
味は美味しいかね」
「ですよね、
あたしも甘い物とか大好きですよ」
リリアンはそう言って
運ばれて来たパフェを頬張る。
サキュバスは人間の男性と性交することで、
相手から精気を吸い取り、
自らのエネルギー源としているが、
アイリンはこちらの世界に来てから
自らその行為を封印し、
こちらの人間同様に
口から食物を摂取することのみで
自分の生命を維持出来るかどうか試していた。
『郷に入っては郷に従え』
という言葉を実践すべく、
移民者の中でもとりわけ
人間を知ろうと尽力し、
人間の立場から物事を思考しようと
常に努めてはいたが、
それでもやはりまだまだ
アイリンにはわからないことが多い。
千年を生きたサキュバスであっても、
こちらの人間は興味深く面白い、
と言うことらしい。
-
「じゃあ、
あんた昨夜あの後どうなったか知らないか……」
リリアンはパフェを口に運ぶのに忙しい。
「一応話聞いて来ましたよ。
なんでも大盛り上がりの
大乱交だったみたいです」
「まさか死なせたりしてないだろうね?」
怪訝そうな顔をするアイリン。
「そこは大丈夫みたいですよ。
死なない程度に精気を吸い尽くしたって
言ってましたから。
いや~それにしても
美味だったらしいですよ。
人間の屑のいい感じに腐った魂ですよ。
その上、屈強な肉体の持ち主だなんて、
美味しいに決まってるじゃないですか」
顔を真っ赤に、鼻息も荒く、
興奮気味のリリアン。
昨夜、女子大生を襲おうとした暴漢三人は、
彼女の仲間であるサキュバス達に
魅了や誘惑という術をかけられ、
上機嫌で文字通りの
酒池肉林を体験した訳だが、
当然お仕置きとして
死なない程度に精気を搾り取られていた。
この先女性恐怖症になる可能性がある
ぐらいのレベルで。
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パフェを綺麗にたいらげたリリアン、
ハンカチで口を拭きながら、
疑問を口にする。
「そういえば姉さんて
今何の仕事してるんですか?」
「あたしはここのウエイトレスだよ」
「えっ!?
姉さんここの
ウエイトレスなんですか!?
こんなふてぶてしいウエイトレスとか
普通います?
さっき店員呼んだ時
全然反応しなかったじゃないですか?」
当然リリアンは驚いて開いた口が塞がらない。
「今は勤務時間外だからいいんだよ、
店長も自由でいいって言ってくれてるし」
「まさか姉さん、
ここの店長と出来てたりするんじゃ?」
「馬鹿言うんじゃないよ、
あんなのの精気吸い取ったら
すぐに干からびて死んじまうよ」
アイリンはそう言いながら
カウンター内を指した。
リリアンがそちらに目をやると、
そこにはプルプル震えている
ヨボヨボのおじいちゃんが。
どうやら店長らしい。
「ほんとだぁ、
ものすごく干からびてますね、
なんかプルプルしてますし」
「でもあれはあれで、
キュートで可愛いおじいちゃんなんだよ」
「そんなこと言って、
姐ねえさんの方が遥かに年上じゃないですか」
「あんたね、
いちいち人間の年齢で比較するから
おかしなことになるんだよ」
「サキュバスの年齢で換算したら、
店長なんか五千歳くらいのもんさね」
「それで、人間の年齢で言ったら、あたしなんて、
そうさね、二十歳ぐらいってもんかね」
「いくらなんでもサバ読み過ぎですよ、それは。
姐ねえさんが二十歳だったら、
あたしはどうなるんですか?」
「だからあんたは
合法ロリだって言われるんだよ」
何やら自分の話をしていることに
気づいた店長マスター。
アイリンは店長マスターに
親指を立てるサムズアップをしてみせる。
プルプル震えながら
サムズアップする店長マスター。
-
そんな話をしばらくしていると、
突然リリアンが眉間に皺を寄せ、険しい顔をする。
「なんか、匂いますねぇ……」
「おや、あんた煙草の匂いは苦手かい?」
アイリンは吸っていた煙草を灰皿で揉み消す。
「何言ってるんですか!
そんなの吸ってるから
嗅覚がおかしくなったんじゃないんですか!?」
興奮してアイリンを責めるリリアン。
「めっちゃ、
やばそうな匂いするじゃないですか!」
アイリンはサキュバスの嗅覚に集中する。
「……」
「なるほどねぇ、
確かに何かやらかしそうな匂いがするねえ」
二人は席を立ち店の出口へと向かう。
「店長、
ちょっと外出して来ますね」
アイリンは店長に親指を立て
サムズアップをしてみせる。
プルプル震えながら
サムズアップする店長。
リリアンは思わずにはいられない。
『すごいチョロそうな職場』