暗闇の輝き
幼き頃の悲しく歪んだ思いを口にする、そんな彼女の膝に横たわり、大量の血液を流し、次第に青ざめる斉藤。
しかし、沖野(黒目) 恵は、斉藤の生を飽きられていなかった。
斉藤の頭部を優しく床に下ろす、そして、車椅子を運んで来ると斉藤を必死に抱え、車椅子に乗せる。
「先生、今から病院に向かいます……本当に私のせいですみませんでした。責任は必ず取ります……」
車椅子を押しながら、地下に造られた通路を悩むこと無く突き進む。
車椅子の震動と痛みで斉藤が目を覚ます。
「っう、此処は……恵さん……」
「先生、今は喋らないでください。直ぐに病院に向かいますから!」
斉藤は自身の体の状態を確認すると、“クスッ”と、笑って見せた。
「助からないな、血液を流しすぎた……今、意識があるのも、信じがたい……恵さん……俺は」
斉藤が言葉を口にしようとした瞬間、涙を流しながら、首を左右に振る、その表情は、まるで幼い少女のようにすら見える。
「絶対……絶対に助けますから、直ぐに私の友達が……来てくれますから、頑張ってください……私の気持ちを無にしないで……先生」
絶望的な状況、そして、斉藤を乗せた車椅子が止まる。
行き止まりと言う訳で無く、只、通路の真ん中で車椅子は止まったのだ。
「早く、早く来て……お願い……」
小さく呟きながら、天高く続く地下の暗闇を前に上を見上げる沖野(黒目) 恵。
そして、その瞬間はやって来る。
天高く続く暗闇の先に、一番星のように光が輝いた。
光から伸ばされるロープ、そのロープが小刻みに動き出すと、一人の女性が凄まじい勢いで斉藤と沖野の元へと降り立った。
「まさか、本当に地下道に迎えに来ることになるなんて、あんまり、手間を掛けさせないでよね、恵?」
ゴーグルに、身軽な短パン姿の小柄な女性、胸は小さく、外見だけを見れば、幼さが残る容姿は、中、高生のどちらかで悩むほどであった。
そんな少女は斉藤を見るなり、一言呟く。
「コイツは多分、助からないよ、荷物になるし、置いてこうよ?」
「置いて行くわけないじゃない! 先生をやっと見つけたのよ……お願い」
斉藤の車椅子にロープを確りと結び、更に斉藤の体を持参したベルトで確りと固定する。
「恵? あんた、体重何キロだったっけ?」
いきなりの質問に戸惑うも、耳元で小さく体重を告げる。
少女が軽くうなずくと、斉藤の車椅子に沖野(黒目) 恵を更にベルトで固定する。
「先に上に上がりな。暴れないでね? 体重制限はクリアだけど、落ちたら大変だからさ」
ロープには、確りとワイヤーが組み込まれており、地上から、凄まじい力で持ち上げられていく。
斉藤と沖野が地上に辿り着くと、そこは、只の民家の庭であった。
地上で待機していた、もう一人の女性がロープとベルトを外していく。
「恵ちゃん、この住所に向かって……すぐに輸血できる状態で待機してくれてるから出た急いで、料金は現金一括らしいから、金額をあとで教えて頂戴ね」
冷静に語り、当たり前のように、メモ用紙を渡す。
用意された障害者用の車、斉藤の車椅子をリフトに乗せて直ぐに書かれた住所へと車を走らせる。
同時刻、警察がマンションの内部に突入する。
それと同時に、地上に舞い戻った少女と、待機していた女性がクレーン付のトラックに乗り込み、民家を後にする。
そして、ノートパソコンを取り出し、画面を開く、立ち上がるまでの間にお菓子を開封し、口に運ぶ少女。
パソコンが立ち上がると、ニヤリと笑みを浮かべ、パスワードを打ち込み、最後のボタンを押す。
カウントダウンが開始される。




