第84話『だからこそ』
本部に帰ってきた遥達は三日間の休暇が与えられた。遥は特に外へ出たりはせず、ずっと考え事をしていた。
自分が初めて隊長となり、取り組んだ任務は失敗に終わり、部下まで失った。そんな気持ちの整理がつかないまま休暇は終わりボスの部屋へと呼ばれた。
「もう既に知っているとは思うがヴァサゴが予定よりも早く復活した」
ボスの部屋に呼ばれた紫菀と遥は焦りの見える表情を浮かべる。
「ヴァサゴに奪われていない魔導書はあと二冊……一冊は問題ないがもう一冊はどうするか……」
「問題ないってどういう事ですか?」
遥が聞くとボスは深く椅子にもたれかかりながら答える。
「健司が見つけるはずだ」
「健司が、ですか?」
「ああ」
ボスの自信に二人は少し考え、そして同時にハッとする。
「なるほど、二冊のうち一冊はエイボンだから健司に縁があるってことか」
「じゃあ、俺たちで残りのもう一冊を探せばいいって訳か」
「まぁ、そういう事だ」
そしてそこからこれからどう部隊を動かすのか、ヴァサゴと遭遇した場合に備えるべきものなど多くのことを相談した後に遥と紫菀はボスの部屋を出た。
「あ、俺はこれから射撃場に行くんだが紫菀はどうする? 一緒にどうだ?」
「いや、マシロにすぐ帰るって言っちまったから今回は帰るよ」
「そっか、じゃあまたな」
「ああ」
そうして紫菀と別れた遥は射撃場へと向かった。射撃場に入ると既に先客がいた。
「ミンディさん」
「遥か、休暇はしっかりと休めたか?」
「はい、おかげさまで」
遥はミンディの横に行きマガジンを装填した。
遥は何かしら気を紛らわせたかった。
「初めての失敗から立ち直れない感じか? それともまだ自分のせいだって思ってるのか?」
「え……あー、そんな雰囲気出てました?」
ちょうど撃ちきったタイミングで声をかけられ少し返答に困ったが遥は台にデザートイーグルを置いて聞き返す。
「まぁな……あの時はすまなかった。あたしも取り乱してたからあんなこと言っちまったけど別に遥のせいじゃ──」
「わかってますよ。ただ、俺が思ってたより俺は弱くて、現実は厳しんだなって」
遥は苦笑いを浮かべながら言う。
「もう誰も俺の目の前では、俺の手の届くところでは死なせない……そう意気込んでたのに結果このザマですよ」
普段とは全く違い後ろ向きなことばかりを言う遥にミンディは大きなため息をついて遥にジャックから渡された銃、ガバメントを押し付けた。
「撃ってみろ」
そう言われ遥はガバメントを握り、的に向かって引き金を引く。
大きな銃激音が射撃場に響き渡る。その銃撃音は四五口径とは思えないほど大きく、反動も驚くほど大きいものだった。
反動があまりにも大きく、遥の腕は大きく上に跳ね上がり弾丸は的を大きくはずし、着弾した壁は爆薬で破壊されたようになった。
跳ね上がった腕を下げることも忘れていた。
「どうだ?」
「こんな威力の銃を撃ったのは初めてです。俺が魔法を使っても簡単にはこんな威力にならない……」
それを聞いてミンディはニカッと笑う。
「ジャックがヴァサゴの一撃を吸収して守ってくれたのを覚えてるか?」
「はい、かなり驚きましたから」
遥はミンディに銃を返しながら答えた。
「あの魔力を吸収して自分のエネルギーへと変換する機能、それと同じ物がその中には備わってるんだ。吸収した魔力をマガジン内の弾丸に込めるって形でな」
ミンディの前にある台の上には何本かマガジンがあり、そのマガジン内の弾丸を弾丸ケース内に弾薬を戻した。
既に一ケース分の弾薬に魔力を込め終えていた。
「これを撃つとな、ジャックに言われてる気がするんだ。後ろを見てないで前を見ろ、俺の分まで戦ってくれってね」
ミンディは照れくさそうにする。
「……ありがとうございます」
遥の顔から曇りが消えていた。
「ジャックさんに誰も見捨てないなんてそんな甘いことが出来る世界じゃないって言われました」
遥はミンディのハンドガンを手に取り一発の弾丸を込め、窓に向けて引き金を引く。さっきとは違い反動をしっかりと押さえ込み的に当てた。
「だからこそ、俺はもう誰一人として絶対に見捨てない。皆で生きて世界を救ってみせる」
晴れた顔でミンディにガバメントを返し射撃場を出ていった。
「これじゃ命を粗末にして戦うなんてことはもう出来そうにないな。なぁ、ジャック?」
ガバメントを眺めながらボヤくように呟いた。
第84話『だからこそ』を読んでいただきありがとうございます。
第85話は12月28日に投稿するのでよろしくお願いします。




