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第07話『期待』


 ボスと出会ってから数日がたち完全に回復した二人はボスに訓練所へ呼び出されていた。

 

 「まずはお前達が悪魔の技を使えるようにならないと始まらないからな」

 

 そう言ってボスは健司と遥に後ろを向くよう指示を出し、二人の背中に手を添える。

 その手からは人の体温とはまた違った力のような熱を少しだけ感じた。

 

 「あの、悪魔の技って一体なんなんですか?」

 「いい質問だ」

 

 遥の質問に嬉しそうに答える。

 

 「悪魔の技とは魔法のことを表す」

 「あの、楓樺って悪魔が使っていた黒い靄みたいなものですか?」

 

 健司は楓樺が使っていた黒い靄を思い出す。

 

 

 「いや、あれは魔法ではなく魔術と言い、訓練すれば一応は誰でも使える。魔法とは悪魔が個々で持って、その悪魔にしか使えないものなんだ」

 

 ボスはその言葉と同時に健司と遥の背中に触れていた手に力を込め、軽く二人の背中を押した。

 

 その瞬間に二人は体に強い電流が走ったような感覚に陥り、全身から力が溢れ出る。

 目には見えない二人のオーラが訓練所を満たす。ボスはそのオーラが予想以上だったため口角が上がってしまっていた。

 

 「なんだ、これは?」

 「力が溢れ出てるような……」

 

 困惑する二人。

 

 「それは魔力。魔法や魔術を使うためのエネルギーみたいなものだ。だが今みたいに大量に垂れ流しの状態だと――」

 

 ボスが言い切る前に健司と遥がその場にばたりと倒れ、訓練所を満たしていたオーラが消えた。

 

 「やはり、私の魔力を流し込み無理やり全身に魔力をめぐらせてみたが膨大なエネルギーを処理しきれなかったか」

 

 健司と遥を担ぎ、訓練所の端で寝転がせておき、その間に準備運動を始める。

 

 始めたのはシャドーだった。

 

 おぼろげな敵を目の前に攻撃を打ち続け、おぼろげな攻撃を避け続けた。そして、おぼろげな敵は二人になり、より鮮明になってゆく。

 そして鮮明になった二人の攻撃は動きも悪くキレもなく戦っている相手が素人の二人であることがボスの避け方から伝わる。

 

 そして十分、二十分と時間が経つにつれてシャドーの相手の二人の動きが良くなっていく。避けるだけでよかった二人の攻撃が、当たるはずのなかった二人の攻撃が手を使って受けなければならなくなり、希に体のどこかに攻撃がかする。

 そしてシャドーを初めて一時間が経った頃にボスの腹に二人の拳が打ち込まれた。鮮明になりすぎた二人の攻撃は痛みさえ感じさせた。

 

 「ここまで成長するとは……それにこれがまだ成長途中なのだから恐ろしい」

 

 ボスが痛む腹部を抑えながら呟くと同時に二人の相手の影は消えた。

 ボスはその場に座り込み多少荒れた息を整えながら端の方で寝ている遥と健司を見て軽く口角を上げる。 

 

 「楓樺の作ったタイムリミットは約三年。それまでにアイツらを育て上げないとな」

 

 ボスは立ち上がり眠っている二人を起こす。

 

 「おい、訓練始めるぞ」

 

 健司と遥は少し重たい体を起こしボスに言われるがまま訓練を始める。

 

 「訓練と言ってもわざわざ武術を一から教えるなんてことはしない。より実戦的に訓練を始める」

 「実践的にって一体どうするですか?」

 

 寝起きのいい遥がした質問にボスは嬉しそうに胸を張って話し始める。

 

 「武術における礼儀や作法、無駄とは言わないが今はそれは不純物。今必要なのは殺しの技だ」

 「殺しの技、ですか?」

 「そうだ、今から俺とお前達の二対一での組手をする。俺からクリーンヒットをとれたら次の訓練を始める」

 

 ボスは左手のガードを下げ、右手を頬の近くまで上げたボクシングのデトロイトスタイルにも似た構えをした。

 構えを取った瞬間にさっきまでの和やかな会話の空間ではなくなりピリピリとした緊張感のある空間へと変わった。

 

 健司と遥は息が止まりそうになった。

 

 「殺しにくる気で来い。じゃないとクリーンヒットどころかかすりもしないぞ」

 

 伝わる殺意。

 

 健司と遥は今すぐ逃げ出したくなったが歯を食いしばりファイティングポーズをとる。

 

 まずは健司が走り出しボスとの距離をつめ拳を出してみるが突然それは簡単に避けられる。しかし、そこで終わらず避けたボスの体制を崩すように遥が追撃するがこれも呆気なく避けられる。

 

 子供とじゃれ合うようにヒラリヒラリと攻撃を避け続けるボスに健司と遥はだんだんイライラしてきた。

 二人は目配せのみで意思疎通をして頷き、再びボスからクリーンヒットをとるために動きだす。

 

 すると二人の動きはさっきよりも良くなった。否、個人の動きが良くなったのではなく二人のコンビネーションがより確実になっていた。

 健司の攻撃から次の動きを見計らったように健司の影から遥が現れる。

 

 素人なだけあって攻撃自体にキレはなくボスはどんなコンビネーションが来ても避けられているがかなり厄介だった。

 

 この二人の攻撃にキレが生まれ戦うための力を手に入れ個々の力が自分を超えると思うとボスは喜びを通り越して恐ろしく感じた。

 そして、この二人の姿は成長速度こそ格段に遅いがボスがさっきまで戦っていたシャドーの二人にそっくりだった。

7話を読んでいただきありがとうございました。

8話は12時から13時までに投稿したいと思います。

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