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病室にて

 人の出入りが(まば)らになる夕暮れ過ぎの病院、駐車場には、複数の私服警官が出入りを窺う。


 そんな、病院の入り口を正面から堂々と院内に入る沖野 恵の姿があった。


 警官達の配置を確めながら、志乃の病室に向かっていく。


 病室までの通路を難なく進み、目的の病室まで、曲がり角1つまでの距離へと迫っていた。その時、病室の扉が閉まる。


 “パタン”と、軽い音が無音の廊下に音を鳴らす。


 バレないよう、病室の前を覗く。病室の前を反対側に向かって歩いていく男性の背中、白衣を身に纏った後ろ姿は南であった。


「あらあら、志乃さんは、一人かしら?」


 悪魔の囁き……沖野 恵は、ポケットに忍ばせていた空の注射器を取り出す。


 そのまま、志乃の病室へと、入って行った。室内は静けさに



 空の注射器に空気を確りと入れる。


「本当に……貴女のせいで、苦労したわ……貴女さえ、居なければ……こんなに辛い気持ちを思い出さないで済んだのに」


 ベッドに横になる、志乃に向かって、そう呟く。




 その時だった。突如、病室の扉が開く。それに対して、即座に注射器をポケットへと忍ばせる。


 完全に開いた扉の先から怒鳴り声が室内に響く。


「何をしているんですッ!」


 声の主は、南だった。手には紙コップが握られ、珈琲が湯気をあげている。


「勝手に入って、すみません。お見舞いに来たんですが、警備の警察官の方が居なかったので、つい」


「そうじゃないです。今、何を隠したんですか、すみませんが安全を確認する為に見せて頂きたい」


 扉が開くと同時にしまった注射器、その一瞬、光を反射させた注射器の存在を南は見逃していなかった。


 少しずつ、そして、確実に互いの距離が縮まっていく。


 沖野 恵の涼やかな表情が若干の焦りを見せていく。


 しかし、病室に二人の予想だにしていなかった存在が訪問する。


「恵さん……南? 病室で何をしているんだ!」


 斉藤の登場に慌てる沖野、それに対して、“勝った”と言わんばかりの表情を浮かべた。


「学、じつは」と南が口にした瞬間、沖野 恵がポケットから、クマのキーホルダーを取り出す。


「南先生、女性には、女性にしか見せたくない一面があるんです。……貴方から渡してください。私はもう来ませんので……失礼します。南先生、斉藤さん」


 一瞬で、全てを包み込み、綺麗に終わらせようとする沖野。


 しかし、南はそれを納得せず、病室を立ち去ろうとする沖野を引き止める。


「待て、ポケットの中身を全て、見せてもらいたい!」


 病室の空気が変わる。


「おい! 南!」


 斉藤が声をあげる。そんな最中、沖野 恵はポケットを裏返し、更に上着を置き、上下の服に付いたポケットまでも、叩き、アピールをする。


「気は済みましたか?」と沖野 恵が口にする。


 誰の眼にも何も無いのは明らかであり、言葉を失う南。


 沖野 恵は、そのまま、病室を後にする。斉藤は造花の花束を手に握ったまま、後を追う。


 病室に残された南は、やるせない表情を浮かべていた。

 

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