6日目
朝、普段より身体の怠さを感じつつ、斎藤は断食くと排泄による体内の浄化が始まった女性のもとに向かう。
いつものように黒鍵を取り出し、隣の部屋の玄関の扉を開く。
室内に入った瞬間、嗅ぎ慣れた鉄の臭いが鼻を刺激する。
慌てて監禁室の扉を開く。
真っ暗な部屋の中央、唯一のライトに照らされた女性、床に作られた真っ赤な血溜まりに斎藤は絶句する。
「なんなんだ……なんで、こんな事に……ッ!」
直ぐに手袋を着けると脈を確かめる。
手袋越しに、体温の無さを感じ、斎藤の手が震える。
「何があったんだ……死因はなんだ……」
死因を即座に調べる。
床には口に噛ませていた布が落ちており、下を向いた状態の女性の口から服を真っ赤に染めながら滴り落ちた事が理解できる。
手足には力ずくで拘束具を外そうと必死に動いたのだろう、傷が痛々しく刻まれている。
──麻酔が切れたのが早すぎたのか、何故、口に巻いた布をしっかり確認しなかった……クソ!
斎藤は二度と動かない女性の手足から拘束具を外し、傷口を綺麗に拭いていく。
死を想像していなかった斎藤であったが、冷静に処理をしていく。
1つ問題になるのは、死体の処理だ。
今までと違い、血液を大量に流し続けた女性の肉体は何とも言えない曖昧な重さを斎藤の手に感じさせていた。
斎藤は女性を沸かした湯船に浮かべると血液を動脈に射した注射針から抜き取っていく。
ゆっくりと流れる時間……冷えた女性の血液が湯船で温まり、次第に流れが早くなる。
血液がある程度抜けると女性の体は臓器の重さを含めても軽く感じる程であった。
キャリーバッグの中にビニールを隙間無く貼り、女性の死体に服を着せる。
血の気が無くなった女性を前に斎藤は祈りを捧げ、懺悔の言葉を口にする。
普段より重たいキャリーバッグを引きながら、斎藤はその日、初めて死体を遺棄する事となる。
夜になり、車に乗り込む。人気のない場所を探し、死体の入ったキャリーバッグと共に辿り着いたのは、廃墟となったビジネスホテルであった。
キャリーバッグを手に車から降りようとした時だった。
──こんな場所に置き去りにされたら、この女性は見つかるまでに酷い姿になるだろうな……そんな事を神は許すだろうか、赦さないだろう……罪人にも慈悲の心を忘れてはならない。
斎藤はその後、女性の遺体を真夜中の街頭のない公園のベンチに座らせる。
「本当に済まなかった……罪人であったとしても、命の価値はかわらない……冥福を祈る」
マンションの前に差し掛かった時、管理人と警察が話しているのを目にする。
慌てて車を走らせ、その場を離れる。
時間をあけて、マンションに戻る斎藤、既に警察の姿はなく、管理人室の電気も消えていた。
その日、一睡も出来なかった斎藤は鉄の香りが残された監禁室の床をひたすら掃除する事で自身の冷静さを保とうとしてた。