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第74話『雪原の幻』


 「思ったよりも深いな」

 

 クレバスの上にある雪をどけて覗き込みながら紫菀はため息混じりに呟く。

 

 「推定十五メートルってところです」

 

 弘が発煙筒を投げ込み、かなり下の方まで落ちたところから弘は距離を予測した。

 

 「寒いし真っ暗、魔法の相性は遥の方が良かったんじゃないのか? 明かりにもなるし暖かいし」

 「それはどうでしょうか? 威力にもよりますが中で戦闘になれば遥さんの魔法は周囲の氷を

溶かしてしまって危険かもしれませんし」

 「あー、確かに」

 

 クレバスを覗き込みながらそんなことを話し、紫菀は少しだけため息をついた。

 

 「じゃあ、俺たちだけで探索するか」

 「はい、入ってみましょう」

 

 弘はアサルトライフルにマガジンを入れチャージングハンドルを引いて弾丸を装填する。

 遺跡の中には何があるか分からないため戦闘力の高い紫菀と弘が入ることになっていた。

 

 紫菀はジャックの銃を乗せて引いていたソリを支配域(アカトル)を使って浮かせ、それに弘と共に乗り込んだ。

 

 「隊長の魔法って本当に便利ですね。戦闘以外にも応用が利きますし」

 「確かに戦闘以外にも多くの利用先があるけど……俺は遥や健司の魔法が羨ましいよ」

 

 感心している弘の言葉に紫菀は少し寂しそうに微笑みながら答える。

 

 「その遥さんの魔法は聞きましたが健司さんの魔法はどう言ったものなんですか?」

 「健司の魔法は魔力と血液を消費して身体能力や武器の能力を飛躍的にあげる魔法だよ。欠点は魔力以外に血液を消費するから乱用するのは危険ってところだな」

 「羨ましいというのはやはりお二人の攻撃力の高さでしょうか?」

 

 紫菀は静かに頷く。

 話していると遺跡の入口が目の前に現れた。石で出来た扉には氷がはられており、簡単には開きそうになかった。

 

 「魔法に関しては羨んでも仕方ないがな。遥や健司にはかなわない攻撃力はこうやって応用力で補えばいいからな」

 

 紫菀が氷の貼った扉に手を触れると表面の氷に大量のヒビがはいり、崩れるように砕け散った。

 宙に浮く氷の破片を眺めた弘は静かに、口には出さず思った。聞いている限り紫菀の魔法はどう考えてもほかの二人よりも危険だと。

 

 「さぁ、中に入るぞ」

 「は、はい」

 

 扉の奥はあかりも何も無く、真っ暗だった。寒さこそ外に比べて幾分かましではあったがその暗闇は寒さをひきたてる。

 紫菀は手持ちのライトを、弘はアサルトライフルに付けたライトを頼りに前へと進んでいく。

 

 歩いて少しすると突然、弘の方からガシャンと何かにぶつかったような音が聞こえる。

 

 「どうした、弘!」

 

 紫菀が弘の方にライトを向けると弘はナイフを使って壁に少し大きな傷をつけていた。

 

 「何してるんだ?」

 「目印を置いておこうと思いまして、同じ道をぐるぐる回ったとしても間違いに気づきやすくなりますから」

 

 弘はその後も十数メートル間隔で壁にナイフで傷をつけ続けた。

 

 「それにしても曲がったりせずにずっと真っ直ぐ進んでるけどこれで合ってるのか?」

 「どうでしょうか?」

 

 その会話で足が止まった時に弘は壁に傷をつけようとした。そのとき、突然空間が歪み、壁はグチャグチャに混ざり合い、一つの部屋へと形を変えた。

 

 「これは一体どういうことだ?」

 「いいことではなさそうですね」

 

 弘の宣言通り黒い(もや)が部屋の壁から出てきた。その靄は二つの塊にわかれその塊は人の形に変わっていった。

 

 「いきなりハプニングだな」

 「そんな生半可なものじゃなさそうですけど! 呑気に眺めてる場合じゃありませんよ!」

 

 靄は巨大な鎧の化け物へと変化した。右手には戦車をも一刀両断出来そうなほど巨大な剣を持ち、左手には二メートルを超える巨体をほとんど隠せるほど巨大な盾を持っている。

 

 弘はアサルトライフルの銃口を鎧の化け物へ向け、引き金を引く。

 乾いた発砲音、薬莢が地面に落ちた甲高い音、そして盾に弾丸が当たる音。しかし、盾には少し凹みができた程度だった。

 

 「一応この銃も魔法器なんですけどね」

 「弘は下がってろ。俺が相手するから」

 「いえ、一体は任せてください」

 

 弘の前に出た紫菀の横に並ぶ。

 

 「さっきまともなダメージ与えれてなかったのにどうやって倒すんだよ」

 「まぁ、信じてください」

 

 そう言ってマガジンを入れ替え自ら鎧の化け物へ走って距離を詰めていく。紫菀は舌打ちをし、仕方なくもう一体の方を相手する。

 

 弘は振り下ろされる巨大な剣を華麗にかわして鎧の関節部分にある僅かな隙間に銃口を合わせ引き金を引く。

 

 「特注の魔力弾だ」

 

 両肘、両膝を撃ち抜かれた鎧の化け物は巨大な剣と盾は持てなくなり、膝をついて倒れる。しかし、それでもギチギチと音を立て動こうとする。

 

 「ホントに倒しやがった……」

 

 紫菀は弘が兜の隙間に大量の弾丸を打ち込み続けているのを眺め動きが止まってしまった。

 チャンスと言わんばかりに鎧の化け物は巨大な剣を大きく振り上げ、紫菀に向かって振り下ろす。

 

 「支配域(アカトル)……!」

 

 巨大な剣を振り下ろそうとする鎧の化け物の顔に高速で飛んできた巨大な剣が突き刺さり、勢いそのままに壁に突き刺さった。

 鎧の化け物の体に刺さる剣は弘がトドメをさした鎧の化け物のものだった。

 

 「隊長、あとはこいつのトドメをお願いします。自分の火力ではトドメまではさせなくて」

 

 関節部分を破壊された鎧の化け物はなんとか動こうとするがただモゾモゾと動くだけだった。

 

 「弘ってほんとに強いんだな」

 

 紫菀は突き刺さっている巨大な剣を引き抜きモゾモゾと動く鎧の化け物へと突き刺しなから感心した。

 

 「鍛えてますから。これくらい倒せないとこの部隊に配属されてませんよ」

 

 弘は謙遜することも無く、これが当然であるように答えた。

 

 鎧の化け物の動きが完全に止まると再び空間がぐにゃりと曲がり気がつけば遺跡の入口前に立っていた。

 

 「ここは入口の前か?」

 「隊長! これを見てください」

 

 弘に呼ばれ、あたりの壁や床を忙しなく見回っている弘の指すものを見るとそこにはいくつかの弾痕があった。

 よく見るとその弾痕は遺跡の前の至る所に残っており、どれも新しいものだった。

 

 「これはもしかしたら自分が撃った弾丸の痕ではないでしょうか?」

 「まさか、俺達は中で戦ったんだぞ?」

 「そう……ですよね……」

 

 弘は腑に落ちない様子で時計に目をやるとキャンピングカーへ戻る時間をとっくにすぎていた。

 

 「キャンピングカーへ一度戻りましょう。ノエルに聞けば何かわかるかもしれませんし」

 「ああ、そうだな」

 

 紫菀の支配域(アカトル)を使い、板を使って地上へあがりキャンピングカーへと帰る。

 

 「隊長、弘、おかえりなさい」

 「にぃに、おかえりー!」

 

 琴音とマシロが出迎えてくれた。

 

 「ただいま。それでノエルはどこにいる? 遺跡で妙なことが起こったから調べてもらいたいんだ」

 「ノエルならそこにいるよ」

 

 マシロはほとんどノエルの私物によって占領された机の方を指さす。確かにそこにはノエルが座っていたがパソコンを目の前にいつになく真剣な表情だった。

 

 「ノ、ノエル?」

 

 紫菀は様子を伺いながら声をかける。

 

 「あら、隊長くんに弘、帰ってなのね。気づかなかったよぉ、ごめんねぇ〜」

 「いや、それはいいんだが遺跡のことで少し調べて欲しいことがあるんだ」

 「もしかして調べてほいし事って遺跡で起こった謎の魔術的現象のことかな? とりあえず詳しく聞く前にシャワー浴びてきたらぁ?」

 

 ノエルが指さす方を見ると外に人が四人くらい入れそうな大きさの箱が置いてあった。

 

 「なんだあれ?」

 「雪を入れると浄水してお湯にしてくれる機械を作ったんですよぉ」

 

 敬語を使ったり、タメ口を使ったりと間延びする要素だけを残した安定しない口調でノエルは自慢する。

 

 「そんなもんいつの間に……」

 「せっかくなんでさっぱりしてきましょうよ。隊長が先に浴びていいですから」

 

 全く驚かない弘に急かされて紫菀は外へと出ていく。箱の外側には確かに不自然にとび出た部分がありそこへ雪をどんどん入れていく。

 

 「弘は全然驚かないんだな」

 「ええ、慣れましたから」

 

 苦笑いを浮かべる弘。弘とノエルと琴音は長い付き合いだと聞いたがこれになれると言うのは驚きだった。

 

 なんだかんだ弘と話しながら順番にシャワーを浴びキャンピングカー内に戻る。

 

 「さっぱりた所で本題に入りますねぇ」

 

 そう言ってノエルはさっきまで見ていたパソコンの画面を見せる。

 

 「これが遺跡を囲む魔力なんだけどここを見てぇ、ここから一気に魔力が上がってるでしょ? この時間になにかあったりしませんでしたぁ?」

 「時間は俺たちが中に入ってから数分後……つまりドンピシャってわけか」

 「それで、何があったんですかぁ?」

 

 紫菀と弘は遺跡内で起こったことを事細かに説明した。ノエルもその内容をパソコンへと打ち込み記録している。

 

 「たぶんあの遺跡の中にある魔導書はグランかなぁ。猿の魔導書で幻術系の魔法について書かれてるもの」

 「あの幻術をなんとかする方法はあるのか? あれを何とかしないと奥に進めないぞ」

 「あの、幻術って分かってるなら無視して進めばいいんじゃないんですか?」

 

 琴音の言うようにただの幻術魔法なら幻術とさえ分かってしまえば何とかなるのだが相手は魔導書、そんなに甘くはない。

 その事で琴音に指摘すると、そうですよねぇ、と頭をかいた。

 

 「とりあえずワタシがその幻術をなんとかしますから色んなサンプルを取ってきてくださいねぇ」

 

 こうして紫菀達も遥達と同様に気が遠くなるような地道な作業が始まった。

第74話を読んでいただきありがとうございます。

第75話『蛇の魔導書』は8月17日に投稿するのでよろしくお願いします。

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