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最終通知書

 警察は不審者として、志乃 彩音の自宅に現れたネットに踊らされた者達を注意し、必要に応じてパトカーに乗せ、警察署に連れていかれる。


 その映像がネットに拡散されると世間からは冷たい声が漏れだしていた。


“やり過ぎだ”

“仲間の為に一般市民を逮捕する警察”

“愚かな若者と同僚の為に働く警察”


 まるで、(あお)るように増えていく冷たい言葉。


 リアルタイムでネットを確認していた志乃はその言葉に怒りを覚え、強くパソコンデスクを叩く。

 自身の指の血管が内出血を起こす程の力だった。


 志乃は一晩で全てをネットに晒される事になり、実家や卒業した学校、元職場である病院の名に至るまで細かく書かれていく。


 志乃はプライベートを全て晒される結果となり、怒りと恐怖に身を震わせた。


「なんで……なんでこんな事に……私が何をしたって言うのよッ!」


 自宅に監禁状態となり、ネットやスマホを開けば自身の情報が晒される現状……耐え難い苦痛が苛立ちに繋がり、狂いそうになる精神は女医として働いてきたプライドにより、繋ぎ止められていると言える状態に他ならない。


 そんな時、玄関の呼び鈴がならされる。


 警護の警官が待機している状況でチャイムまで辿り着ける存在は僅かであり、深呼吸をすると志乃はインターホンから尋ね人を確認する。


 カメラ越しに確認された人物は沖野 恵であり、幾つかの書類が入った封筒を手にドアが開かれるのを待っていた。


『沖野さん……なんの御用かしら……』


 力なくインターホンに声を出す志乃。


『あ、志乃先生、実は緊急のカウンセリングです、此処だけの話ですが、カウンセリングを受けていただかないと全てが終わりになっちゃうんです。話だけでも聞いて貰えませんか?』


『そんな気分じゃないの……それに、私はカウンセリングなんて要らないし! 受ける気もないわ……いいから帰って……』

『ですが!』


『帰りなさいよ! 私は自分の事でいっぱいいっぱいなのよ! カウンセリングなんか、必要ないわ!』


 インターホンが切られる。


 再度、押されるインターホン。


『いいから、帰りなさいよ!』


 インターホンの電源が切られ、室内から“ガシャン”と言う機械が叩きつけられるような鈍い音がなり、インターホンの呼び出し音が鳴らなくなる。


 諦めたように下を向き、志乃宅を後にする沖野 恵、警護の警官に挨拶をすると自身の車に乗り、その場を後にする。


 心配そうに過ぎ去る車を見送る警官達。


 しかし、走る車の中で不敵な笑みを浮かべる沖野 恵、その手にハンドルと一緒に一枚の書類が握られている。


 【心理カウンセリング最終通知書類】


 説明文には【志乃 彩音】の名が書かれている。


 事件によるストレスの度合いを計り、職務に復帰できるかを調べる為のカウンセリング実行報告書であった。


「本当にお馬鹿よ、志乃 彩音先生……わざわざ、訪ねてあげたのに、人は自分の情報が晒されると全てが敵に見える生き物だから、仕方ないか……ふふ」


 マンションに戻った沖野 恵は満面の笑みで自分の部屋に戻っていく。自室に戻ると無数のモニターに熱い視線を向け見つめる。


 モニターには斉藤 学の姿が映し出されており、斉藤の所持している二つの部屋が全て映し出されている。


「アア……私がカードキーを持ち出したから、外に出れない先生……まるで籠の鳥みたい、可愛くて、愛おしい……私は先生の為に全てを捧げたい……」


 室内で考え込む斉藤の姿に興奮しながら、志乃 彩音のカウンセリング結果を書いていく。


 “志乃 彩音は精神状態が不安定であり、職務に対して、冷静な判断は不可能と感じる。怒りを隠しきれず、私情を職務に持ち込む可能性あり”


 カウンセリング結果──情緒不安定、(うつ)傾向あり。

 

 書類の作成が終了すると沖野 恵はエレベーターに乗り、斉藤の元に向かっていく。

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