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勇敢なる青年

 斎藤と沖野 恵が車内で待つこと数分、コンビニの裏口から三十代の女性が姿を現す。


 夜勤明けであろう、疲労感を漂わせる女性、ゆっくりと歩きながら、次第に車の方へと近づいていく。


 タイミングを見計らい、沖野 恵が車外へ出ると女性に向けて歩き出す。


 女性が沖野 恵と擦れ違い両者が背を向けた瞬間、斎藤も車外に降りる。


「あのすみません。この住所の場所に行きたいんですが?」と女性に向けて声を掛ける。


 女性が斎藤に反応した瞬間、沖野 恵が女性の口を塞ぎ、斎藤が即座に吸引麻酔の缶を取り出す。


 数分の出来事であり、女性の抵抗は虚しくも無意味な物となる。


 車内に女性を乗せ、同時に後部座席に沖野 恵が乗り込む。


 用意されたキャリーバッグに折り畳まれてしまわれる女性。


「さて、帰るとしよう……」


 斎藤がそう口にした時だった。


「待てッ!」と、車に向けて声をあげる一人の青年。


 車を急発進させようとした瞬間、沖野 恵は呟く「まだです先生」


 青年が駆け寄りながらスマホを取り出した瞬間、沖野 恵は「ひき逃げは駄目ですよ……今です!」と斎藤に声を掛ける。


 車が急発進すると青年に向けて突っ込んでいく。


 慌てて車を避けた拍子に尻餅をつく青年。


 その瞬間、車が止まる。


 沖野 恵が車外に駆け出すとスタンガンを青年の喉仏に突きあてる。


 青年の意識が無くなると、斎藤と沖野 恵により車内に運ばれる。


 騒ぎになる前にコンビニを後にする二人、走り出した車内で斎藤は軽く質問を口に出す。


「スタンガンなんて持ってたんだな」


「はい、護身用です」と答える沖野 恵、しかし、斎藤はその答えに違和感を感じていた。


 通常のスタンガンは安全装置があり、一撃で人間が気絶するなど、映画の世界だけの出来事でしかないからだ。


「その男をどうする気だ?」


「私達の顔を見られました、先生は優しいから……解放したいと思うかも知れません、ですので……あとで然るべき場所に私が」


「本気か? 何かあったらどうするんだ?」


「私を心配してくれてるんですか、それとも、捕まった際に私が先生のことを喋るかも知れないと疑っているんですか?」


 まるで、言葉で遊ぶように斎藤に尋ねる沖野 恵。


「馬鹿を言うな、沖野さんが裏切るなんて考えてない。ただ、心配なんだ……」


「大丈夫ですよ、先生……私は先生の一部ですから……私は先生の理想を現実にしたいんです」


 二人と誘拐された二名を乗せた車はマンションの駐車場に辿り着く。


 そして、沖野 恵は自身の車に男を乗せる……助手席に男を拘束した状態で走り出す車。


 車内では斎藤の事を楽しげに考える姿があり、ラジオが流れる。


 それと同時に電圧を最大にされたスタンガンが青年の心臓部分に押し当てられる。


“ウヴゥゥ!”と声にならない男性の断末魔がラジオの音楽に掻き消されていく。


「最後に名前を教えてもらうわね……」


 信号で停車すると青年の財布から免許証を取り出す。


「ふ~ん、大野君って言うのね、あら? IDカード……君、警視庁に出入りしてたんだ? 未来有能だったのね、生まれ変わったら……次は厄介ごとに関わらないようにね、大野君」


 信号が青になる。


 大野を乗せた車はそのまま、朝の街に消えていく。


 正午過ぎになり、マンションに戻った沖野 恵の車には大野の姿は無い。


 綺麗に清掃された車内は全てを洗い流したかのように大野が乗っていた痕跡すら消し去っていた。


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