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第81話「弟子のため」


 ピラミッドの出口から眺める月明かりに照らされた砂漠を二〇〇を超えるアンデッドが練り歩いていた。

 

 「どこから湧いて出てきやがった?」

 「にしてもホンマに急やな。今までアンデッドが出たことなんてほとんどなかったのに」

 

 ミンディと圭斗は驚きの声を漏らす。

 

 「つべこべ言ってられません。ミンディさんは俺の肩にしっかり捕まっててください、走りますから」

 

 遥はホルスターからデザートイーグルを抜き、ミンディの体をぐっと寄せた。

 

 「いや、大丈夫だ」

 

 それに対してミンディは遥から体を離してアサルトライフルのマガジンを交換する。

 

 「だいぶ回復できたからな。あそこまで走るくらいどうってことない」

 

 そう言って笑うミンディに遥は一抹の不安を抱くも渋々納得しピラミッドの外を確認する。幸い車が荒らさせている形跡はない。

 

 「とりあえず、ジャックさんは本部への救助の要請をお願いします」

 「それに関してはもうしておきました。あと、三十分ほどで着くと思います」

 

 ジャックの仕事の速さに感心しながら魔力を両手に込める。遥の掌に巨大な火の玉が作られ、遥はそれを空へと飛ばした。

 

 「これである程度は殲滅できると思うんだが……」

 

 遥が打ち上げた二つの巨大な火の玉から小さな炎の雨が降る。そしてその炎の雨はアンデッドに触れると同時に燃え上がる。

 

 「走れ!」

 

 遥の声と同時に全員いっせいに走り出す。燃えるアンデッドを横を通り抜け、車までの距離残り数メートル。

 もう少しで車にたどり着く、そう思った次の瞬間、半透明の何かが高速で飛んできた。

 

 「くっ!」

 

 遥は咄嗟に剣を引き抜きガードするもその攻撃は一発だけでなく二発三発と連続して放たれた。

 

 「全弾防がれるとは」

 

 攻撃が飛んできた方を見ると一人の黒い長髪で前髪で目が隠れた陰気な男が立っていた。

 

 「あ、あれは……!」

 

 薫那は男をみて驚きの声を漏らす。正しくは男の手にある一冊の本に対して驚いていた。

 男が持っている本は紛うことなき魔導書だった。表紙には牛の絵が描かれたアブラメリンだ。

 

 「その魔導書を渡せ、そうすれば命だけは今のところ助けてやる」

 「断ったらどないつもりや? それにお前なんちゅー名前や?」

 

 男の言葉に対して圭斗は喧嘩腰に睨みつける。しかし、男は恐れる小物なく少しづつ距離を縮めていく。

 

 「申し遅れた。名はアルベルト、そして断ったのなら死んでもらう」

 「残念ながらそれも断る!」

 

 圭斗は銃口をアルベルトに向け引き金を引く。しかし、弾丸はアルベルトの体を貫くことはなく水の壁によって阻まれた。

 

 「はぁ……これだから人間は」

 

 ため息混じりにアルベルトが水を払うと弾丸が濡れた砂の上に落ちる。

 

 「全弾防がれるやと……?」

 「無理に倒す必要はありません。今はとにかく車に乗って逃げることを考えましょう」

 

 遥はデザートイーグルを左手に持ち替え剣を引き抜く。

 

 「全員、俺があいつに攻撃したら車に向かって走り出して乗り込んでください」

 

 そう言って遥は走り出し、アルベルトとの距離を一気に詰め、剣を切り上げる。アルベルトは遥の剣をギリギリで避け、車に向かう四人に向けて水の弾丸を放つ。

 

 「させるか!」

 

 遥は水の弾丸をデザートイーグルで撃ち抜く。撃ち抜かれると水の弾丸はただの水に戻り地面を濡らす。

 

 「自己犠牲か? 人間」

 「残念ながらそれは不正解だ」

 

 遥はロケットのように足の裏から炎をだしアルベルトから距離を取る。アルベルトも水で遥の炎を消そうとする。

 水をかけられ火力が少し弱まったせいでバランスを崩しながらもなんとかボンネットの上に着地する。

 

 「ジャック! 車を!」

 

 ミンディが車内で叫ぶ。

 車は大量の砂を巻き上げながら急発進。

 

 「水から逃げ切れるとでも?」

 

 アルベルトは大量の水を手のような形へと変化させ車を追いかける。水で作られた手はすぐに車に追いつき荷台を掴まえる。

 

 「荷台を切り離せ!」

 

 ミンディの声にすぐさま反応し遥が荷台の連結部分を切断し、荷台を切り離す。しかし、水の手はさらに伸びて車の後ろのドアを掴む。

 

 車のドアがちぎられ後ろから丸見えの状態となった。ドアがちぎられた衝撃で車体が揺れる。

 

 「きゃ!」

 

 薫那がバランスを崩し転び、魔導書が手から離れ車内を滑る。すぐに拾おうとするが水の手のほうがコンマ数秒早く魔導書を拾い上げる。

 

 「しまった!」

 

 遥が車内に乗り込み水の手をデザートイーグルで撃つがさっきまでのように形が崩れることはなく、すぐに修復された。

 そのままどんどん魔導書は車から離れていく。

 

 「遥、薫那を頼んだ」

 

 ミンディは武器の入ったバッグを背負っていた。

 

 「ミンディさん、何を言って……」

 「生きてたらいつかまた会おう」

 

 ミンディは車内から飛び出し水の手に掴まれた魔導書に飛びつきなんとか奪い返し、車の中へ投げ入れる。

 

 「師匠ー!!」

 

 車に戻ることなくバッグの中からロケットランチャーを取り出しアルベルトに向かって撃つ。

 案の定ロケットランチャーは水の盾で止められるも車を追いかける手は止めることが出来た。

 

 「ジャック! 車を戻して! 師匠が! 師匠が!」

 「──それは、出来ない……!」

 

 懇願する薫那に対してジャックは心苦しそうな表情で答える。

 

 「あたしが相手になってやるよ」

 「魔法や魔術も使うことが出来ない人間がどれだけ足止めできるだろうな」

 

 さっきまで手の形をしていた水が小さな粒へと変化し、高速で放たれる。

 ミンディは高速で放たれた水の粒をギリギリで回避する。そして、全て避け切ると同時に肩にかけていたアサルトライフルを放つ。

 アルベルトは銃弾を後ろに下がって避ける。

 

 「あたしは人間では強い方なんでな」

 

 ミンディはバッグから薬ビンを取り出し中に入っている錠剤を六錠口の中に放り込みボリボリと噛み砕き飲み込んだ。

 

 「はるか……師匠を助けて……」

 

 薫那が涙目になっている。

 

 「師匠が薬をあと三回分服用したら……死んじゃう……一回服用するだけでも大幅に寿命が削られるのに……」

 

 薫那の言っている意味は遥に分からなかった。薬、寿命が削れる、そんな話をミンディから聞いたことなんてなかったからだ。しかし、薫那の顔は遥が動くのには十分だった。

 

 「人間のくせに魔力が増えた? まるで悪魔の実殻を宿しているみたいだ。しかし、それはどれくらい持つのだろうか?」

 「お前を倒すくらいまでは持つさ」

 

 ミンディがバッグを投げると中身が周囲に飛び散る。ハンドガン、グレネード、ロケットランチャー、ナイフ、斧、ピッケル、様々な武器が用意されている。

 

 ミンディはピッケルと斧を拾い上げる。

 ピッケルと斧を拾い上げた腕の血管は浮き出てきて、白目は黒く濁り始めている。そして拾い上げたピッケルと斧も黒く濁ったような模様が浮かび上がってきていた。

 

 「お前……本当に人間か?」

 「あぁ、人間さ。数十秒前までね」

 

 走り出すミンディ。

 砂を巻き上げ一瞬でアルベルトとの距離を詰める。その速さは遥や健司や紫菀たちと同じくらいだった。

 

 「バカな!?」

 

 アルベルトは水の盾を作り振り下ろされるピッケルを防ぐが先端が盾を貫通した。左手に持つ斧も振るい、盾を切り裂く。

 

 盾が崩れ、崩れ落ちる水の中からミンディはアルベルトの首めがけてピッケルを振るう。

 アルベルトは体を後ろに傾け先端を首の皮に掠られながら回避する。

 

 ミンディは斧を投げるとアルベルトはそれを水で防ぐ、勢いは弱まり斧がその場に落ちる。落ちると斧にさっきまであった黒くにごった模様は消えた。

 ミンディの攻撃はまだ終わらない。近くに落ちていたハンドガンを拾い銃口をアルベルトに向け引き金を引く。

 

 水で同じように防ぐが今回は防ぎきれずに一発だけアルベルトの左腕を撃ち抜く。

 アルベルトは水を使いミンディを包み込んだ。水に覆われたミンディは息ができず苦しそうにもがく。

 

 「これで終わりだ」

 

 アルベルトは勝ちを確信した。予想外のミンディの強さに多少驚いたがアルベルトは既に冷静さを取り戻していた。

 

 「わざわざ自ら化け物になるとは滑稽でしかないな」

 「弟子のためならなんだって出来るんだよ!」

 

 水の中ではアルベルトに声は届かないだろうが叫んだ。ミンディもこの程度では終わらない。さっき拾っておいたグレードを取りだしピンを抜き爆発させる。

 

 グレードを握っていた右手とミンディを覆っていた水を吹き飛ばした。

 

 「ゲホッ……! ゲホッ、はぁ……はぁ……」

 

 ミンディが息を整えているあいだに吹き飛んだ左手がベキベキと修復されていった。

 

 「化け物が──」

 

 ピッケルがアルベルトの眉間に突き刺さる。

 斧がアルベルトの頭にかち割る。

 何発もの弾丸がアルベルトの体中を貫いていく。しかし、それでも体を動かし魔術を使おうとするアルベルト。

 ミンディは走ると同時にロケットランチャーを拾い、それをアルベルトの心臓へと押し付け地面に押さえつけ引き金を引く。

 アルベルトの周囲に飛び散り今度こそ完全に動かなくなった。

 

 ミンディはフラフラと立ち上がる。

 ロケットランチャーを持っていた両手は肘から先がなくなり、顔の半分は肉が無くなり頭蓋骨が露出し、全身の各所の肉が見えている。人間という形を辛うじて保っている状態だった。

 

 「あとはお前たちだけだ……」

 

 ミンディは周囲に集まった無数のアンデッドを骨が露出した黒ずんだ目で睨みつける。

 その睨みつける顔は修復され、全身の破損が修復され、それと同時に目の色は元の白色に戻っていた。しかし、修復された左腕と右足は黒く硬い刃が鱗のように着いた悪魔じみた禍々しい物になっていた。

 

 ミンディが再び錠剤を取りだし飲もうとした瞬間、一台の車がアンデッドを引きながら現れた。

 

 「なんで戻ってきた?」

 

 中から降りてきた遥に聞く。

 

 「約束を守りに来ました。薫那を昔みたいな顔にさせない、それにはミンディさんも必要です」

 

 そう言って遥はミンディの持つ薬を取り上げ、車内から持ってきたミンディの新しい上着を渡す。車の中からゾロゾロと武装した三人が降りてきた。

 

 「誰も死なせたりはしませんよ」

第81話「弟子のため」を読んでいただきありがとうございます。

第82話は11月16日に投稿するのでよろしくお願いします。

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