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第94話『晴れない絶望』


 「なんだ? 随分と小さな味方が増えたみたいだが俺を楽しませてくれるんだろうな」

 

 ビリビリと空気が揺れる。

 

 「それでどうやって戦いますか? 千寿が加わってくれたおかげで戦力は格段に上がりましたがそれでもヴァサゴには……」

 「とりあえず、ヴァサゴの瞬間自己回復能力をどうにかしないと全戦力が揃っていても勝てやしない」

 

 ビリーとボスが話しているのをヴァサゴは何もせずただ待っていた。

 

 「どうにかってどうするの?」

 「この魔宝を石やつの体内に埋め込む。そうすればヴァサゴは魔法や魔術が全て使えなくなる」

 

 ボスが手に持っているのはゴルフボール程の大きさの魔宝石だった。その魔宝石にはヒツギによって魔力を封じこめる呪いにも近い魔術が仕込まれていた。

 作戦自体は至ってシンプル、ヴァサゴと戦いながら隙を見て魔宝石を使用する。シンプルかつ高難易度の作戦、それを聞いた千寿は大きく深呼吸をして一歩前へ出る。

 

 「わかった。千寿が戦うから」

 

 そう言って千寿は飛び出す。

 あまりにも唐突すぎるその動きにボスもビリーも止めることが出来ず千寿を追いかけるような形で前へ出る。

 

 ヴァサゴに向けて多方向から振るわれる五本の刃、ヴァサゴは千寿が持つ刃のみ掴み、それ以外は避けようともせず体で受け止めた。

 

 「魔神器ねぇ……」

 

 ヴァサゴは自分の体に突き刺さる刃と自分が掴んでいる刃を眺めて楽しそうな笑みを浮かべる。

 

 「楽しませてくれそうだなぁ?」

 

 ゾクッと千寿の背中を寒気がなぞる。

 すぐにヴァサゴから距離をとる。冷たい汗が流れ、呼吸が乱れ、恐怖に心を持っていかれそうになる。

 

 『Are you ok(大丈夫ですか)?』

 「うん、大丈夫だよ」

 

 千寿が気持ちを持ち直し、再びヴァサゴに立ち向かおうとした瞬間、既にヴァサゴは目の前にいて、禍々しい巨大な剣を振り下ろしていた。

 回避は確実に間に合わない、ガジェットのガードもギリギリ間に合わない。千寿は手に持つ刃のみで受け止めようとする。

 

 周囲に轟く金属音。

 ヴァサゴの一撃をビリーとボスが受け止めた。しかし、二人は蹴りで吹き飛ばされ、再びヴァサゴは千寿に向けて巨大な剣を振るう。

 

 『defend!(ディフェンド)

 

 しかし、体制を立て直せた千寿はガジェットで受け流し、五本の刃で押さえ込んだ。

 決定的なチャンス、ボスは隙の出来たヴァサゴに魔宝石を、使おうとしたがヴァサゴは剣を手放し、千寿の胸ぐらをつかんでボスに投げつけた。

 

 ボスは千寿を受け止めて、千寿を抱き抱えるように地面をころがった。

 

 「大丈夫か?」

 「は、はい……ありがとうございます」

 『Thank(ありがとう) you(ございます)

 

 ほんの少しではあるがヴァサゴと戦い、千寿はほんの僅かではあるが希望を見出していた。魔宝石によってヴァサゴが魔力を使えなくなれば確実に勝機はある。

 

 「魔神器が優秀で戦いのノウハウを無理やり覚えさせられて強くなったとはいえ、まだまだ経験が足りないな」

 「だったら経験が豊富だったら殺せるか?」

 

 血を吸って赤くなった包帯、捕食者(プレデター)が巻かれた剣を握ったビリーがヴァサゴの背後に回り込み、高速の突きを放つ

 

 「まさか、そんな訳ないだろ?」

 

 ビリーの言葉を馬鹿にするように笑いながらビリーの放った突きを弾く。しかし、剣と剣が触れ合う直前にビリーの持っている剣の捕食者(プレデター)が解け刀身がなくなった。

 空振りをした状態になったヴァサゴに捕食者(プレデター)は蛇のように襲いかかり、体に巻きついて動きを封じる。

 

 「こんなもので押えこめるとでも?」

 「数秒動きを止めれれば十分だ」

 

 ヴァサゴの正面から既にビリーの姿はなく、背後にボスが立っていた。

 

 「砲撃槍(ゲイ・ボルグ)

 

 魔法陣から放たれる千を超える砲撃がヴァサゴを襲う。

 そして砲撃が終わる頃、ヴァサゴの体は見るに堪えないほどボロボロになっていた。しかし、ちぎれかけの手足や穴の開いた体がぶくぶくと沸騰するように泡を立てながら傷が修復されていく。

 

 「ディラン、お前……」

 

 徐々に体が元に戻り始めたヴァサゴが残念そうにため息をつきながらボスを見る

 

 「随分と弱くなったな」

 「くっ……」

 

 図星をつかれたことがボスの表情に出る。

 数百年という月日を眠り、備えていたボスだったが数百年という眠りはあまりにも負担が大きく、体は蝕まれていたのだった。

 

 「その髪の色もエイボンと共に眠った副作用の一つだろう?」

 

 馬鹿にしたように言うヴァサゴの背後から千寿は高速かつ無音で近づき居合斬りのように剣を振るう。

 

 「おいおい、人が話しているのを邪魔するなって教えてもらわなかったのか?」

 

 しかし、ヴァサゴはそれをいとも容易く防ぎ、千寿の腹部めがけて強烈な蹴りを放った。それをアクイラが直撃ギリギリのところで千寿を守る。

 それでも勢いは殺せずとてつもない勢いで吹き飛ばされた千寿は瓦礫の山にぶつかった。蹴りを受け止めたアクイラのガジェット部分はヒビが入り、バチバチと火花を散らす。

 

 ビリーはヴァサゴが蹴りの体制から元に戻る前に背後から接近し、捕食者(プレデター)を巻いた拳を放つがヴァサゴはそれを容易く受け止めてしまう。

 

 「最初は少し期待したんだがガッカリだ」

 「ヴぐ!」

 

 ビリーの腹部にヴァサゴの拳が深々と突き刺さり、ビリーは膝をつく。そして続くヴァサゴの攻撃、膝をついたビリーの顔面を殴りつけ、地面に血が飛び散る。

 二発、三発、四発、五発目を打つ前にビリーの体はぐったりと力が抜けていた。ここでようやくヴァサゴはつかんだビリーの拳を離し、足元に転がるビリーにトドメをさそうとする。

 ビリーの顔を踏み潰すために足を上げたとき、接近していたボスがヴァサゴにゼロ距離で何十発も砲撃槍(ゲイ・ボルグ)を撃ち込んだ。

 上がる煙幕と砲撃の光で周囲はほとんど何も見えなくなっていた。その煙幕の中から伸びる手にボスは首を掴まれた。

 煙幕が晴れると所々肉のえぐれたヴァサゴがつまらなさそうにため息をついた。

 

 「ボス!」

 「お前は少しじっとしていろ」

 

 起き上がろうとするビリーに拘束魔術で両手を縛り抑え込むように踏みつけた。

 首を掴まれたままボスはさらに砲撃槍(ゲイ・ボルグ)をヴァサゴに撃ち込む。しかし、砲撃の威力はだんだん小さくなっていき、最終的にはふわっと光る程度になった。

 

 「今まで戦いに出なかったのはこうして俺と戦うために力を温存する為だったんだろうが……無駄だったな」

 「ぐ……」

 

 ボスはホルスターから拳銃を抜き、ヴァサゴの胸に押し当て全ての弾を撃ち込んだ。ヴァサゴの心臓は大きくえぐれたがそれもすぐに修復が始まった。

 

 「それで満足か?」

 「やめろ!」

 

 ヴァサゴの足の下でもがくビリーだったがそんなことは無視してヴァサゴはボスの腹部を貫いた。その時、ボスの手が撃った胸のところに触れていた。傷口には魔宝石が入れられ、溶けるようにヴァサゴの体内へと取り込まれた。

 

 「ディラン! 貴様!」

 

 一瞬ヴァサゴがよろめいた事でビリーの上から足がどき、立ち上がることが出来た。

 ヴァサゴの表情をみてボスは口から大量の血を流しながらニヤリと満足気に笑う。

 怒りに満ちた表情でヴァサゴはボスを地面にたたきつけた。地面には巨大なクレーター、その衝撃でビリーは軽く吹き飛ばされ、手は拘束されているため受身も取れず地面を転がる。

 

 「本当にやってくれるよ……」

 

 ヴァサゴの手には肉片が、ボスの喉仏が握りしめられていた。

 

 「グゥッ……ガハッ……」

 

 フラフラとよろめきながら三歩ほど後ろへ行き、苦しみながら膝をつくヴァサゴ。ヴァサゴが苦しみながら膝をつくとビリーの手の拘束が解け、ビリーは急いでボスの元へと駆け寄った。

 

 「ボス! ボス!」

 

 必死に呼びかけるが既にボスに意識はなく、なんの返事もなかった。

 ビリーはボスの死体をゆっくりと置き、立ち上がる。ボスが命をかけて作った希望を無駄にしないために武器を構える。

 ヴァサゴがなんとか立ち上がろうとした時、吹き飛ばさた千寿が高速でヴァサゴに接近し、蹴り飛ばした。

 千寿はボスの見て言葉を失った。ビリーは千寿固まる千寿の肩に手を置き千寿が蹴り飛ばしたヴァサゴの方を見る。

 

 「ボスが作ってくれた希望だ」

 「……はい」

 

 まだふらつくヴァサゴとの間合いを一気に詰める二人。攻撃の主体は火力の高い千寿になり、サポートに回るビリー。

 千寿は攻撃に集中し、ヴァサゴの反撃を全てビリーが防ぐ、魔力の使用ができなくなったヴァサゴの攻撃は明らかに威力が下がった。

 ついにヴァサゴは二人の猛攻に反撃すらできずふらつく体で必死に防御するしかなかった。

 二人の蹴りがヴァサゴの腹部に直撃し、吹き飛ばされたヴァサゴは瓦礫の山に倒れ込む。

 

 「アクイラ!」

 『Yes.Change(チェンジ) cannon(キャノン) mode(モード)

 

 合わさったガジェットの周りを五本の刃が高速で回転を始め、周囲から魔力を集めるように光がアクイラに集まっていく。

 

 「こいつも使ってくれ」

 

 回転する刃のなかにビリーは刃状に変化した捕食者(プレデター)を加えた。

 

 『Type(タイプ) change(チェンジ).Destroy(デストロイ) mode(モード)

 

 アクイラの放つ黄金の光に突如赤色が混じり、禍々しさと神々しさの入り交じる光を放った。

 ビリーは立ち上がろうとするヴァサゴを押さえ付け、馬乗りのような状態で殴り付けた。

 

 「魔力全開!」

 『Count three…… two…… one……』

 

 超高速で回転する刃。アクイラが吸収した魔力だけでなく千寿自身の魔力も使い、込められた魔力は異常なまでに膨れ上がっていた。

 

 『Zero』

 「セイクリッド·ブレイカー!」

 

 放たれる黄金と紅の砲撃。ビリーはヴァサゴから離れ、砲撃の余波に少し巻き込まれながらも距離を取った。

 

 周囲に響く轟音、放たれた砲撃は地面をえぐり、その衝撃は大地そのものを揺らすほどだった。

 砲撃の勢いは徐々に弱まり、止まった。ディバイン·ブレイカーを撃った方向はまるで隕石でも降り注いだのかと思ってしまうほどの惨劇だった。

 

 ヴァサゴの死体は跡形もなく消滅した。人間はついにヴァサゴを打ち破り、平和を手にいてた。これで戦いは終わった。

 千寿とビリーは安心感や達成感からかどっと疲れが溢れでてその場に座り込んだ。

 

 「こうして人類は最大の敵ヴァサゴを倒し、壊れた世界を生き残った人類と共に元に戻し、平和に暮らしましたとさ。めでたしめでたし」

 

 千寿とビリーの後ろから拍手と共に声が聞こえた。聞き慣れた声だった。しかし、何かが違う、言い様のない圧倒的な違和感。

 ゆっくりと振り返る二人。

 

 声の主はボスだった。

 

 「なんて、都合良く終わるわけが無いのはわかってただろう?」

 

 ボスとは思えないほど歪んだ笑み。

 ちぎられた首も貫かれた腹部も何も無かったのように綺麗に治っていた。

 

 「ど、どういう事だ……」

 

 ビリーはようやく声を発することが出来た。

 

 「ん? 存在そのものを魔力に変え、ディランの体に移したんだよ」

 

 ビリーと千寿はヴァサゴの言っていることが理解できなかった。

 

 「何をそんなに不思議がる? あぁ、そうか。俺のもう一つの魔法をまともに見せるのはこれが初めてか」

 

 唖然とする二人をよそにヴァサゴは楽しそうに話を続ける。

 

 「俺の魔法は瞬間自己再生能力じゃない。自信を魔力に変え相手を乗っ取るのが俺の本当の魔法だ」

 

 正直、千寿とビリーにヴァサゴの話はほとんど頭に入ってなかった。どうやってこの状況を打破するかということだけを考えていた。

 

 「そして乗り移った副産物としてもう一つ魔法が手に入る。それがさっきの体だと瞬間自己再生能力だったって訳だ。それにこの魔法はいろいろと制約が強かったんだが念には念を入れておいて良かった」

 

 話し終えたヴァサゴは一息ついてからもう一度笑顔を作り、千寿とビリーに近づく。

 

 「さて、冥土の土産にはなったか?」

第94話『晴れない絶望』を読んで頂きありがとうございます。

第95話は5月16日に投稿予定なのでよろしくお願いします。

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