第71話『砂漠地帯』
キャンピングカーの準備を始め、任務に必要なものや作戦の話をまとめ四日ほどたちようやく任務を始めることが出来た。
巨大な輸送機にキャンピングカーを運ばせそれぞれの任務場所へと着いた。
ジャック以外がマントを羽織り、首にはスカーフを巻き、肌をほとんど見せていない状態で車から降りて辺りを見渡す。
空は恐ろしいほど青く、さっき自分たちを運んだ輸送機が黒い点となっていた。
「なかなかに暑い」
ミンディが呟く。
「おいジャック、ここから目的地までどれくらいかかるんだ?」
「途中クリーチャーやアンデッドに遭遇することも考えたら三時間ほどです」
キャンピングカーを運転するジャックが運転席の窓を開けて答えた。
ジャックの回答にミンディはサングラス越しに恨めしそうに太陽を睨みつける。
「皆さん、はよ車の中戻りましょ。こんな暑いところおったら死んでしまうわ」
圭斗に急かされキャンピングカーの中へと戻り、目的地に向かって車を走り出す。
この広い砂漠にポツンと一つだけ立てられたピラミッド。そこに魔導書と思われる魔力が微弱ながらも検知された。
「にしてもこんなわかり易いピラミッドをなんで今まで見つけられなかったんだ?」
遥の疑問に圭斗はオーバーなリアクションを取りながらも説明を始めてくれた。
「隊長さんは最前線で戦ってはったから情報交換も限られてる今じゃ知らんかもしれませんが世の中かなりやばいことになっとるんですわ」
胡散臭さを残しながらも引き込まれる話の上手さに遥はズブズブと引きずられ、圭斗の作る間に生唾すら飲んでしまった。
「世界中で天変地異が起きてるんですわ。最前線はヴァサゴのアジトや研究所なんかがぎょうさんあるのは知ってますよね?」
「あ、あぁ……小さな研究所ならいくつか潰したことはある」
遥は圭斗に頷きながら答えた。
「しかし、前線ではないところはそんなものは無いんでヴァサゴの望む世界へと変化を進めてるんってわけですわ」
「ヴァサゴの望む世界?」
遥の知るヴァサゴの目的は強い者との闘争を聞いていた。それと天変地異になんの関わりがあるのかさっぱり分からなかなった。
「天変地異はただの前フリに過ぎないってこと。目的は遥の知るとおり強い者との闘争だ」
横で聞いていたミンディが話に加わってきた。そして、三枚の写真をデーブルの上に並べた。
「師匠、これは?」
並べられた写真は軍服を着たクリーチャーと思われる男や突然変異を遂げた動物だった。
「ウイルスは選別のために行われたのは知ってるだろ?」
「感染してもアンデッドにならずにいられる人間を見つけるためですよね」
薫那の回答にミンディと圭斗は頷き、軍服のクリーチャーの男が写る写真を指さした。
「こいつは感染したがアンデッド化せずに超人的な力でヴァサゴを倒すために奮闘していた」
それを聞いて遥と薫那は目を見開いた。写真に写る男はどこからどう見てもクリーチャーの姿だった。
「この世界で感染していない人間なんて存在しない。化け物になるか超人になるか何も起きないか、その結果七割が化け物で二割は変化なし」
「そして、その残りの一割がヴァサゴの新たな動きに関わってくる。それを僕達は適応と呼んでいる」
天変地異は選別によって選ばれた任務が更なる高みへと進むため適応。
天変地異以外にもクリーチャーやアンデッド。様々な条件に適応するために体内にあるDB-ウイルスはさらに宿主の体を変異させる。
「それで適応できへんかった者はクリーチャーに、それも強力なクリーチャーになるってわけです」
「そして、そのピラミッドは最近地震で砂の中から出てきたんだ。これは推測なんだがヴァサゴは既に何冊か魔導書を持っている」
ミンディの予測ではこの天変地異でさえヴァサゴが魔導書を使い何かをするための前準備だとか。
「そろそろ目的に着きますよ」
運転席の方からジャックが声をかける。窓の外を見ると確かに巨大なピラミッドが近くにあった。
周囲を警戒しながらピラミッドの周りをぐるっと一周しようとしたがあまりの距離に断念し、キャンピングカーを適当な場所に止めておいた。
「こんなデカい物が今まで地面の中にあったなんて誰が信じれるんだよ」
キャンピングカーから降りた遥はピラミッドを見上げながら呟く。
「ピラミッドの中でもこれはかなり大きいほうよね。迫力がすごいわ……」
遥と一緒にキャンピングカーから降りた薫那も遥と同じように呟く。
「とりあえず、腹ごしらえしましょう。ピラミッドの中に入るのはそれからということで」
ジャックに急かされるようにキャンピングカーの中に戻り席に着くとジャックが食事を持ってきてくれた。
「保存食をそのまま出しても味気ないので私なりに少し手を加えてみました。お口に合うといいんですが」
「ほんまジャックは食事に関して面倒くさこともようやるわ。おかげで僕らは美味いもんが食えるしええんやけど」
並べられた食事を見て圭斗は嬉しそうに舌なめずりをする。
ジャックが持ってきた食事は少し良いレストランでなら普通に出てきそうな料理だった。
「ジャックの料理は美味いんだぞ?」
ミンディはそう言いながら鯖の味噌煮缶とじゃがいもを使った煮物にフォークを突き刺して頬張った。
「じゃあ、いただきます」
遥と薫那はミンディの食べた煮物を食べてみる。プロ並みの腕前を持つ健司の料理を食べてきた遥の舌はそこそこに肥えている。
「うま……」
「おいし……」
遥と薫那は漏れるように声を出した。
じゃがいもに染み込んだ鯖の旨味に味噌のほのかな甘みがじゃがいもの甘みと交わり舌に広がる。
キャンピングカー内の設備でさらに短時間でここまで味を染み込ませることが出来る腕前に驚いた。
ちゃんとした設備で作れば健司よりも美味く作ることが出来るのではないかと遥は考えた。
「お口にあったみたいでよかったです」
ジャックは白い歯を見せながら嬉しそうに笑う。
煮物以外にも何品か料理がありどれもこれも文句のつけようがなく美味しかった。
「ふぅ、ご馳走様でした」
賑やかな食事を終え、ピラミッドの中へとはいる準備をする。
「外の見張りは毎回交代するとしてまずは誰が見張りをする?」
遥が聞くとジャックが手を挙げた。
「私が残ります。車で近くにオアシスがないか探しておきたいので」
全員がそれに納得しジャックを残して目の前のピラミッドに向かう。
入口を見つけ出し中を除くと砂漠の太陽が照り付ける外とは違く、涼しく、薄暗く、数メートル先は見えないような場所だった。
一言で言えば気味が悪かった。
中へ吹き込む風が遥たちの背中を押した。それはまるで手招きしているようだった。
第71話を読んでいただきありがとうございます。
第72話『極寒地帯』は7月27日に投稿するのでよろしくお願いします。




