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第86話『化物殺しの弾丸』


 壁の隙間から漏れる朝日に照らされ健司は目を覚ました。正直、目覚めは良いものとは言えない。暴走してから何度も同じ夢を見るようになった。

 

 赤い液体で満たされた地面をただ歩き続け、いずれ鏡が現れ赤黒く禍々しい刃の腕の健司が映る。

 鏡に映った健司は勝手に動き出しニヤリと笑う。すると、背後におびただしい量の死体が現れる。

 そして、健司は鏡に映った自分に心臓を貫かれ『お前は何一つ守れない』と言われる。

 鏡に映る健司が突き刺した爪を引き抜くと同時に全てが消えて周囲は真っ黒になる。あとは目が覚めるまで刺された傷口から血が溢れるのを眺めるだけ。

 

 そんな胸糞悪い夢を何日も見続けるとなると多少は慣れてくるも休めた気が全くしない。

 

 「はぁ、気分最悪……」

 「おはよ、随分とうなされいたね。前に言っていた夢かい?」

 「いや、最近は違う夢を見るようになったよ。どっちにしろ気分のいいもんじゃないけどな」

 

 寝る時に布団の代わりにしていたコートに袖を通してヒツギが用意していた焼き魚を手に取る。

 

 「いただきます」

 

 魚や鳥や山菜を取って野宿したり廃墟で寝泊まりしたりと野生じみた生活にもだいぶ慣れ始めた。

 

 「今日中には目的地につくかもしれないが」

 「うん、大丈夫。何とかなるよ。ううん、何とかしてみせるから」

 

 ヒツギの表情にあまり迷いはないように見えたが少し残る迷いのような表情に健司は多くは口出ししないと決めていたため何も言わず朝食を済ませバイクを準備した。

 

 「じゃあ、行くか」

 「うん」

 

 ヒツギを後ろに乗せてバイクを走らせる。

 

 そこから日が暮れるまで休憩を挟みながらバイクを走らせようやく目的地に到着した。

 

 「ほんとに日が暮れてから到着するとはなぁ。どうする? 行くか?」

 「ここまで来て引き返せないよ」

 

 ヒツギはバイクから降りる。

 

 「ヒツギ、ちょっと待て」

 

 健司はバイクを降りてヒツギを止める。

 

 「ありゃアンデットか? それともクリーチャーか? どう考えてもやばそうだが」

 

 草むらに隠れる二人の先にアンデットともクリーチャーとも言えない人型の化け物が二体いた。

 一体は狼をベースに多くの動物を混ぜたような見た目、体長二メートルはある。もう一体は蟻をベースに様々な虫を混ぜたような姿をしていて、健司と同じくらいのサイズだった。

 

 どこをどう見ても今まで戦っていた連中とは違いすぎる。

 

 「あれはドラスの研究の一つ、嵌合体(かんごうたい)生物兵器ゾア」

 「ゾア?」

 

 聞きなれない言葉に首を傾げる。

 

 「何種類かの生物の特徴をかけあわせて作り出された人造生命。分かりやすく言えばキメラだね」

 「強いのか?」

 「完成したものを見るのはボクも初めてだからなんとも言えないけど、理論上では悪魔も殺せるとか」

 

 理論上ではあるが悪魔を殺せる兵器を二体も用意しているとなればドラスの言っていたヒツギの死体さえあれば十分という言葉も嘘ではなさそうだった。

 

 「ヒツギの死体さえあれば十分だって言ってたよな。ドラスはお前の体を使って何をするつもりなんだ?」

 「……分からない。ボクが知らない研究をしていたのかもしれない、殺して持って帰るんじゃなくて連れて帰ろうとしたのも何かそっちの方が都合がいいんだろうけど」

 

 悩ましい表情をするヒツギ。

 健司は立ち上がり草むらから出て行き鞘から刀を抜く。

 

 「ヒツギは先に進んでやるべき事をやってこい」

 「待って健司! ゾアは今までのアンデットやクリーチャーとは訳が違う! ここは二人で戦う方が得策だよ!」

 

 静止するように健司の腕を掴むヒツギ。しかし、健司はその手を離させる。

 

 「そんなにのんびりしてる暇なんてないだろ。それにドラスと戦うんだったらほんの少しでも魔力は温存しておくべきだ」

 「で、でも……」

 「それにだ」

 

 周囲に響き渡る金属音。

 健司の刀と狼のゾアの爪がぶつかり合う。

 

 「仮に俺が暴走してもここなら問題ないだろうしヒツギがいない方が安心して戦える」

 「……分かったよ」

 

 ヒツギも草むらを飛び出して走り出した。ヒツギの動きに蟻のゾアが反応して襲いかかる。

 

 「死ぬなよ。見る悪夢が増えちまうし、減らなくなるだろ」

 

 健司の横を走り抜けた時、かすかに聞こえた声にヒツギは走る速度をあげることで答える。

 

 健司はホルスターからレイジングブルを抜き引き金を引く。人間で言うとこめかみの部分に弾丸が当たり蟻のゾアの頭が大きく吹き飛ぶ。

 

 「お前の相手は俺だっつーの」

 

 蟻のゾアが地面をころがっている間にヒツギは駆け抜けて魔法によって塞がれた地下の研究所への道を進む。

 

 ヒツギの姿が見えなくなったのを確認した健司は狼のゾアから距離をとる。

 

 「さて、どれだけ戦えるか……」

 

 健司は軽く凹んでいるが何事も無かったかのように立ち上がる蟻のゾアのこめかみと狼のゾアの攻撃を複数回受け止め僅かに刃こぼれしている刀を見る。

 悪魔を殺せる、その意味がわかり始めた。

 

 「やってやるよ。聖絶(アナテマ)!」

 

 健司は両脚と右腕とレイジングブルに聖絶(アナテマ)を発動させる。発動した部位に赤く光る魔方陣をばらばらにしたような模様が浮び上がる。

 赤く色が変化していた左目は白目が真っ黒になり前よりも気味の悪いものになっていた。

 

 狼のゾアと遠吠えと同時に戦闘が開始する。

 

 蟻のゾアが距離を詰める。

 健司はそれを無視して銃口を狼のゾアへと向け引き金を引く。すると、蟻のゾアは庇うように足を止め銃弾を体で受ける。

 その背後から狼のゾアが健司に飛びかかる。健司は持っていた刀を投げつけた。

 

 飛び上がった狼のゾアは蟻のゾアの肩を掴み方向を変え、頬を掠め少量の血が飛び散り刀は木に突き刺さる。

 健司は着地する前に蟻のゾアを思いっきり殴り飛ばす。支えの無くなった狼のゾアは空中で完全にバランスを崩す。

 

 健司の右腕が黒く染まり赤い模様は銀へと変わる。

 

 「聖絶の刃(セイント·アンガー)!」

 

 何体ものクリーチャーの骨を砕き、内蔵を破壊し、吹き飛ばしてきた必殺の一撃。その一撃が狼のゾアの腹部を打ち抜く、衝撃で周囲の木々が揺れる。

 これで一体は倒した、健司はそう思った。普段なら大きな体が大きな音を立てて倒れているはずだった。

 

 「嘘だろ……」

 

 しかし、目の前にあるのは死体ではなく健司の腕を掴む獣の姿。

 狼のゾアはそのまま健司の腕をバットのスイングのように振り回した。健司はそのまま気に叩きつけられた。

 あまりの衝撃に声も出ない。さらに吹き飛ばした蟻のゾアの追撃が来る。それを木の節を掴んで体を持ち上げギリギリでかわす。すると不自然に体が後ろへ持っていかれる。

 

 「なっ……!」

 

 蟻のゾアの腕に鎌のような刃が生えていた。健司はそれが木を切り倒した事を直ぐに理解した。

 倒れる木を蹴りなんとかその場を離れて距離をなんとかとった。そしてそこでようやく掴まれた腕と右脚から血が出ていることに気がついた。

 

 「カマキリか……」

 

 血の滴る爪と刃。

 

 「出し惜しみしてたら死ぬな……」

 

 健司はレイジングブルをホルスターに片付ける。取り出したのはコンペンセイターのような特殊な形のレッグホルスターだった。

 ホルスターを付け替えホルスターに全ての弾を入れ替えたレイジングブルを差し込む。

 それによって元々大きな銃身だったレイジングブルがさらに大きくなった。

 

 そして、レイジングブルのハンマーを弾く。するとホルスターに聖絶(アナテマ)の時と同じ模様が浮かぶ。

 

 「バレットチャージ!」

 

 健司の魔力が爆発的に上がる。しかし、この魔力は聖絶(アナテマ)を使用しているからだけではない、鬼の力を使っている。

 

 ヒツギが健司に作ったバレットシステム。健司の鬼の魔力を吸収する特殊な弾丸、それをハンマーを叩くことによって瞬間的に貯めた分を解放する。

 そして、その魔力の暴走を制御する為のフィルターの役割をするのがレイジングブルの新たなホルスターとレイジングブル本体。しかし、それも完全に制御しきれる訳ではなく体にかなりの負荷はかかる。

 

 「何も無いよりはいいが……体がちぎれそうだ」

 

 爆発的に上昇した魔力に体が追いつかない。

 歯を食いしばり二体のゾアとの距離を詰める。そのスピードは聖絶(アナテマ)のみの時とは比較にならないほどのスピード。ゾアもこれには反応しきれずにノーガードで攻撃を食らう。

 大きく跳ね上がる狼のゾアの顔に休む間もなく高速で連撃を加える。さっきよりは確実にダメージが入っている。

 

 狼のゾアが距離を取ろうとしてついにふらついたところでさらに追撃を加えようとした時、蟻のゾアが刃を振るう。

 健司は刃が届く前に蟻のゾアの手を掴み顎めがけて蹴りあげた。大きく跳ね上がる顎、健司は手を離し蟻のゾアの背後に周り頭を蹴り落とす。

 これで少しは怯むはず、そう思った健司だったが予想に反して蟻のゾアはすぐさま動き出した。

 狼のゾアは攻撃で怯み様子を伺うように距離をとっているにも関わらず蟻のゾアは全くダメージが無いようだった。

 焦る健司だったが蟻のゾアはそんなことなどお構い無しに距離を詰める、それも一瞬で。

 

 あまりの速さに全く対応できない健司。蟻のゾアの蹴りが深々と腹部に突き刺さる。しかし、耐えれるほどの威力、反撃できるほどの威力だった。

 反撃しようとした健司はいつまでも同じ体制でいる蟻のゾアに違和感を覚え自分に触れる足を見た。

 潰れたくの字のような足の形に健司は見覚えがあった。バッタの足だ、そう認識した途端に全身から汗が吹きでた。

 

 「まず──」

 

 健司が逃げようとした次の瞬間、くの字に折れた足がまさにバッタが飛ぶ時のように開いた。

 健司は吹き飛び、木を一本薙ぎ倒してようやく止まった。立ち上がれない、痛いなどという次元ではなかった。

 大量の血が口から吐き出される。

 無理矢理立ち上がると膝がガクガクと震える。なんとか力を込めて前を向くと弱った獲物を食らうため狼のゾアが大きな口を開けていた。

 まだ体は動かない。

 大きな牙が健司の肩に突き刺さる。

 

 「グアァッ!」

 

 全身を駆け巡る激痛に全身に力が入る。口から血が溢れ出る。

 狼のゾアのガラ空きの腹部を何度も殴るが今度は怯まない、まだバレットチャージの効果は続いているはずにも関わらず。

 ただ噛む力が強くなる。

 

 「調子に乗るんじゃねぇ!」

 

 健司はもう一度ハンマーを叩く。全身に力がみなぎる、それと同時に理性が吹き飛びそうになる。

 理性を保つため歯を食いしばるように狼のゾアの尻尾を握りしめる。そして、思いっきり引きちぎった。

 尻尾をちぎられた激痛には我慢できなかったのか叫び声を上げ牙を離した。

 

 その隙に健司は木に突き刺さた刀を手に取り、狼のゾアを肩から斬った。しかし、浅い。

 健司も刀から伝わる感触で分かった。堅牢な骨は断ち切ったが心臓までは届いていない。だが、刀は堅牢な骨を断ち切ったことで限界を迎え二十センチ程の刃を残して折れた。

 

 「まだだァ!!」

 

 健司はさらにハンマーを叩き、折れた刀を狼のゾアの心臓めがけて何度も刺した。全身が返り血で汚れた頃に動きは完全に止まり狼のゾアら力なく倒れた。

 

 健司は刀を捨て蟻のゾアと距離を詰める、それと同時に蟻のゾアも動き出す。蟻のゾアは刃を振るうが健司はそれを一蹴りで砕いた。

 次は足を健司に向けるがそれも発動する前に引きちぎられ、虫特有のドロドロした液体をまき散らす。

 蟻のゾアの攻撃はまだ終わらない。腰付近から尻尾のような物が生え健司腹部に突き刺さる。さっきのダメージもあり口から大量の血が溢れる。

 黒光りした尻尾がなんなのか健司はすぐに理解した。

 

 「サソリか……俺もお前みたいに体を変化されるんだ。その尻尾ってアイデア、使わせてもらう」

 

 健司は二回連続でハンマーを叩いた。

 

 「バレットインフェクション!」

 

 周囲の血液が健司の腰付近に集まり狼のゾアの爪や牙を取り込み赤黒くしなやかで禍々しい刃の尻尾が出来上がった。

 

 「吹き飛べ」

 

 健司は尻尾で蟻のゾアを薙ぎ払った。その体は一瞬でグチャグチャになった。しかし、蟻のゾアはまだ動こうとする。

 辛うじてまだ繋がっている体を健司は尻尾で持ち上げ宙へ放り投げる。

 

 「虫だから痛みも感じないし怯まない。兵器としては完璧だな」

 

 健司はホルスターがついたままレイジングブルを構え、ハンマーをあげ、落下してくる蟻のゾアに向ける。

 

 「バレットシステム·フルバースト」

 

 引き金を弾きハンマーを落とす。

 貯められたエネルギーが砲撃となり銃口から発射される。赤い光を放つ砲撃は蟻のゾアを包み込み跡形もなく消滅させた。

 健司な空になった薬莢を排莢した時、無数の物音が周囲から聞こえてくる。生き物が動く音、その数は二十から三十ほどの数。

 

 「はは……まじかよ……」

 

 月明かりに照らされて現れたのは全てタイプ違いのゾアだった。

 

 「くそ……上等だよ……!」

 

 健司はレイジングブルに弾丸を込める。バレットシステムが使える弾丸の残りは今入れた六発のみ。

 

 「皆殺しにしてやるよ!」

第86話『化物殺しの弾丸』を読んで頂きありがとうございます。予定には間に合いませんでしたが次は間に合うようにします。

第87話は1月25日に投稿するのでよろしくお願いします。

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