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第80話「作戦完了」

 

「隊長、あの……さっきの魔導書内での事なんですけど」

「あー、やっぱ見てたんだ」


 話を切り出した弘。

 紫菀は少しバツが悪そうに頭をかく。


「みっともねぇよな。結局偽物でも本物でもなんにも出来なくて、それなのに魔導書はちゃっかりゲットしちまったしな」

「にぃに」


 マシロが紫菀の手をギュッと強く握る。


「ん? どうしたんだ?」

「シロのせいではかせ死んじゃったのにシロ全然覚えてなくでにぃにばっかり辛い思いして……ごめんなさい……」


 マシロの手にさらに力が入る。


「そう悲しい顔するなよ」


 紫菀はマシロの頭を撫でる。


「博士と話せたし、思いも聞けた。腑に落ちない所はいくつかあるがそれを解決したところで博士は生き返らない」


 紫菀は撫でるのをやめてマシロと目線を合わせるようにしゃがみこむ。


「だから俺たちでヴァサゴをぶっ倒して博士に恩返ししような」

「うん……!」


 なんとなく和やかな空間になっていたその時、繋いでいた無線にノエルの声が入る。


 『いい雰囲気のところ悪いけど早く帰ってきて! こっちはかなりピンチなことになってます!』


 普段の間延びした話し方とは違った焦った声がしたため紫菀達はただ事でないと察して走りだした。


「ノエル! 何があった!」

 『半径四キロメートル圏内に三〇〇近い生体反応を確認! 完全にこれはアンデッドとクリーチャーに囲まれましたねぇ……』


 最後の語尾だけ普段っぽくはなったがノエルがかなり焦っているのは簡単に理解できた。


「すぐに行くからノエルは車の外に出るなよ!」

「急がないとまずそうですね」


 弘の言葉に紫菀は頷き、走っているマシロをひょいと担ぎさらにペースをあげる。弘と琴音もギリギリ紫菀のペースについて行く。


 遺跡を出て紫菀の魔法を使い上へと上がるとそこには確かに無数のアンデッドやクリーチャーが存在した。

 紫菀はこの時点でかなり焦っていた。ノエルが戦えるはずがない、もしアンデッドかクリーチャーが車のドタや窓を破壊して車内に入れば、そんな考えが頭をよぎる。


「マシロ! 滅龍大剣(ダインスレイブ)! 」


 マシロが大きく禍々しい大剣へと姿を変え、紫菀は目の前のアンデッドをなぎ倒しながら走る。

 車が見え始めた時、自分が想像した再い悪の状況に一歩近づいているような状況だった。


 ノエルを助けるため全力で走る自分がだったがその努力は虚しく、紫菀が着く前にアンデッドは車のドアを破壊し中に侵入していた。


「ノエル!」


 中にはいられてしまっては紫菀から車までの距離では確実に間に合わない。


「そんな……」


 絶望する紫菀の後ろから琴音と弘が紫菀の元へと来た。


「隊長! ノエルは!」


 琴音の言葉も無視して紫菀は呆然と車を眺めている。しかし、次の瞬間車の中から凄まじい銃声にも聞こえる爆発音が聞こえた。


 爆発音と共に車内から黒い人のような塊がすごい勢いで飛んできた。


「あぁ〜白衣汚れたぁ。もう最悪」


 車から降りてきたノエルの姿に紫菀は唖然とする。ノエルは右手にストリートスイーパー、左手にはヴィーフリが握られ白い白衣には返り血がついていた。


「あーあ、ノエルが武器持っちゃった」


 琴音がボヤく。


「え、もしかしてノエルって強いのか?」


 紫菀が聞くと弘が少し呆れたように溜息をつきながら頷いた。


「それはもう自分たちより強いと思いますよ。彼女のモットーはものを使えるやつがいいものを作る、なので」

「それであのニッチなサブマシンガンとショットガンを使いこなせるようにってか?」


 弘は無言で頷く。

 そうこう話しているうちにノエルの周辺にはかなりのアンデッドや弱いクリーチャーの死体が増えてきた。


「隊長に弘さん? 私達も喋ってないで武器を構えた方がいいんじゃないですか?」


 気がついた時にはワラワラとアンデッドが近づいていており既に囲まれていた。


「ホントだ、やべ」

「琴音、私にマガジンを分けてくれないか? さっき使い切ってしまって」

「どうぞ、これが最後のです」


 弘は琴音からマガジンを装填し、アンデッドに銃口を向け発砲しようとサイトを覗いた時、目の前に血しぶきが舞い上がる。


「二人はノエルと合流して車を守りながら戦ってくれ、あとは俺が片付けるから」

「かなりの数ですが大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、少し試したいことがあってな。ここにいるアンデッドはちょうどいい実験台になる」


 少し心配そうにする弘に紫菀は笑って答えた。


「あ、ノエルにこれ渡しといてくれ」


 紫菀はコートを脱いで琴音に投げた。


「隊長は?!」

「今から熱くなるから大丈夫だ」


 弘と琴音は一度目を合わせてからノエルの方へ走り出す。


「あれぇ? 隊長くんはぁ?」


 噛み付こうとするアンデッドの口に手榴弾を突っ込んで蹴り飛ばしながら聞いてきた。


「アンデッドを片付けるから車を守っておいてくれって命令だ」

「はい、これ。隊長がノエルにって」


 蹴られて三体ほどアンデッドを巻き込んで爆発するアンデッドを眺めながら答えた。


「これって隊長くんの……ふーん、かっこいい事するじゃぁん」


 嬉しそうにコートに袖を通すノエル。


「にぃに、どうやって倒すの? ワイヤー?」

「いや、ワイヤーでもいいんだけどこんだけ広いと時間かかるだろ?」


 紫菀は周囲を見渡す。


「さっきの俺の記憶でマシロが俺と戦ってた時の状態に俺がなることは出来るか?」


 紫菀の質問にマシロは息を呑む。

 マシロ自身もあの力は使いこなすことが出来ていなかった。 悪魔のマシロでさえ使いこなすことが出来ていない力を完全には悪魔でない紫菀が使うことに不安を覚える。


「できるのか?」

「できるけど……危ないよ?」


 心配するマシロに紫菀は笑みををうかべた。


「博士の研究はマシロの力を俺が使いこなせるようにするための研究だったんだ。それはギリギリではあるが完成してるから多分問題ない」

「……わかった」


 不安は残るがマシロは渋々了承した。


 マシロは紫菀には理解できない言語を連ねるとマシロを中心に赤い魔法陣が展開され強い光を放つ。魔方陣から無数の鎖が紫菀とマシロを覆うように飛び出してきた。

 紫菀とマシロをおおった無数の鎖が砕けるとそこからはあの時のマシロと同じ尻尾が生えた紫菀がたったていた。しかし、手には滅龍大剣(ダインスレイブ)に変身したマシロも握られていた


 紫菀の周囲を取り囲む大量のアンデッド、そのアンデッドの足元から紫菀の尻尾の先に着いた刃と同じものが地面から飛び出し体を貫く。

 大量のアンデッドが真っ白な雪を赤で染めると同時に紫菀も膝をつく。


「これは、思ったよりキツいなぁ……」

「にぃに……!」


 嫌な汗を流しながらも紫菀は立ち上がった。


「持ってあと二十秒……それまでに終わらせる!」


 走り出した紫菀、その勢いに足元の雪が五メートルほどの爆発のような柱をあげる。

 腰に着いた尻尾と手に握られた巨大な剣で半径四キロメートル圏内にいるアンデッドやクリーチャーを切り裂きまくる。その速さはまさに閃光。


 至る所で雪とアンデッドやクリーチャーの肉片が舞い踊る。

 そして紫菀が立ち止まると同時に紫菀に生えた尻尾は粒子となって消滅し、舞い上がった肉片が一斉に地面に落ちる。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 紫菀は息を乱しながらも車のほうへと行き、さっきまでの紫菀を見て唖然としている三人に疲労困憊ながらも笑ってみせる。


「任務……完了だ……かえ、るぞ……」

「隊長くん!」


 倒れそうになる紫菀をノエルがとっさに支える。


「すー……すー……」


 ノエルの胸の中で寝息を立てる紫菀。


「にぃに、魔力使い切っちゃったから」


 人の姿に戻ったマシロがノエルに説明する。

 ノエルは優しく微笑み眠る紫菀の頭を撫でる。


「お疲れ様です」


 弘に紫菀を車の中に運ばせ車を走らせる。

 ノエルがもう既に呼んでいた輸送機に車を乗せ本部へ向かう。


 「ようやく終わりましたね」


 疲れたように琴音が呟く。


 「そうだな」


 疲れが出てきたのか簡素な返事を弘が返す。


 「でも、問題はこれからねぇ。隊長くんとマシロちゃんはこれからもっと過酷で辛いことが始まる。まぁ、それは私たちもだけどねぇ」


 ノエルは雰囲気を暗くさせずにこれから起こることを見据える。

 三人は眠るマシロと紫菀を見る。


 「これからはこの中の誰かが本当に死ぬかもしれないしねぇ。隊長くんたちは死人は一人も出さないつもりみたいだけどぉ、隊長くん達はわからないけど私たちみたいな普通の人間は必ず誰か死ぬ」


 一瞬空気が暗くなるがノエルはすぐに笑う。


 「だから、死なないように頑張らないとねぇ」

 「そうですね、みんなで生きて世界を救いましょう」

 「ああ、全員でな」

第80話「作戦完了」を読んでいただきありがとうございます。

第81話は11月2日に投稿するのでよろしくお願いします。

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