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第96話『最悪の事態』


 ヴァサゴに大して攻撃を仕掛けようとしたその時、遥の付けるインカムに薫那からの連絡が入った。

 

 『遥、こっちはノエルさんと琴音さん、それに千寿の両親と合流できたわ……ただ……』

 

 インカム先で言いずらそうにする薫那。

 

 『ほかの避難した人達は全員殺したわ……』

 「殺した……? 殺したって薫那が殺したのか!? なんでそんなことを!?」

 『避難者は全員感染してアンデッド化……私たちが避難所に着いた時にはアンデッドの巣になってたわ』

 

 遥はゆっくりとヴァサゴ見る。

 

 「ん? その様子だと別のサプライズにも気がついたようだな。残念だったなお前らは誰一人として守れない」

 

 嬉しそうにニヤニヤと笑うヴァサゴ。遥はヴァサゴに今すぐ殴り掛かりたい衝動を拳を握りしめて堪える。

 

 「わかった。こっちはヴァサゴと戦闘中で紫菀とマシロが重症で戦闘不能だ」

 『そんな!? 早くそこから離脱しなさい! 万全な状態でもないのに挑むなんて無謀よ!』

 「万全な状態になんていつまで経ってもなりゃしないよ。それに逃げ出せるならとっくに逃げ出してるよ」

 『……分かったわ。私たちもそっちに向かうからそれまで死なないでよ』

 「あぁ、死ぬつもりなんてないよ」

 

 遥はインカムを外し投げ捨てた。

 

 「俺は、まだ……戦える……」

 「しろも……戦う……」

 

 無理やり立ち上がろうとする紫菀と武器の姿から戻ったマシロだったが体に力が入らず立つことすらできていない。

 

 「立つことだって出来てないのにどうやって戦うっていうんだ? そこで大人しくしてろ」

 

 遥は振り返りもせずに進んで行く。

 

 「隊長、ボロボロのところ悪いんですけど千寿のこと守ってもらってもいいですか?」

 

 倒れているビリーに申し訳なさそうにお願いする。

 

 「……あぁ、命に代えても守ってみせよう」

 

 ビリーはフラフラと立ち上がり千寿の元へと近づいて行った。心配そうに見つめる千寿に遥は笑顔を向けて再びヴァサゴに近づいていく。

 ある程度までヴァサゴと遥の距離が近づいた時、周囲は無音に包まれる。

 そして次の瞬間、凄まじい爆発音とともにヴァサゴと遥の剣がぶつかり合う。無数に鳴り響く金属音。

 炎と閃光が飛び交う。

 炎や閃光が触れた瓦礫は溶け始め、ヴァサゴと遥の周囲は異常なまでに高温になっていた。あまりの熱に紫菀とマシロは息をするだけでも喉がヒリついた。

 ヴァサゴから距離を取ろうとした遥にヴァサゴは逃がすまいと距離を詰めようとする。それを待っていたとばかりに遥は手に持っている剣をヴァサゴに投げつけた。

 投擲された剣を弾くと遥は目の前から消えていた。

 

 「後ろか?!」

 

 ヴァサゴが背後に剣を振るが斬ったのは遥ではなく炎の塊だった。

 

 「俺の全魔力をお前にぶつける!」

 

 今まで何度か見た圧縮された炎の球体。しかし、感じる熱が、魔力が、大きさが今までとは桁違いに巨大だった。まさにそれは太陽のようで押し寄せる炎はヴァサゴを飲み込み大爆発を起こす。

 紫菀は残った僅かな魔力で瓦礫をかき集め爆風と熱を防ぎ、ビリーは千寿と協力しアクイラと捕食者(プレデター)でなんとか防いだ。しかし、それでも異常な程の熱を感じた。

 

 そして、遥による大爆発から遡ること一時間ほど前。

 

 「マスター、あまり良くない知らせがありますが聞きますか?」

 「なんだよシルヴィア。良くない知らせって」

 「やっぱりシルヴィアも気づいたんだね」

 

 普段は表情に大きな変化が出ないシルヴィアだが今回はギリギリではあるが分かる程度の焦りが顔に出ていた。それに加え、ヒツギもかなり焦っているようだった。

 

 「本部の方からとてつもなく巨大な魔力を感知しました。ヴァサゴです」

 「なっ……!」

 

 健司は焦って立ち上がりすぐに荷物をまとめバイクにエンジンをかける。

 

 「早く乗れ!」

 「待ってください。マスターのバイクではここからでも最低一週間はかかります」

 「だからって仲間が戦ってるのに行かねぇわけには行かないだろ!」

 「健司! とりあえず落ち着いて!」

 

 ヒツギはバルドルを握る健司の手を抑えるようにして割り込む。

 その横でシルヴィアはすっと立ち上がり魔導書エイボンを開ける。すると地面に白い魔法陣が展開する。

 

 「ヒツギさんと私で本部までの転送魔術を使います。しかし、三人もこんな遠距離を転送、それに救出してから逃げるための転送魔術も準備する必要があるので一時間ほど待ってください」

 「一時間……」

 「ボクたちに任せて、なるべく早く終わらせるから」

 

 そう言うとヒツギも魔法陣の中へと入りシルヴィアと共に魔法陣を完成させようとする。

 一時間、それほど長い時間ではないが焦っている健司にとっては異常な程に長く感じた。健司はその間ずっと落ち着きなくウロウロと動き続けていた。

 

 「準備が出来ました」

 「行けるのか!?」

 「健司も早く魔法陣の中に入って!」

 

 健司はバイクにエンジンをかけ魔法陣の中へと入り、一瞬で本部へと転送された。

 

 「これはヴァサゴとの戦闘ではなく救出を目的としますから」

 

 魔法陣が消失し、転送が完了した瞬間に感じた異常なまでの熱に驚き、次に変わり果ては市民街に言葉を失った。

 

 「おいおい、こりゃいくらなんでも……」

 

 健司があたりも見渡すと不自然に盛り上がった瓦礫の山が二カ所あった。

 

 「健司! ビリーと千寿ちゃん!」

 「紫菀! マシロ! ヒツギは千寿と隊長を頼む。何かあったら手当してくれ!」

 

 健司は急いで二人のもとへと駆け寄る。瓦礫に守られるように倒れ込む紫菀とマシロ。

 紫菀の服の一部は焼け焦げていて、朦朧とする意識の中で健司を見た。

 

 「健司……か……?」

 「もう大丈夫だ! 助けに来たぞ! 」

 「遥が……遥、が……」

 

 紫菀は健司に何かを必死に伝えようとしがみつくがすぐに気を失ってしまった。

 

 「千寿ちゃんもビリーもは軽い火傷を負ってるけどとんど無傷だよ。今は回復魔術をかけて千寿ちゃんは眠ってるよ」

 「紫菀とマシロのことも頼んだ」

 

 健司が顔を上げるとさっきまでなぜ気づかなかったのかわからないほど巨大なクレーターが目の前にあった。

 そしてそのいちばん深い中心部に遥が立っていた。周囲の地面が溶けていることから遥の魔法によるものとは健司もすぐに分かったがヴァサゴの姿がどこにもなかった。

 

 「おい……ヴァサゴはどこにいるんだよ」

 

 健司の全身から嫌な汗がどっと吹き出るような感覚に陥った。遥から感じる異様な魔力。健司はこの魔力を知っている。

 

 「マスター……」

 「違う、なんはずがあるか!」

 

 健司は叫んだ。

 

 「健司! それにヒツギも!」

 

 突然後ろから声が聞こえ振り返るとそこには薫那達が駆け寄ってきた。健司の知らない人が何人かいるようだったが今はそれどころじゃなかった。

 

 「マスター、この施設の生存者は全員この場に集まりました。早くこの場から撤退を!」

 

 シルヴィアがそう言った瞬間、遥は魔法を健司立ちに向かって放ってきた。咄嗟にシルヴィアが何十本もの刃の壁を作りだしなんとかギリギリで防いたが防いだ刃はドロドロに熔け落ちた。

 

 「待て! ボスの姿だってまだ見てないぞ!」

 「言ったはずです。生存者は全員集まったと」

 

 突きつけられる事実に言葉を失う健司。

 

 「なんで遥が攻撃してくるの!? まさかヴァサゴに操られてるの!?」

 

 薫那が半分パニックになりながら聞いてくるがシルヴィアが冷静かつ冷酷に首を振り真実を告げる。

 

 「彼自身がヴァサゴです」

 

 そう告げるとシルヴィアは転送魔術を発動し遥以外全員を本部からかなり離れた場所へと転送させた。

 

 「ようやく……ようやく手に入れたぞ!」

 

 静かになった本部でたった1人で歓喜の声を上げるヴァサゴ。

 

 「乗っ取ったばかりだというのにこの馴染み具合。それにディランの体ごと魔力に変換したからな」

 

 ヴァサゴは光の玉と火の玉を作りだしボールのようにあそび始めた。

 

 『ヴァサゴ様、施設内の人間の始末が完了しました』

 

 通信を繋いできたのはグロウスだった。

 

 『おや、その姿は……どうやらご自身のからだを取り戻したようですね』

 「あぁ、それに副産物としてディランと遥の魔法も手に入れた。もうほかの体を乗っ取ることは出来ないが問題ないだろう」

 『では、そろそろ……?』

 「あぁ、次の準備に取り掛かるぞ」

 

 楽しそうにニヤリと笑う。

第96話を読んで頂きありがとうございます。

第97話は6月13日投稿予定なのでよろしくお願いします。

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