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7日目【後編】

 キャリーバッグの女性を含めた三人がエレベーターを徐々に一階に向けて進んでいく。


「……先生? 斎藤先生、大丈夫ですか、顔色が悪いような……」


「嗚呼、すみません……少し気がかりな事がありまして」


 数回目の問い掛けに気づき、反応する斎藤。


 話がまともに耳に入らない程の緊張状態の中、一階を目の前にキャリーバッグが微かに揺れる。


 心臓が鷲掴(わしづか)みにされるような感覚、勘違いと片付けるには既に不自然な程、動いている。


“一階です”とアナウンスが流れる。


 その瞬間……「ウッ! ウゥゥ──ゥッッ!」と言う、唸り声(うなりごえ)にも似た叫び声がエレベーター内に響き渡る。


 斎藤は咄嗟に最上階のボタンを押すと、驚き腰を抜かした沖野 恵がエレベーターから出ないように出口を塞ぐ。


 何が起きたか理解できない表情を浮かべたまま、沖野 恵と斎藤、キャリーバッグの女は最上階へと向かっていく。


 エレベーターの角に座り込む斎藤。


 ──すべて、終わった。


 突如、送られてきた荷物に入った女性、慌てて乗り込んだ通常エレベーター、すべてが最悪のシナリオを辿っていく。


 何より、最悪だった事はエレベーターに沖野 恵が乗ってきたという事実であった。


 考え込むように項垂(うなだ)れる斎藤。


「斎藤、先生……訳を、話してくれませんか……何がどうなってるんですか」


 予想外の沖野 恵からの質問に斎藤の心を包み込んでいた暗闇が一瞬、光に照らされる。


「ははは、信じないだろうが……届けられた荷物に、このキャリーバッグが入っていて、中を確認したら女性が入っていたんだ……全部終わりだ……」


 全てを話そうと言葉を一区切りした時だった。


「終わりません、絶対に終わらせません。つまり……この事実が存在しなければいいんですよね……」


 沖野 恵がそう声に出した瞬間、エレベーターが最上階に到着する。


「斎藤先生……一度、斎藤先生の部屋で話しましょう、それから()()()どうするか決めましょう」


 言われるがままに、斎藤はエレベーターから降りると未だに(うめ)き声を放つ、キャリーバッグを引き、ゲートのロックを解除する。


 室内に移動した二人は、ゆっくりとキャリーバッグを開ける。


 キャリーバッグの中で目を血走らせる女性、拘束された手足を激しく動かし抵抗の意思を示す。


「落ち着いてくれ、俺は……」と斎藤が口を開いた瞬間、女性の口に噛まされていた布が微かに緩み、女性の声がハッキリと発せられる。


「絶対にお前の人生を終わらせてヤるからな! 私はお前の顔を忘れないッ!」



 女性の叫び声が室内に響いた瞬間、沖野 恵が走り出し、キッチンからナイフを取り出し戻ってくる。


 一瞬の沈黙、そして……沖野 恵が斎藤の手を軽く握り、呟く「堕ちるところまで堕ちましょう……先生」


 女性の口に手を当て、口を確りと塞ぐと斎藤の手と重ね合わせるように握られたナイフを女性の心臓目掛けて突き立てる。


「ッ! うッ! ぅぅぅ……」


 骨を微かに削るような感覚とともに、ゆっくりと回されるナイフ。


「斎藤先生、早く処理をしましょう。時間が無いですから……あと、私と先生は此れで共犯です」


「な、何て事を……殺すなんて……」


 動揺する斎藤。


 しかし、沖野 恵は斎藤を両手で抱き締め、小さく呟く。


「先生の人生は絶対に誰にも渡しません……私がついてます……だから、落ち着いてください」


 その日、斎藤は自身が(あや)めた女性を細かく切断する。


 そんな最中、沖野 恵は斎藤の部屋のバスルームで、手に付着した血液を洗い流していく。


 バスルームからバスタオル一枚で、姿を現した沖野 恵は、斎藤に優しく抱きつく。


「先生、異常な事がいっぱい起きた時は、全てを忘れるのが一番です……私が斎藤先生のすべてを塗り替えてあげますから……」


 二人は一線を越える。夜中になるまで、不安を塗り潰すように斎藤は沖野 恵を抱き、沖野 恵も斎藤の全てを受け入れたのである。 

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