女医・志乃 彩音、助手・大野 健
異常な夜が終わり、目を覚ます斎藤。
室内には噎せるような血肉の臭いが充満している。
頭痛と吐き気、目眩が激しく斎藤を襲う。
そんな、いかれた現実を目の前に苦悩する。
そんな斎藤のボヤけた眼に沖野 恵の姿が入ってくる。
小さな袋に詰められる無数に切り裂かれた女性の体。
「先生、今から出掛けますよ。早く着替えてくださいね」
あまりに呆気なく、女性を詰める沖野 恵に斎藤は混乱しながらも、その言葉に逆らう事が出来ない。
車で数時間、途中でコンビニと百均に立ち寄る。
二人が車で向かった先は、山奥にある古い廃校であり、当たり前のように敷地内に入っていく。
「此処はいったい……」
「この学校はかなり前に廃校になっていて、管理している人に使用許可を頂いて、鍵を開けて貰ったんです、まあ、少しお金が掛かりますが」
映画の撮影、インターネット配信などの復旧が一般人への貸し出しを簡単に行える時代に常識を変化させた。
二人きりの廃校、学校の裏手に鎖が掛けられた焼却炉がある。
「この焼却炉の鍵はないですね? まあ、鎖も南京錠も用意してきたので問題ないですが」
沖野 恵が用意した特大のワイヤーカッターで鎖が切られ、長く使われていなかった焼却炉の扉が開かれる。
「調べるの大変だったんですよ。焼却炉の煙突が塞がってると、使用できないですからね」
自然な振る舞いで焼却炉に女性だった物を詰め込むと新聞を大量に入れ、ゆっくりとマッチの火を見つめ、中に放り込む。
炎が次第に新聞を燃やしていくのを確認すると扉が閉められる。
「斎藤先生、綺麗ですね。全部燃えますよ。あ、骨は回収して確り砕いて花壇に撒いていきましょうか? でも、ばれちゃうかな? やっぱり砕いて、中庭の池に撒きますか……その方が自然ですもんね」
斎藤は恐怖を感じた、当たり前のように骨の処分を話す沖野 恵の表情は満面の笑みで満たされていた。
すべてが終わり、焼却炉に新たな南京錠と鎖がつけられる。
沖野 恵と斎藤が車に乗り込み、マンションに戻ろうとしていた同時刻……
警視庁、地下死体調査室……監察医 志乃 彩音は斎藤が公園に放置した女性を調べていた。
「志乃さん、凄いですね? こんなに綺麗に人体から血液を抜いてるのに吸引の跡すらないなんて」
志乃の助手である 大野 健が声をあげる。
「不謹慎よ、でも……確かに、人体から血液を抜くって時間が掛かるわ、それと口内における、舌に対する凶暴性ね……噛みちぎったように細工してるけど、明らかに故意にちぎられてるわ……」
「犯人は複数犯ですかね?」
「それを調べるのは、上の仕事よ。私達は被害者が残した犯人の痕跡を捜すのよ」
この時点では、この女性の事件が連続誘拐事件と繋がりがあると警視庁の誰もが気づく事はなかった。
しかし、志乃 彩音は偶然にも連続誘拐事件の被害者の話を刑事から聞かされる事になる。
23時42分……喫煙室内で煙草に火をつける志乃。
「ふぅ、何なんだろう……あの仏さんに感じる違和感、綺麗すぎるのよね」
喫煙室の扉が開かれ、室内に足を踏み入れる一人の男性。
「女医の志乃さんがこんな時間まで、珍しいことで、しかし、今回は本当に参った事ばかりだからな」
「アンタもか、俺は誘拐に殺人と部署に関係なく、引っ張りだこだ……たく、休みも返上だ。志乃さん、見てくれよ……性的暴行も人的暴行もない……体は綺麗なままだ」
被害者の全身を写した写真が志乃に渡される。
半袖の腕から微かに見える傷痕に志乃が気づく。
「このあと、医師はなんて」
「ん? 嗚呼、それがな、点滴の跡だと言われたが、事件との裏づけがなくてな」
志乃の中で幾つかの可能性が繋がる。
「この事件、もしかしたら、繋がっているかも知れないわね」
真夜中になろうとしていた喫煙室に志乃の声が響いた。
時刻は0時になろうとしていた。