5日目
酒を飲み、無理矢理に寝付いた斎藤は頭痛に襲われながら目を覚ます。
「うぅ、おかしいな……酒で頭痛なんて、今まで無かったが……」
気分の悪さを我慢しながら、昨日開いていた名簿を開き、沖野 恵を調べる斎藤。
すぐにわかった事実は、沖野 恵は血縁関係が無く、両親は彼女が16歳の頃に他界していると言う事実であり、同時に斎藤の脳裏にある光景が浮かぶ。
『お願い、パパとママを助けて……お願いします』
医師として病院に勤めていた際に幾度と無く似たような言葉を耳にし、泣いて祈る光景を目にしてきた。
命を救う事を心から生き甲斐としていた頃の記憶が甦る。
──今更、過去に囚われるな……過去に意味など無いんだ。
斎藤は沖野 恵の両親が何故死んだのかを調べようと考える。
しかし、交通事故で重体になった事実は調べられたが、その後、何があったかまでは分からなかった。
悩む事を忘れ、普段なら室内では吸わない煙草に火をつける。
「なんなんだ……俺はあの女に何故、こんなに執着するんだ……」
一服を済ませ、斎藤は元々、拐うために作ったリストを取り出す。
悩みを断ち切るように玄関から地下駐車場へと移動すると車に乗り込む。
車を数十分足らず走らせ、着いた先で一人の女性に視線を向ける。
朝帰りの若い女性、水商売を思わせる派手な服装、早朝にも関わらず、全身から漂うアルコールと香水の匂い。
ゆっくりと後ろから車を近づける。
その時、正面からの数人の男女が姿を現す。
そのまま、次の路地を曲がり、エンジンを止める斎藤。
電信柱に書かれた番地を目に目を向ける。
書かれていた番地を見て、直ぐに綾野 玲矢の実家の側であると気づいた斎藤は、そのまま、車を発信させる。
周りを注意深く見れば、パトカーと警官の姿が目に入る。
斎藤はターゲットのリストを見つめ、次のターゲットへと目線を向ける。
その日、斎藤は出先で新たなキャリーバッグを購入すると、新たなターゲットが人気のない陸橋に差し掛かったのを見計らい、出口に向けて車を走らせる。
ターゲットから見えない位置に車を停車させ、陸橋の下を進み、向かい合うようにして、横を通り抜ける。
「…………」
「……うぅぅッ!」
そして、振り向き様に口をハンカチで覆うようにして、声を殺させ、ポケットから酸素吸引型のスプレー缶を取り出し、無理矢理、口内に噴射する。
缶の中身は吸引麻酔薬であり、抵抗が次第に弱まっていく最中、注射器を取り出した斎藤は女性の首に狙いを定めると麻酔薬を注入する。
静かに女性をおぶると、車の後部座席に運ぶ、ビニールの上に置かれた新品のキャリーバッグに優しく詰め込まれるターゲットの女性。
斎藤はマンションに戻り、女性を椅子に縛り、首に残された注射針の跡を消毒液を仕込ませたガーゼで優しく拭き、更に麻酔薬を吸引させる。
静かに閉じられた扉に黒い鍵が差し込まれ、無情とも言える鍵が閉められる音だけが室内に残る。
斎藤は明日からの女性に行うべき罰を考えながら、ベッドにと横になった。