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第73話『ピラミッドの呪い』


 先が見えない暗がりを入口から眺め、圭斗がアサルトライフルに付けたライトを付けようとする。

 

 「ライトはつけなくても大丈夫です」

 「いや、この先かなり暗いやないですか。ライト付けへんと見えませんよ」

 

 不思議そうにする圭斗を見て遥はニヤリと笑い人差し指を立てる。

 ボッと音を立てて指先に野球ボールより一回りほど大きな火の玉を作り出す。

 

 「なるほど、そりゃライトなんていらへんわけや。魔法って便利なんですね」

 

 火の玉を頼りにどんどん前へ進んでいく。

 

 「外は暑かったけど中はかなり涼しいな。かいた汗が冷え始めてきた」

 

 なにか特殊なものがある訳でもなければ分かれ道が出てくる訳でもなくただただ真っ直ぐな道。

 

 「ほんとに何も無いな。ボスの情報が間違いだったのか?」

 

 三十分以上歩き続けたが同じ道をずっと進んでいるようだった。

 

 「いえ、ここで間違いないと思います」

 「薫那はなんでそう思う?」

 「師匠たちには感じ取れないと思いますがこのピラミッドの中に入ってから異常な魔力を感じるんです」

 

 薫那の言葉に遥も頷く。

 

 「薫那達ほどじゃありませんが俺も魔力は検知できます。かなり強力な魔力です」

 

 全員の足がそこで止まった。

 

 「一度来た道を戻ろう」

 

 何か嫌な予感がした遥は急ぎ足でと通った道を進んでゆく、すると正面から少し光が入ってきていた。それは太陽の光ではなく月の光だった。

 

 「もう日が暮れたんか?」

 「まさか、まだは一時間も経ってないのに……急いでキャンピングカーに戻ろう!」

 

 遥は走ってキャンピングカーへ向かった。向かう途中、急激な空腹に襲われ体に力が入らなかった。

 

 「な、なんだ? 急に腹が……」

 「師匠もでしたか……実は私もお腹がすいて力が全然入らなくて」

 「僕もや」

 「くそ、どうなってるんだ?」

 

 キャンピングカー前までなんとか着くとジャックがキャンピングカーから飛び出すようにおりてきた。

 

 「隊長!」

 「ジャック、さん……」

 

 全員意識が朦朧とし始めていた。

 

 「二日間もピラミッドの中にいるなんて! なぜそんな無茶をしたんですか?!」

 「ふ、二日間……?」

 「ダメだ、急がないと」

 

 ジャックはすぐに全員をキャンピングカーの中へと運びベッドに寝かせた。

 

 「早くこれを飲んでください」

 「これは……?」

 

 遥は朦朧としながら聞く。

 

 「かなり薄めた塩水です。不味いですが我慢して飲んでください」

 

 ジャックは遥の口に塩水を流し込む。味は確かに最悪だったが水分が身体中に染み込んでいくようだった。

 

 ジャックはその塩水を全員に飲ませ再び台所へと戻り何かを作っている。しかし、遥達は起きていることが出来ずそのまま眠ってしまった。

 

 「隊長、起きてください」

 「ん? ジャック?」

 「食事を早くとってください」

 

 遥はジャックに引っ張られるように食卓へと座らせられた。既に全員座っていて目の前の野菜スープと卵とハムのサンドイッチを食べていた。

 

 「ゆっくりよく噛んで食べてください」

 「わ、分かりました」

 

 母親のような事を言われ、遥は指示通りにゆっくりとサンドイッチを咀嚼してから飲み込んだ。

 

 「それで、隊長はなぜ二日間もまともな食料も持たずにピラミッド中にとどまったんですか?」

 

 普段は優しげなジャックとは思えないほどの剣幕だった。

 

 「ジャックは何を言ってんねや。僕らは一時間くらいしかあのピラミッドの中に入ってへんわ」

 「そうです。圭斗さんの言う通り俺たちは二日間もピラミッドの中にはいません」

 

 そう言うとジャックは本部の電波と繋がっている端末を見せた。そこの日付には確かに二日後のものになっていた。

 

 「これはいったい……?」

 「魔導書が原因でしょうね」

 

 食事をとり水分もとったことで元気を取り戻した薫那が答えた。

 

 「魔術でしょうね。ピラミッド内の約三十分は外では一日、外に出たら体は一日分のエネルギーや水分を消費する」

 

 薫那の推測では魔術により何時間もかけてようやく魔導書を見つけたところで外に出れば何日も経過しており瞬間的に餓死するというわけだった。

 

 「人間が飲まず食わずで生きられるのは三日間……かなり危なかったってわけやな」

 「その魔術をなんとかしないとアタシらは三十分くらいで魔導書を見つけて脱出しないとダメってことだな」

 

 トラップをなんとかするとは言ったものの何か策があるわけでもなく頭をひねってみるも薫那以外の四人は魔術の知識が豊富という訳でもないため全く浮かばない。

 結果的にはこの中では唯一魔術や魔導書の知識がある薫那に頼りきることとなった。

 

 「一応言っておくけどヒツギレベルのものを期待してるんだったらそんな期待は捨てるのよ?」

 「そこをなんとか頑張ってくれよ。俺たちも協力するからさ」

 

 遥は両手を合わせてお願いする。

 

 「たぶんあのピラミッドの中にある魔導書は呪いとかを得意とする闇系魔術について書かれたネクロマンサーズね」

 「なんで分かるんだ?」

 「他者の時間の流れに干渉するのは闇系魔術の専売特許よ。呪いってわかった以上はそれしか考えられないわ」

 

 呪い、その言葉に全員が口を閉じる。

 

 「呪いってなにか対処法はあるのか?」

 「お祓いでもしてみれば?」


 あっけらかんと適当に答える薫那を遥は軽く睨みつける。遥の視線に薫那は肩を竦める。

 

 「冗談よ。方法はヒツギの魔術を無効化する魔術か呪いを一時的に発動させないようにするかのどっちか」

 「どっちかとか言いながら一つしかないじゃねぇかよ。それでその一時的に抑える方法って?」

 

 薫那は軽く笑みを作って魔法陣を作り出しその中に手を突っ込んだ。

 取り出したのは一冊の羊が描かれた分厚い本、アルマデルだった。

 

 「呪いを一時的に消す薬を作る」

 「それって作るのにどれくらいの時間がかかるんだ?」

 

 ミンディの質問に薫那はアルマデルを開き書かれている文字を眺めながら少し考える。

 考えがまとまったのかアルマデルから目を離したが薫那の表情は良いとは言えなかった。

 

 「半年……以上です」

 「つまり、薬が完成するまでは三十分で探索をして探索には一日分の水分を摂取すると?」

 「そういうことになります」

 

 ミンディは大きなため息をつく。

 

 「呪いがどうのってのはなんとかなるとして、どうやってピラミッド内にある魔導書を見つけるかやな」

 「一日三十分の捜索でなるべく多くの情報を手に入れる必要があるな」

 

 途方もない作業をしなければならないことに全員の表情が曇る。そんな中、遥はすぐに表情を明るく戻す。

 

 「仕方ありませんね。気長に少しづつ探索していきましょう」

 「それもそうだな。二人一組で毎日交代で探索をするとしよう。チームはアタシと圭斗、遥とジャックでいいか?」

 「私は問題ありません」

 「僕も問題なしや」

 

 話がまとまるとジャックはパンと手を叩いて、白い歯を見せて笑う。

 

 「とりあえず全員水浴びをしましょう。オアシスを見つけたので皆さんかなり匂いますし」

 

 ジャック以外がギョッとして自分の体を嗅ぐ、確かに嫌な臭いがした。急いでオアシスへと向かい薫那とミンディは気で隠れた所へ、遥と圭斗は服を脱ぎ捨てオアシスへと飛び込んだ。

 

 「これからが大変そうだ」

 

 水に浮かびながら遥は呟く。

 

 ようやく途方もないピラミッド探索が本格的に始まることとなった。

第73話を読んでいただきありがとうございます。

第三十四話『雪原の幻』は8月10日に投稿するのでよろしくお願いします。

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