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第93話『見えない希望』


 「かなり不味い状況ですよ」

 

 琴音が荒れる呼吸を整えながらノエルの方をちらっと見る。いつも飄々としているノエルもさすがに余裕がなさそうだった。

 

 「私たちの攻撃は一切通用しませんし、後ろには瓦礫の下敷きになった市民もいます。早くしないと間に合いません」

 「とは言ってもねぇ……」

 

 琴音の言いたいことはわかるのだが琴音かノエルのどちらかが助けに行けば確実に殺される。

 二人でゾアの攻撃の的を絞らせず逃げることに全神経を集中させることでギリギリ硬直状態にしている。

 

 「この状態を少しでも崩したらここにいる全員だけじゃなく、奥に逃げ込んだ人たちもみんな殺さるだろうね」

 

 唯一ダメージを与えられた手榴弾も残り一つ。ひとつは片腕の外装を多少砕き、もうひとつは顔の側面の少し外装を砕いた。

 どちらも倒せるほどの致命傷にはならず割れた外装の隙間から紫色の血液がほんの少量だけ流れているだけだった。

 

 「顔の真横でこの手榴弾をくらっても大したダメージにならないなんて予想外なんだ……」

 「早くなんとかしないと私の体力がなくなってほんとに殺されちゃいますよ!」

 

 そう琴音が叫んだ時にはゾアは既に動き出している。

 ギリギリで避ける巨大な拳、横を拳が通過する時に感じる風は体がよろめくほどだった。

 体力に関してはもう既に限界まじかまで来ていた。かするだけでも死にかねない攻撃を避け続けるというのは体力以外に精神的にも疲れがたまる。

 

 「しまった……!」

 

 琴音がゾアの砕いた地面に足を挟んだ。そのまま体勢が崩れ尻もちをつく。

 ゾアは琴音に向けて振り上げた巨大な拳を振り下ろす。琴音は死を覚悟し、ぎゅっと硬く目を閉じる。

 

 「させない!」

 

 ノエルはミンディの持っていた薬と同じものを飲み込み、身体能力を爆発的に引き上げゾアの膝間接を後ろから思いっきり蹴り飛ばした。

 後ろから蹴り飛ばされゾアは地面に膝をつき、ギリギリで拳が逸れ琴音の近くに巨大な凹みが出来た。

 

 ノエルはそのままゾアの正面に回りこみ、最後の手榴弾をゾアの口の中へと突っ込みピンを抜いた。

 ゾアはノエルが逃げられないよう巨大な手でノエルを掴んだ。

 

 「うぐっ」

 

 握られたことで左腕とあばら骨が三本が砕ける。

 ゾアがノエルを握り潰そうとする直前に口の中に入った手榴弾が爆発する。

 

 爆発の衝撃でゾアの手から投げ捨てられるように離れるノエル。

 

 「ノエル!」

 

 琴音はノエルに駆け寄り、抱えてゾアから距離をとる。

 

 「どしたのぉ……? そ、んなに、深刻な、顔しちゃってぇ……」

 「無茶しすぎです! 死んだらどうするんですか!? ノエルが死んだら、私……!」

 

 琴音が込み上げる涙をなんとか堪えているとノエルがそっと琴音の頬に触れる。

 

 「大事な、親友を見殺しにはしないよぉ……骨は治るけど琴音ちゃんが、死んだら、ワタシも悲しいから」

 「ノエル……」

 

 ノエルは既に動ける状態ではなかった。

 そんな二人にゆっくりと近づく大きな影。爆発により顎がちぎれてなくなったゾアが二人を見下ろす。

 

 「琴音、ちゃん、逃げて」

 「私は逃げないよ」

 

 琴音は立ち上がりゾアを睨む。

 

 「ノエルは大切な親友だから」

 

 琴音はナイフを手に取る。

 こんなナイフでどうこう出来る相手じゃないことくらいは琴音自身もわかっている。それでも一人で逃げるのだけは嫌だった。

 

 「はあぁぁぁぁあ!」

 

 声を上げ、ナイフを手にゾアへ立ち向かおうとした次の瞬間、ゾアと琴音の間の地面から何かが飛び出した。

 その飛び出した何かはゾアを吹き飛ばし、ゆっくりと降りてきた。

 美しい刃の羽を持つ少女、金と銀の天使が舞い降りた。そう琴音は感じた。

 

 「お姉さんたちは千寿のお父さんとお母さんを助けに行ってくれない? あの怪物は千寿が倒すから」

 

 そう言って少女はゾアに向かって飛んで行った。

 

 「待って!」

 

 琴音が止めた時にはもう遅く、琴音は千寿の言うようにノエルを抱えながら巻き込まれた一般市民の救出に向かった。

 

 近くに行くと女性が下敷きになっている男性の上の瓦礫のを必死に持ち上げようとしていた。

 その瓦礫を持ち上げている手は皮膚がボロボロになって血が流れ、顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。

 

 「今助けます!」

 

 琴音は薬を半分に砕き口に放り込む。

 身体能力を上昇させ瓦礫を持ち上げる。瓦礫は数十センチ持ち上がり、男性を引っ張り出した。

 右足は膝から下がかなり潰されていた。一人では歩くことは無理な状態な上に意識も既に朦朧としていた。

 

 「ち、ちと……せ……は?」

 「あなた……千寿とは、はぐれて」

 

 その様子を見ていたノエルがふらつきながらも立ち上がり夫婦に近づく。

 

 「娘さんは、あの化け物と戦ってます……私たちを守るために」

 

 転がる瓦礫につまずいてコケそうになるノエルを咄嗟に琴音が支える。

 

 「あんまり無理しないでください……」

 「はは……ごめんね、琴音ちゃん」

 

 ノエルの言葉を聞いた夫婦はさっきまでノエルと琴音が戦っていた場所を見る。

 

 「助けに、行かないと……」

 

 男性は立つことも出来ないような足で、ふらつきまともに焦点もあっていないのに立ち上がろうとする。

 

 「行ってはダメです」

 

 琴音が言い切る前に男性はバランスを崩し立ち上がれずに地面に体を叩きつけた。

 

 「子供を助けるのが、大人の仕事だ」

 

 焦点が会い始め、頭も回り始め、ぐっと力を込めて再び立ち上がろうとする。

 

 「ダメです! 行っては私たちは邪魔になりかえって死ぬ危険性が上がります!」

 

 当然、琴音が取り押さえるまでもなく潰れた足ではコケるだけだった。

 

 「どうして……どうして千寿を守ることが出来ないんだ!」

 

 力いっぱい地面を叩きその手から血が滲む。

 その後ろ姿にノエルと琴音は言いようのない悔しさが込み上げてくる。それをぐっと堪えて二人を避難所へと連れていく。

 

 「思ったより、おっきいんだね」

 

 吹き飛ばしたゾアが周囲に残っていたクリーチャーを捕食しているのを見ながら千寿は呟く。

 いざ来てみると恐怖が千寿の全身を撫でる。膝が少し震え、口の中が乾く。

 

 『No problem(マスターなら) if master.(問題ありません)

 「う、うん……でも、やっぱりちょっと怖いね。ちゃんと戦うなんて初めてだし……」

 

 顎の無くなった口、クリーチャーの体をちぎり無理やり喉の奥へと押し込みからだの中に入れる。

 

 『Trust me.(私を信じてください)

 

 女性的で無機質な機械音声。それなのに千寿は力強い意思を感じた。

 クリーチャーを食べ終えるとちぎれた顎や所々ヒビの入った装甲がブクブクと気色の悪い泡を立てながら修復されていった。

 

 「うん、信じるよ!」

 

 ずっと震えがおさまる。

 捕食を終えたゾアが千寿の存在に気づき、足元のコンクリートを砕きながら一瞬で距離を詰めてきた。

 

 回避は間に合わない。千寿は咄嗟に剣を一本手に取り防ごうとする。それに合わせ残り四本の刃も千寿を守るように前に出る。

 五本の刃と巨大な拳がぶつかり合い、衝撃でコンクリートの地面が碎ける。

 そこから更に続くゾアの攻撃。それを地面を滑るように宙へ舞い後ろへ回り込む。

 後頭部と首を守る装甲と背中を守る装甲のほんのわずかな隙間に向けて千寿は握った剣の刃を滑り込ませる。

 浅くはあるが刃が皮膚を切り裂き青っぽい血が飛び散る。ゾアは振り返るように裏拳を当てようとするがアクイラが千寿を後ろへ飛ばし距離をとる。

 

 「あ、ありがと……アクイラ」

 

 あまりに動く自分の体に動揺が隠せなかった。動きのほとんどはアクイラのサポートのおかげだが的確に僅かな隙間を狙い、ゾアの一撃にも耐えきる程の力。洗脳された時に同時に記憶させられた戦闘の記憶が蘇り始めていた。

 

 『It comes!(来ます)

 

 接近するゾア。

 地面スレスレから放たれるアッパーを受け止め、打ち上げられる。そこから続くゾアの追撃により互いに翼と羽を使った空中戦へと発展する。

 

 スピードは千寿の方が上だがパワーが違いすぎた。攻撃を受け止める度に体が大きく動かされ受け止めるので精一杯だった。

 最低でも三本の刃で止めなければ受け止めきれない。残りの二本で攻撃しようとするもゾアの学習能力は早く、当たる直前に隙間からずらされる。

 そしてそんな中、千寿が握る剣がゾアの腹部にある隙間に突き刺さる。

 

 「このまま!」

 

 そこから更に剣を動かそうとしたがピクリとも動かなかった。ここでようやく千寿は攻撃を与えたのではなく自分が捕まったということを理解した。

 ゾアの右手を抑え込むのに刃は三本使い、一本は腹部に突き刺さっている。残る一本では防げない。

 振り下ろされる拳。表情の変わらないゾアの顔に笑みが浮かんだように見えた。

 

 『defend!(ディフェンド)

 

 当たる寸前に千寿の腰に着いた羽型のガジェットがマントのみ残して起動し、ゾアの拳を止めた。

 そしてゾアに刺さった刃がフッと光の粒に変わり、再び刃を形成する。

 刃で抑えていた腕をもう片方の羽型のガジェットで抑え込む。ガジェットからはバインドが発生しゾアの動きが封じ込められる。

 

 全ての刃を使い装甲の隙間に無数の斬撃を与える。しかし、それはゾアを倒すためではなくゾアから魔力を吸収していた。

 魔神器の扱い方がどんどん頭の中から溢れるように蘇る。

 千寿はゾア一度距離をとる。

 

 「アクイラ! 一気に決めよ!」

 『Change(チェンジ) cannon(キャノン) mode(モード)

 

 アクイラの合図でゾアを拘束していたガジェットが千寿の前まで飛んで戻ってきた。そして、二つは裏面を合わせるように合体して五本の刃がそのまわりを風力発電のように高速で回転する。

 

 「魔力全開!」

 『Count three…… two…… one……』

 

 刃がさらに高速回転する。

 

 『Zero』

 「セイクリッド·バスター!」

 

 ゾア目掛けて放たれた黄金に輝く巨大な光線。避けるには範囲が広い上に砲撃速度も早い、良けれないと判断したゾアは両手でそれを受止めた。

 最初は少し受け止めることが出来たがそれも一瞬ですぐに飲み込まれ砲撃がやんだ時にはあとかなもなく消滅していた。

 千寿の放った砲撃はあまりにも協力で街はほぼ跡形もなくなった。

 

 ほぼ全壊した街に千寿はゆっくり通りだった。砲撃にはゾアから吸収した分の魔力が大半だったためあの砲撃を撃ったあとでも千寿はまだまだ動ける状態だった。

 

 「勝ったね、アクイラ」

 『Yes,my master』

 

 一安心していたところ、千寿めがけて飛んでくる二つの大きな影、それをアクイラがガジェットを使って受け止める。

 その影の正体はビリーとボスだった。

 二人に目立った外傷はなく吹き飛ばされただけだとすぐにわかった。

 

 「すまない、助かった。って君は健司と遥の妹の……」

 「千寿です」

 

 ガジェットから降りたビリーは驚いた顔をしていた。それとは反対にボスは自分が飛ばされてきた方向を睨みつけていた。

 

 目線の先にはヴァサゴがポケットに手を突っ込んだまま歩いてきていた。

 

 ただ歩いてこっちに来る。たったそれだけの動作から感じるプレッシャー。千寿はさっきまでの戦闘が今の状況に比べればどれだけ優しいものだったか、自分の兄たちがどれだけヤバい物を相手にしようとしているのかがわかった。

 

 「状況が状況だ。お嬢ちゃん、私のサポートしてくれるだけでいい、危なかったらすぐ逃げてもいい、戦えるか?」

 

 ボスが千寿に聞く。

 普段なら止めていたであろうビリーもさすがに止めることは出来なかった。

 

 「うん、戦えるよ。ね? アクイラ」

 『No(問題) problem.(ありません)

 

 千寿は力強く頷き、絶望的な戦場に足を踏み入れた。

第93話『見えない希望』を読んで頂きありがとうございます。

第94話は5月2日に投稿する予定なのでよろしくお願いします。

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