サキュバスの品格
しかしそれでも伝説級サキュバスの
滲み出るエロさは隠しきれず、
朝の通勤客でごった返している
駅であるにも関わらず、
駅のホームを歩くと、
人が左右に避けて道が出来る。
まるでモーセの十戒で
海が裂けて道が示されるかのように。
体に纏うオーラが
光を放って輝いているのではないかと
思わせるぐらいの圧倒的存在感。
愛倫が通るだけで
道行く男達がみな振り返り、見惚れる。
そのレジェンド級の威力を見た
ヤルヤンをはじめとする黒ギャル派の娘達は、
大興奮してリストペクト・アンド・リスペクト。
「さすが姐さんだぜ!
胸の谷間の一つも見せずに
男をたぶらかすなんて、
あたし達には到底真似出来っこねえぜ!」
興奮するヤルヤンを前に冷静なリリアン。
「いや、お前それ
サキュバスとしてダメだろ」
-
このままぎゅうぎゅう詰めの満員電車に乗っても
大惨事になることは目に見えているので、
そこまで満員ではない電車を待って乗ることに。
やはり乗った瞬間に異変は起こった。
『満員』である筈なのに、
愛倫の周囲だけ
微妙に空間が出来ている。
他の密度が高くなるだけなのに、
オーラがすご過ぎて人間が避けてしまう。
それでも突撃して来ようという
身の程知らずな痴漢の猛者もいたが、
愛倫に辿り着くことすら出来ずに、
絶頂してその場に崩れ落ちてイク。
「あぁぁぁぁぁっ……」
「おぉぉぉぉぉっ……」
そっちこっちで絶頂の声を上げて、
崩れ落ちていく痴漢の屍、
ちょっとした地獄絵図みたいなことになっていた。
「何したんですか? 一体」
愛倫がまた何かをしたのだろうと、
勘のいいリリアンはすぐに察する。
「邪な気持ちの痴漢が
こっちに向かって来たら、
淫夢が発動する術を仕掛けておいたのさ」
「なんですか、
その自動反撃カウンター装置みたいな仕様は」
「あんたにも教えてあげようか?
自動で発動する呪詛返しみたいなもんだからね、
条件設定出来れば割と簡単なんだよ」
「いえ、私はいいですよ、
この先満員電車乗る気もありませんし」
微笑を浮かべる愛倫。
「あたしは気に入った男にしか
体を触らせやしないよ」
「でもこの間、
店長が手を握っても、
怒りませんでしたよね?」
「店長なんて
とっても可愛いキュートなおじいちゃんじゃないか」
自分の方が遥かに年上のくせに、
とリリアンは心の中で思う。
「あたしはね、
女子供と年寄りには優しいんだよ」
「弱い者の味方って、
なんだかヒーローみたいですね」
「いや、そんな大それたものじゃぁないよ」
次々と自滅していく痴漢をどこ吹く風と、
愛倫は窓の外の景色を眺める。
 




